魔族の王②
「ポヘ!?」
巨大な白い毛玉・ポヘは、主人であるフィーアを守るべく、彼女に覆い被さるように立ち塞がった。
以前、フィーアから聞いたことがある。ポヘの毛皮には魔法耐性があると。並の魔法攻撃では、彼に傷をつけることなど出来ないハズだ。だが、敵は魔族の王。彼の放つ魔法は並の威力などでは無い。
「キャイィィン!」
ポヘの悲痛な叫びが、火山地帯に響き渡る。それと同時に、魔王の魔法が勇敢なる毛玉の身を一瞬にして焦がした。
「……フン、邪魔が入ったか。まあいい。次は外さぬ」
倒れ伏すポヘの事など一切気に留めず、魔王は再びフィーアに狙いを定める。
しかし、相棒を丸焦げにされた彼女は、慌てた様子でポヘに駆け寄る。
「おい!大丈夫か!?……おいってば!」
普段から気丈な彼女が、目にいっぱいの涙を溜めながらぐったりとしている毛玉を揺する。だが、無情にも魔王の二の矢が彼女を襲う。
「くらえ!!」
「イツキ!フィーアを!」
「わかってる!」
俺の呼び掛けにイツキが答える。そして、彼女は間髪いれずにフィーアとポヘを掴むと、俺の近くへと引き寄せた。
「良し!
イツキが彼女らを救出したのを確認すると、俺は周囲に防壁を張り巡らした。その数瞬後。
『バチィィン!!』
強烈な雷撃が俺達を襲った。
「ほぅ。我の攻撃を防ぐか……ならば」
心底驚いたような魔王の反応。そして、それに続いて嵐の如き連撃が俺の防壁を襲った。
「ぐっ……。まだまだ!」
何度目かの攻撃。その衝撃を耐え凌いだ頃、魔王・ヌルはポツリと呟いた。
「フム。やはり遠隔では貴様の防御を穿つことは難しいか。……だがわかっただろう、フィーアよ。これが魔族の王に歯向かうということだ」
「…………」
魔王はそう告げると、底意地の悪そうな笑みを浮かべた。そして、ポヘを抱えながら肩を落とすフィーアの背を見ながら、満足そうに姿を消したのだった。
「おい、フィーア。大丈夫か?」
「……」
ポヘを胸に抱き、微動だにしないフィーアに俺は話し掛ける。だが、彼女からの返答は無い。
「聞いているのか?フィー……」
「ああ!もう!うっせえな!……今はコイツのことで手一杯なんだよ!早く治療してやらねえと……」
声を荒げるフィーアの言葉を遮るように、俺は彼女の肩に手をおいた。そして、仲間の一人を指差す。
「だから落ち着け。ソイツの治療はウチの
「はい!お任せ下さい!ささ、フィーア様。ポヘちゃんをこちらに!」
カタリナは力強く頷くと、ポヘに回復の魔法を施した。しかし、遠隔とはいえ魔王の魔法攻撃を正面から受けた彼のダメージは尋常ではなかった。一命をとりとめる確率はおそらく五分かそれ以下。だが、そんな分の悪い賭けにも、カタリナは手を抜くことなく懸命に回復の魔法を掛け続けている。そして、それを見守る俺達にはポヘの無事を祈ることしかできなかった。
「く……くぅん」
治療を始めてからしばらくして。ぐったりと横たわっていたポヘが鳴き声を漏らした。
「ポ、ポヘ!オメー、大丈夫なのか!?」
その様子にいち早く気付いたフィーアは、彼の元に駆け寄ると、その安否を確かめる。
先程まで死んだように眠っていたポヘも、目を覚ますと自身の無事を示すかのように彼女の顔をペロペロと舐め回した。
「わふわふ」
「う、うぅ……よかった。……って、
ポヘの放つ野生動物特有の臭いに、フィーアは思わず仰け反ると後方に倒れた。そのあまりの激しさに、俺は恐る恐る彼女の顔を覗き込んだ。
「お、おい。……大丈夫か?」
「おう!ありがとうな!その……本当に、ありがとう」
一筋の涙をこぼしながらそう言った彼女の顔は、今までに見せた戦闘狂のソレではなかった。
ただただ、友人の身を案じていた少女の屈託のない笑顔。その一瞬で俺は、四天王最強と言われた彼女の年相応な一面を少しだけ垣間見た気がしたのだった。
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