二章 シュルベルツ国王編

第11話 シュルベルツ国王side1

六年前ーーー


此方から申し込むような形でヴィクトリアとジェイコブの縁談を提案した。

前王妃のリリアンは宝を三人も残してくれたが、ジェイコブを産んで直ぐに亡くなってしまった。

王位を継いで忙しくしていた為、随分と苦労を掛けてしまった。

それに気づいたのも、リリアンが亡くなった後だった。


彼女は弱音一つ吐くことなく、顔色一つ変えずに淡々と仕事をこなしていた。

だからこそ、そんな彼女に甘えてしまったのだ。

侍女達から話を聞くたびに自分を責めた。


何故、彼女にもっと寄り添えなかったのか。

気付いてあげられなかったのか、と。

結局、疲労や体調不良、出産と負担を掛け続けた体は耐えきれなくなり壊れてしまった。


(僕のせいだ……!彼女をもっと大切に出来ていたら)


リリアンの手を握りながら謝っていると、彼女は最後まで気丈に振る舞っていた。

『国王として、父として……立派に導いてくださいね』

そう言われて涙が溢れた。

死ぬ間際、声には出なかったけど彼女はこう言った。


『私を忘れて、幸せになって……』


最期まで彼女の優しさに救われたような気がした。


葬儀の時、鮮やかな花に囲われているリリアンを見て、涙が溢れそうになるのを堪えていた。

乳母に抱えられて寝ているジェイコブと、泣き噦るイライジャ、そして涙を流さずに毅然と立っているラクレットを見て、気を引き締めるような思いだった。


『僕はこの子達の為に何が出来るだろうか』


次の王妃を迎えることを勧められているが、もしまた負担を掛けてしまったら……。

自分がまた何も気付くことが出来なかったら……。

大切なものを自分のせいで無くしてしまうと思うと、誰かと結婚する気にはなれなかった。


成長していくにつれて、気が弱く人見知りなジェイコブが気になって仕方なかった。

そしてタイミングよくバリソワ公爵家の長女、ヴィクトリアが婚約者を探しているという噂を耳にして、直ぐに連絡を取った。

ジェイコブとは歳が離れてはいるが、バリソワ公爵は昔から王家を支えている古参の貴族故に安心感があった。


それに母親を知らずに育ったジェイコブは同じ歳の令嬢よりも、年上でしっかりとした令嬢の方が相性がいいのではないか……そう思った。

第三王子であるジェイコブが王位を継ぐ可能性は限りなく低い。

少し甘えた部分が目立つジェイコブにはバリソワ公爵家の厳格な部分が彼を成長させてくれる様な気がした。

ジェイコブに確認した後、すぐにバリソワ公爵に手紙を送った。


顔合わせをしてみと、ヴィクトリアは聡明で素晴らしい令嬢だった。

隙のないヴィクトリアの所作を見て、流石バリソワ公爵家の令嬢だと感心するほどだ。


しかし、そんな部分がリリアンと重なって胸が痛くなる。

目を背けてしまったのはそんな後ろめたさがあったからだろう。


けれど、同時に安心していた。

ヴィクトリアはリリアンのようにならなくて済む、と。


何年経ってもリリアンを失った傷は癒えることはなかった。

ラクレットはそんな気持ちを見透かしているのか、よく仕事を手伝ってくれている。


(父親としてもっとしっかりしなければ……)


そう思っているのに、なかなか理想通りにはいかない。


ヴィクトリアの感情が希薄な事が気掛かりだったが、無事に顔合わせが終わり、ジェイコブは「父上がそう言うのなら……」と、納得してくれたようだ。


しかし自分の考えが間違ってしまったのだと気付いたのは六年後だった。


ジェイコブがヴィクトリアの妹、エルジーを好きになってしまい、ヴィクトリアとの婚約を解消して、エルジーと婚約したいと報告を受けた後だった。

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