第33話
「それにどうせシュルベルツ国王陛下の事ですから、昨日わたくしが居ないのをいいことに食事を抜いて仕事を片付けてしまおうと無理をなさってまだ起きて間もなくてココさんから紅茶を貰っているところではないでしょうか……?そしてまだ寝ぼけていた陛下のつぶやいた独り言をホセさんは伝えに来てくださったのでしょう?」
「「「「「…………」」」」」
ノンストップで話し続けているヴィクトリアに静まり返る厨房内。
目を丸くしていたホセはパチパチと拍手を送り、口を開いた。
「…………お見事です。ヴィクトリア様」
「ウフフ。だから今回は陛下には、わたくしの愛情がギュッと詰まったヴィクトリアの特製サンドイッチを届けて下さいませ」
「……!」
「わたくしに隠れて無理をした陛下にはお仕置きですわ」
ホセの表情を見るに、どうやら予想は的中したようだ。
ヴィクトリアから皿を受け取ったホセは小さく頭を下げた。
「フフッ、陛下によく伝えておきます」
「宜しくお願い致します」
「かしこまりました」
ホセは皿にクローシュを被せて綺麗にお辞儀をしてから去って行った。
洗練された動きは、何回見ても惚れ惚れとしてしまう。
ホセを見送ったヴィクトリアは何事もなかったかのようにサンドイッチを並べる作業を再開する。
「あのホセさん相手に堂々と……」
「ヴィクトリア様は何者なんだ」
「……あの頑固で偏屈な料理長だって」
そんな声が聞こえたが、ヴィクトリアが何者かと問われたら「イケおじを心から愛している枯れ専女子」である。
自分の推している者たちの為に尽くして、幸せになれるように応援して、彼らの喜んでいる笑顔を見る。
これ以上の幸せなど他にない。
「さて……」
サンドイッチを詰め終わったヴィクトリアはスッと立ち上がって大きく息を吸い込んだ。
「ーーーーー出陣ですわッ!!!!!!」
ヴィクトリアの大声と気合は、厨房いっぱいに響き渡ったのだった。
侍女長のココと数人の侍女達に手伝ってもらいながらサンドイッチを訓練場へと運ぶ。
「よくこんなに沢山作りましたね」という言葉に、ヴィクトリアは「国を守る為に頑張って下さっている皆様の為ですもの」と返事を返した。
しかし実際は、ヴィクトリアの心には下心が盛り盛りで、イーシュ辺境伯に会いたいが故の行動である。
今でもイーシュ辺境伯に会えるという高揚感で、誰よりも重たいワゴンを運んでいる。
訓練場に近づくたびに、剣がぶつかりあう音が響く。
気合いが入った激しい声に侍女達の肩が跳ねた。
ヴィクトリアはテーブルの上にサンドイッチを置いてもらい、手伝ってもらった侍女達に御礼を言ってからココと共に椅子に腰掛けた。
ワクワクした胸を押さえながら、ぐるりと辺りを見回した。
騎士達を見回りながら剣術の指導をしている一人の男性が目に入る。
(あ、あれが……イーシュ辺境伯ッ!!!!!??)
いかにも女性に怖がられそうな強面な顔に低く威圧的な声。
傷だらけの肌に、逞しくて太い腕とズッシリとした体つき。
無精髭に左目にある傷がなんとも堪らない。
ボサボサのシルバーの髪を適当に束ねてきた感じがまたいい塩梅である。
(オールバック、最高ッ!!!!!)
さらに素晴らしいのは動くたびに乱れて落ちてくる髪を掻き上げる仕草である。
そこに絶大な色気を感じて、ヴィクトリアはゴクリと唾を飲み込んだ。
鋭い黒い瞳を向けながら、的確な指示を出している姿から片時も目が離せない。
ヴィクトリアの記憶の中よりも、より雄々しく鋭いオーラを放つイーシュ辺境伯は想像を超えてくる。
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