第8話
上機嫌なヴィクトリアとノリノリの侍女達。
バリソワ邸ではヴィクトリアに課せられた役割から解放されて、今までの我慢してきた時間を取り戻すように楽しみ始めた、と話題であった。
今まで模範的で面白みもなく地味なヴィクトリア。
しかし『人形』と呼ばれるだけあり、本当にヴィクトリアは魅力的で美しいのである。
そんなヴィクトリアを前々から着飾りたいと思いウズウズしていた侍女達の着せ替え人形のようになりながら、毎日おしゃれを楽しんでいた。
「まるで、お人形に魂が吹き込まれたようですわ」
「ヴィクトリアお嬢様は本当にお美しい……うっとりしてしまいますわ」
「ウフフ、自分でもびっくりしちゃうわ!あ、髪飾りはこれなんてどう?」
「まぁ!可愛らしい」
「きっとヴィクトリアお嬢様に似合います!」
侍女達はノリがよく、苦しむエルジーを横目にヴィクトリアは楽しみまくっていた。
ヴィクトリアが羽目を外して楽しんでいる姿を見て、両親も思うところがあったのだろう。
何をしても大抵、黙認している。
「ありがとう~!やっぱり年上の男性に好かれるには清楚で、ちょっと色気のある感じがいいわよね」
「完璧ですわ!」
「ヴィクトリアお嬢様は何を着ても似合うんですもの!私たちも楽しいですわ」
「フフッ、わたくしもみんなのお陰で毎日が楽しいわ!リップはもちろん……」
「「「「ピンク」」」」
「アハハハ」
「最高よ~!」
今まで何の音もなく静かだったヴィクトリアの部屋は、笑い声に満ち溢れていた。
その様子をエルジーが憎しみを込めた瞳で眺めていたとも知らずに……。
* * *
そしてヴィクトリアは下心満載で馬車に乗り込んだ。
清楚の下に隠しきれない下心。
(……はぁ、た・の・し・み)
薄水色のドレスは胸元の露出はありつつも、薄付きのメイク、緩く髪を巻いて年上が放っておけないような危なっかしい雰囲気と憂いを帯びた表情……。
(フフッ…………完璧)
自分の息子がヴィクトリアの妹に惚れたことにより、婚約を解消することとなり立場を奪われたともなれば、同情を誘うには十分だろう。
性格が悪いのは百も承知であるが、己の欲望を満たす為ならヴィクトリアはどんな事だってしてみせる。
(イケおじの為ならば、たとえ火の中、水の中……ッ!)
滴りそうになる涎をジュルリと手の甲で拭いながらも、馬車に揺られながら高鳴る胸を押さえていた。
(はぁ…………やっと生シュルベルツ国王陛下に会えるのね!!)
表向きは悲しげに……けれど心の中では盛大なカーニバルが開かれていた。
これまたヴィクトリアが大好きなイケおじの執事に案内されながら、大きな扉の前に立って深呼吸をする
「……ヴィクトリア・バリソワ。参りました」
「あぁ、入ってくれ」
「失礼致します」
口から飛び出しそうな心臓をなんとか押さえながらも、俯きながら一歩、また一歩と足を進める。
緊張しつつゆっくりと顔を上げた。
豪華な椅子と書類が山積みになっているテーブル。
そして……美しいディープブルーの髪はセンターに分けていて、後ろは短めの清潔感のある髪型。
ブルーグレーの透き通った瞳はヴィクトリアと目が合うと猫のように細められる。
この麗しい男性こそ、この国を束ねるシュルベルツ国王である。
(ーーーアアアアアアァアアアッ!!)
背後からは後光のように太陽の光が窓から差し込んでいる。
よく見ると働き詰めだったのか、目元の隈とあっちこっちに跳ねた毛先。
美しさの中にも、可愛さが詰め込まれていてトキメキが止まらない。
小皺と小皺を合わせて大きな幸せ……無意識に手と手を合わせていた。
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