第10話
「では、わたくしから陛下にお願いがあります」
「……聞こう」
「シュルベルツ国王陛下はイーシュ辺境伯、べジュレルート公爵と幼馴染でいらっしゃいますよね?」
「え……?あぁ、そうだけど」
そう……何を隠そう、この三人は昔から仲の良い友人同士なのだ。
そんなところも最高に萌えるポイントだとは思わないだろうか。
三人が酒を酌み交わしているところや楽しそうに和気藹々と話している姿を壁画になって見守りたいと思わないだろうか?
(思うッ!!思うわ……!壁画が羨ましいっ)
妄想が行きすぎて変な汁が全身から吹き出そうになったヴィクトリアは、咳払いをして毛穴を引き締めた。
シュルベルツはヴィクトリアの言葉が予想外だったのか、その言葉を聞いて大きく目を見開いた。
「それは、つまり……?」
「えぇ……そういうことですわ」
「まさか……」
「…………」
「だが…………君はまだ若いし聡明なのだから別の令息や、それこそ隣国の王族だって」
「えぇ、陛下が何を仰りたいのか……わたくしよく存じております」
「なら……!」
困惑するシュルベルツ国王に、今こそヴィクトリアの本当の願いを話す時だろう。
「ここで陛下にだけ、わたくしの秘密をお話し致します」
「ヴィクトリアの、秘密?」
「えぇ……実はわたくし」
「…………?」
今こそ、シュルベルツ国王に攻め込むチャンスだと判断したヴィクトリアの行動は早かった。
ヴィクトリアはここの空気を堪能するように大きく息を吸ってからカッと目を見開いた。
「ーーーーわたくしは……ッ、わたくしよりも一回りも二回りも年上な男性が死ぬほど好きッ!えぇ、もう大好きなのですわッ!!!!」
「……!?」
『人形令嬢ヴィクトリア』と呼ばれていたヴィクトリアの印象が変わった瞬間だろう。
そのあまりの熱量にシュルベルツ国王は仰け反っていた。
「勿論、わたくしは陛下も狙っております!!」
「ヴィクトリアが、僕を……?」
「正直なところ、今回も下心満載で陛下の元に参りました!」
「あ…………うん」
「ダメ元で申し上げますが、わたくしを娶る気はございませんか!?」
「!?!?!?」
「わたくしが今まで培った知識ならば、少しは陛下の役に立てると思いますの!もしもわたくしの手を取って下さるのなら絶対に損はさせませんわッ!」
勢いのまま立ち上がり、シュルベルツ国王の元へと向かう。
机にバンっと手を置くのと同時に顔を近付けた。
(こんなチャンス、二度とないかもしれない!!誰にも邪魔されない今こそ攻めるしかないのよッ!!)
しかし……この猛攻でシュルベルツ国王に女性として意識してもらおうとしていたヴィクトリアに予想外の出来事が起こる。
「……随分とお転婆さんなんだね、ヴィクトリア」
「ーーー!?」
スッと立ち上がった国王がいつのまにか此方側へと移動したかと思いきや、優しい笑みが目の前にあった。
クイッと顎を持ち上げられて手袋越しに伝わる体温。
腰に添えられる大きな手のひらに力が篭る。
悪戯に細められた瞳に見つめられると一瞬で顔から火が出そうな程に赤くなった。
「フフッ、可愛いね」
優しく髪を撫でられて、ついには思考がオーバーヒートである。
「……………」
「でも、大人を揶揄うのはやめなさいって……あれ、ヴィクトリア?」
「……………」
「あっ……もしかして僕、やり過ぎちゃったかな」
「……………」
「おーい……困ったな。誰かー!誰か来てくれ」
意識を失って、ぐったりとしたヴィクトリアを抱えながら、声を聞いて慌てて部屋の中に入ってきた執事のホセに侍女を呼ぶように指示を出した。
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