シャーデンフロイデ、激闘
『踏み潰してやろう!有象無象どもめ!』
起動時のゆっくりとした動きからは想像できないほど俊敏な動きで、シャーデンフロイデは足を振り上げる。そして、あっけにとられた俺達に向かって強烈なストンピングを繰り出した。
「散りなさい!」
イツキの呼び掛けに俺達は四散する。次の瞬間、『ズドン!!』という地鳴りにも似た轟音と振動が響いた。
「……なんという」
もといた場所に空いた巨大なクレーター。そのあまりの大きさに、その場の全員が息を飲んだ。
『どうだ!驚いたか?さあて、もう一発……』
「させません!」
真っ先に動いたのはカタリナだった。彼女は杖を掲げると、簡素な詠唱と共に魔法を放つ。
「拘束魔法『
『何!?』
幾重もの光の輪が現れ、シャーデンフロイデを捕らえる。そしてそのまま、ヤツの体を拘束した……かに思えた。
『……なーんてね!無駄なんだよバーカ!』
フロイデの心底人を小馬鹿にしたような笑いが辺り一面に響く。そしてシャーデンフロイデは、まるで飴細工でも扱うかの如くカタリナの魔法を引きちぎったのだった。
「そんな!?」
『無駄無駄!コイツの表面には魔法を無効化する処理を施してあるのさ!例えあの賢者・アインスでさえ、シャーデンフロイデに傷をつけることは敵わない!』
フロイデの言葉を聞き終わるや否や、今度はミアが臨戦態勢をとる。
お気に入りのポーチからダーツを取り出すと大きく振りかぶった。そして左足を踏み出しながら、腰、背中、肩、腕と全身をしならせる様にしてダーツを射出する。獣人ならではの精密さと膂力で、相手の急所を撃ち抜くシンプルな一撃。その名も。
「
ミアのダーツは、けたたましい風切り音と共にシャーデンフロイデの眉間に突き刺さった。
「へへん!どーだ!表面が効かないならダーツを突き刺して中から効かせてあげるよ!」
得意になってそう語るミア。だが、確かに刺さったかのように見えた彼女のダーツは、一拍おくとポロリとヤツの眉間から剥がれ落ちた。
「えぇっ!?」
「ククク、シャーデンフロイデのボディは僕の開発した特殊合金で作られている。そんな小さな針など、刺さるどころか傷一つつけることなど敵わない。どうだ?すごいだろう?」
確かに、正直フロイデの技術力は認めざるを得ない。あの巨体を相手に接近戦は無謀だし、だからといって魔法も飛び道具も無効化されてしまった。正直、打つ手がない。
「なんだい?次の手は無いのかい。じゃあ、もう終わらせようか」
「くっ!」
巨体に似合わぬあのスピードだ。いつまで避け続けられるかわからない。ならば、俺が守るしかないのはわかっている。だが、俺に止められるのか?あの攻撃を……。
「はーい。みんなこっちよー。焦らず順番にツヴァイの後ろに並びなさ~い」
「「「はーい!!」」」
「……って、何をしている!」
悩む俺の後ろには、いつの間にかイツキに誘導された仲間達が列を成していた。
「何って……アンタに守ってもらう為に集まってんのよ。何か終わりにするとか言ってるし、アイツ」
「いや、しかし。さっきのクレーターを見ただろう?軽い踏みつけであの威力だ。もし本気で攻撃してきた場合、俺に止められるかどうか……。やはりここはバラバラに逃げた方が生存率があがるのではないか?」
「大丈夫よ。アンタなら止められる」
ケラケラと笑うイツキに、俺は溜め息を漏らした。
「何を根拠に……」
「勘よ、勘。アタシの勘はよく当たる。アンタも知ってるでしょ?……それとも何?アタシの勘が信じられないって言うの?」
ズイっと不機嫌そうな顔を近付けるイツキ。思わずたじろいだ俺の肩をラウロンが叩いた。
「勇者殿はあんな言い方をしとるがの、要はツヴァイ殿を信頼しとるんじゃよ。勿論ワシらもな」
「信頼……」
「お主は今まで何度もワシらを守ってくれた。だからこそ、皆は何の疑問もなくお主の背後に隠れたんじゃ。きっとツヴァイ殿ならまた何とかしてくれるとな。……どうじゃ?ちと重荷じゃったか?」
「いや」
俺は小さく首を振る。
「望むところだ」
そうだ。俺は皆を守ると、強くなるとアインス殿に誓ったばかりじゃないか。それがあれくらいの敵で気弱になるなど……。
迷いの消えた俺を見ると、ラウロンはにこりと微笑んだ。
「良い目じゃ。……じゃ、とりあえずは任せたぞい。お主の守りはいわば反撃の狼煙じゃからの」
「よろしくー」
緊張感のない言葉と共にラウロンとイツキも俺の背へと回る。その様子を見届けたフロイデは俺へと呼び掛けた。
『相談事は終わったかい?』
「ああ。案外優しいんだな」
『なあに。キミたち四天王は正面から潰さないと意味が無いからね。じゃあ、いくよ?』
次の瞬間、シャーデンフロイデが一気に加速した。そして、思い切り地面を踏みつける。だがこれはあくまで、攻撃の為の予備動作だ。
俺達より遥かにデカイ鋼鉄の巨人が繰り出したフィニッシュブロー。それは、全体重を乗せた右ストレートだった。
「うおぉぉ!
負けじと俺も分厚い壁を展開すると、ヤツとの接触に備える。そして数瞬の後、最強を自負する矛と盾が激しく衝突した。
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