第73話
「ーーー邪魔ばかりするなッ!!」
エルジーの大声が会場に響いた。
暴れるエルジーを押さえているのは婚約者のジェイコブだったのだ。
「エルジー!もうやめよう……!ダメだよッ!お願いだからこんな事をしないでくれ」
「離してッ!!離せえぇっ……!」
ボロボロとエルジーの頬から涙が零れ落ちる。
「もう終わりにするの!」「何もかも嫌」
そんな悲痛な叫び声に慌てて駆けつけた両親も呆然としている。
「お姉様もお母様もお父様も大っ嫌いッ!みんな大っ嫌いッ」
「エルジー!こんなところで恥を晒すのはやめるんだッ!!こっちに来い」
「公爵家のため公爵家のためって煩いのよッ!バリソワ公爵家なんて潰れちまえッ!!講師もみんな消えてなくなればいいのよ!」
そう叫ぶエルジーに、怒りで頭に血が昇ったのか父の平手打ちが飛ぶ瞬間……ヴィクトリアが間に入ると、ピタリと止まった手のひら。
真っ直ぐに両親を見つめたまま毅然とした態度でヴィクトリアは言い放つ。
「……おやめ下さいませ、お父様」
「今すぐそこを退くんだッ!」
「退きませんわ」
「ーーーヴィクトリアッ!!!」
父の声にもヴィクトリアは一歩も動くことはなく、エルジーの肩を抱くジェイコブの前に立っていた。
「それ以上、大声を出して恥を晒すのはやめて下さいませ」
「…………ッ」
「このような祝いの場で、騒ぎを起こしたことは許されることではございませんわ」
「だったら……っ!」
「ですが、わたくしもエルジーが言ったことに同意出来る部分もあります」
「何だと!?」
「自分達の理想を押し付けるのも結構ですが、行き過ぎれば心を蝕みます。わたくしとエルジーを見ていて、まだ分かりませんかッ!?」
ヴィクトリアの声に怒りがこもる。
父と母はヴィクトリアのまさかの反撃に怯んでいるようだ。
「わたくしは今までバリソワ公爵家の為に全てを犠牲にしてきました。それから解放されたわたくしと、今のエルジーを見て…………本当に何も思わないのですか?」
「……!」
「自分で毒を飲んでもいいくらいに追い詰められたエルジーを見て、話も聞くこともせずに押さえつけても何の解決にもなりませんわ」
「毒、だと……?」
「本当なの?」
「…………お、姉様」
「一旦、公爵邸に帰りましょう」
エルジーが服毒しようとしたと聞いて呆然とする父。
言葉が出てこない母と、驚いた表情で目を見張るエルジー。
これ以上はここで話すべきではないと判断したヴィクトリアは場を収めるために動き出した。
ジェイコブも「ヴィクトリア様、ありがとうございます……申し訳ありません」と言って頭を下げた。
先程までの頼りない表情とは違い、覚悟を決めたように顔を上げた。
『邪魔ばかりするな』そんなエルジーの言葉を思い出す。
もしかしたらジェイコブは、彼女が何かしないようにずっと目を光らせて未然に防ごうとしていたのかもしれない。
どうやらヴィクトリアの予想を裏切り、ジェイコブのエルジーへの愛は本物だったようだ。
「エルジーを公爵邸の馬車に連れて言ったら、父上に事情を話してくるよ」
「分かりました。宜しくお願い致します」
エルジーはジェイコブに支えられてフラフラと歩き出した。
横を通り過ぎる際に「……ごめん、なさい」と小さな声が聞こえた。
馬車でジェイコブを待っている間、馬車の中では沈黙が流れていた。
何故、今更エルジーを庇うのか。
それはヴィクトリア自身の為でもあるが、結局はジェイコブの件で、エルジーの思惑は未然に防ぐ事ができてヴィクトリアは最高の日々を過ごせた。
そしてエルジーは十分過ぎるほど罰を受けたと思ったのと、結局のところヴィクトリアには何の被害もないからだ。
どうやらイーシュ辺境伯、べジュレルート公爵と踊り、シュルベルツ国王陛下と話すのはお預けのようだ。
名残惜しい気持ちのままジェイコブを乗せて馬車は走り出す。
バリソワ公爵邸に五人で帰り、改めて今後のことについて話し合うことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます