② イーシュ辺境伯ルート
重たいバッグを持って、向かった先にはーーー。
「お待たせ致しましたわ!」
「わざわざ城まで来てもらってすまなかった」
「いえ……!わざわざ遠回りしてもらう必要はありませんもの」
「そうか、なら行こう」
「はい!」
今日、ヴィクトリアは長期休暇をもらい、イーシュ辺境伯の屋敷に遊びに行くことになったのだ。
ヴィクトリアが辺境に行きたいと言うと「何もないぞ?」と眉を顰めて言われたのだが、自然も辺境の地にも興味はあるものの、ヴィクトリアの目的と言えば間違いなく……。
(イーシュ辺境伯のあんな姿やこんな姿を堪能して差し上げますわ……ウフッ、ウフフッ)
今回も下心満載である。
「僕も行きたい~」と半泣きなシュルベルツ国王と書類を抱えて鬼のような表情で「まだまだやる事がありますから」と、言って逃げないようにシュルベルツ国王の首根っこを掴んで引き摺っていくべジュレルート公爵。
ホセやココ、ゼル医師や料理長に見送られながらヴィクトリアは馬車から少しだけ身を乗り出し手を振った。
「とっても楽しみですわ!」
「…………あぁ」
「暫くお世話になります。一緒にあんなこと、こんなことを…………って、イーシュ辺境伯?」
「…………あぁ」
「あの……」
「…………あぁ」
「もしかして……緊張されていますか?」
「……………」
顔を窓の方へ向いて固まっているイーシュ辺境伯と視線が合うことはない。
しかしこの無言は肯定なのだろう。
暫く、イーシュ辺境伯の気持ちが落ち着くのを待っていると……。
「すまない……」
「え…………?」
「この年になっても、ろくに女性と、その……楽しく喋る事が出来ないんだ。リアムやワイルダーのように…………振る舞えればいいんだが」
気まずそうに呟くイーシュ辺境伯を見て笑みを浮かべた。
「とんでもありませんわ!わたくしにとって、イーシュ辺境伯が目の前に居てくれる。それだけで幸せなのですから」
そう言ってイーシュ辺境伯の手を両手で包み込むように握った。
しかしイーシュ辺境伯はすぐに腕を引いてしまう。
「す、すまない……!」
「……いえ」
怪我がないか確かめられるように握られる手は微かに震えているような気がした。
「イーシュ辺境伯……?」
「女性は細くて小さくて……少し力を入れるだけで傷付けてしまうような気がしてな」
どうやら女性に触れるは遠慮があるようだ。
そしてヴィクトリアの予想が正しければ……。
(ーーーわたくし今ッ、イーシュ辺境伯に女性として意識されているのね!!!)
それだけで嬉しくて溜まらない。
以前よりもずっと関係が進歩したからだ。
狭い馬車の中では逃げ場などない。
つまりはイーシュ辺境伯とグッと距離を縮めるチャンスではないだろうか。
「わたくしは鍛えてますし、丈夫ですから。それに思いっきり触れてみないと、いつまで経っても加減は分かりませんわよ!!?」
「だが……」
「わたくしが全て受け止めて差し上げますわ!!!」
鼻息荒くイーシュ辺境伯の隣に移動して肩にもたれると、ビクリと揺れる体。
黙り込んでしまったイーシュ辺境伯はキョロキョロと辺りを見回しながら挙動不審な行動を取っている。
二人きりで密室、逃げ場のない状況で焦っている様子を見てヴィクトリアは笑みを浮かべた。
「ふふっ、今日も可愛らしいですわ」
「情けない限りだ……!」
自分よりも大きく屈強な男が照れているのを見て、ちょっぴり悪戯したくなるのはヴィクトリアだけではないだろう。
ヴィクトリアはそっとイーシュ辺境伯の胸元に手を置いた。
勿論、イーシュ辺境伯に意識してもらう為の行動であるが、ヴィクトリアの心臓だって大暴走中である。
「わたくしだって、イーシュ辺境伯と二人きりでドキドキ致しますのよ?」
「………!?!?」
目に見えて分かるほどに真っ赤になった頬と大きく見開かれた瞳。
くしゃりと掻き乱した髪……小さなため息と共に、空気がスッと切り替わる。
逞しい体がグッと近づいた。
雄々しい香りと力強く腰を引き寄せる腕にクラクラと痺れてしまう。
「まったく……俺も男だ。分かっているのか?」
「…………はい」
「もう止められそうにない」
「……!?」
「ヴィクトリア、君が好きだ」
イーシュ辺境伯ルートend❤︎
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