第34話
ヴィクトリアは目をキラキラと輝かせながら、その様子を見ていた。
そしてすっかりヴィクトリアと共にいる事でヴィクトリアの性癖を理解しているココは、そんな姿を見ながら「ヴィクトリア様は相変わらずですねぇ」と笑っている。
「あの逞しい腕、見まして……!?素敵過ぎて蕩けちゃいますわ」
「ヴィクトリア様は欲望に忠実というか……いつも楽しそうで、元気を貰えますよ」
「うふふ、ありがとうございます!」
「ヴィクトリア様が城に居てくださるお陰で、淡々としていた城内が華やいで、明るくなったような気がします。初めは皆、ビックリしていましたが、今では侍女達も、ヴィクトリア様に良い刺激をもらっていますわ」
「まぁ……皆様のお役に立てたのなら、わたくしも嬉しいですわ」
こうして好き放題しているヴィクトリアに意外と寛容なところも本当にありがたい。
頑張って根回しした甲斐があるというものだ。
もっと苦労するかと思いきや、ゼル医師やホセ、侍女長や料理長など、仲良くなった錚々たるメンバーのお陰でスムーズに溶け込むことが出来たのである。
「今日、ヴィクトリア様はイーシュ辺境伯にお会いする事が目的なのですよね?」
「えぇ……!今日はイーシュ辺境伯にお会いして、機会があったら、べジュレルート公爵とも是非ともお会いしてみたいです」
「それはヴィクトリア様がよく仰っている"推し"というやつなのですか?」
「はい、そうですわ!下心はないと言えば嘘となりますが……皆様、わたくしのタイプですし素敵な推しで、神なのです!!!!!」
「そうですか…………無自覚なだけで意外と嫉妬深い方ですから、わたしは心配です」
「……???」
「いえいえ、此方の話ですわ」
頬を押さえて、フッと息を吐き出したココを見て首を傾げた。
訓練が一区切りついたのか、良い匂いに釣られて騎士達が集まってくる。
そして侍女服を着たヴィクトリアの顔を見てピタリと足を止める人達とヴィクトリアに気付かない人達とで反応が全く違っている。
ジェイコブの婚約者だった頃は、当たり前ではあるが城を何度も行き来していた。
しかし今では公爵令嬢としてではなく、侍女としてここにいる。
どう反応していいか迷うのも当然だろう。
「まさか、ヴィクトリア様では……!?」
「はい、そうですわ」
その言葉に周囲が「バリソワ公爵家の!?」「ジェイコブ殿下と……」と、ざわざわと騒ぐ声が聞こえた。
しかしヴィクトリアはそれに反応することなく笑顔で言葉を返す。
「皆様、お疲れ様です。冷たい飲み物と軽食を作ってまいりました」
「……作った?」
「一体、誰が……」
「ま、まさかヴィクトリア様が……!?」
「……そんな訳ないだろう?」
「わたくしが皆様の為に心を込めて作りましたわ!どうぞ遠慮なく食べてください」
「「「「「!!!」」」」」
皆が驚いて目を合わせる中、その言葉を聞いた騎士の一人が恐る恐るサンドイッチに手を伸ばす。
「う、うまい…………!」
それをキッカケに凄まじい勢いで減っていくサンドイッチに、こっそりとイーシュ辺境伯の分を皿に分ける。
こうしておけば、騎士達からのヴィクトリアに対するイメージも好感度も上がる事だろう。
そんな時、遠くからその様子を見ていたイーシュ辺境伯と目が合った。
汗を拭っているイーシュ辺境の姿を見て、大興奮しながらも柔らかい笑顔で軽く頭を下げてから、サンドイッチを持ち上げて見せる。
イーシュ辺境伯は目を丸くして、どうするべきか迷っているのか少し考えた後、此方にゆっくりと近付いてくる。
ヴィクトリアの視線はイーシュ辺境伯の首にかかった手拭いに釘付けになっている。
少し離れた場所で足を止めたイーシュ辺境伯の大柄な体と雰囲気に圧倒されてしまう。
(……す、素晴らしいわ!!!この圧倒的な存在感ッ)
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