第5話

趣味部には休日活動というのはないらしい。まあ、その分いつも通りにバイトに励めるからありがたい。

「いいぃぃらっしゃいませええぇぇ!!」

俺の隣のレジには物凄い声量で客寄せをするジョーの姿があった。能力が無意識に発動してしまうのか、軽く人だかりができていた。


バイト終わり、更衣室で着替えをしていると、ジョーと出くわした。

「お疲れ、S!今日もご苦労なこった!」

「あ、ああ、お疲れ様、ジョー」

「なあ、S、そろそろバイト代が入るし、都会に遊びに行かないか?」

突然のジョーの提案に少し考え込んだが、、、

「ああ、構わない。どこに行く?」

「東京のゲーセンとか、後は服とか見にいこうぜ?意識の高い俺は遊ぶ場所も妥協しないのだ!がっはっは!」

ああ、いい。こういう交友関係に憧れていた俺には新鮮で、どこか温かみのある時間、、、

「おい、お前ら、そろそろここも閉じるからさっさと出て行けよー?」

「はっ、す、すみません店長!行くぞ、S!」

気付けば20分以上経っていた。その後も帰り道で話し合い、俺たちは休日を利用して東京に行くことになった。


俺は今日も学校への道を行く。そんな中、、、

「おはようございます、N君」

「お、前田か、おはよう」

前田に会った。

「突然ですがN君、君は、、、」

前田は小声で俺に告げる。

「能力を隠し持っていますね?」

「!?」

一瞬驚いたが、前田の能力があれば容易いだろう。

「ああ、そうだ。磁力をある程度操作する能力を保有している。まあ能力の内容もお前には分かってただろうがな」

「ええ、でも君の口から聞きたかったのです。これで安心しました、あなたは信頼できる人です。自らの能力を自分から明かしてくれたのですから。それはそうと、星梅半君にも能力がありますね?もしかしてN君は何か知っているのですか?」

「?あいつ、お前たち趣味部の古参には話してなかったのか?」

俺はジョーの能力を解説する。

「ふむ、彼、どうやら本当に仲が良くならないと能力を教えてくれないようですね。なら、彼自身から話を聞けるようになるくらい仲良くなって見せますよぅ!」

「お、おう、、、」

これで良かったのか?とも思ったのだが、まあ、みんなの仲がより良くなるのなら問題ないか、、、


放課後、、、

「皆さん、今日も集まってくださってありがとうございます。全員揃ったことですし、早速、、、」

前田はいつも通り無駄に大きい模造紙を広げる。小柄な彼と対比するとより大きく見えた。

「直君のランニング、だね!それじゃあ、レッツゴー!」

俺たちは2、3分で外に出たが、直は10分以上かかった。移動も一苦労なようだ。

「済まない、みんな。待たせてしまったな」

「気にするな、直!お前は悪くないぞ!むしろ気遣ってくれてありがとうな!」

ジョーは直を励ます。心なしか直の顔色も良くなってきたように見えた。

「、、、待て、冷静に考えて思ったんだが、直のランニングってどうやってやるんだ?」

「あ、、、」

俺の一言でその場にいた前田以外の全員が固まる。

「な、なあ、やっぱりやめよう。俺が普通の人のように運動するなんて、、、」

直の否定的な意見をぶった斬るように前田がドヤ顔で語る。

「ふっふっふ、きちんと事前に対策は考えていますとも!ここは建物が多いビル群、障害物も多いから線君も移動しやすいはずです!」

「おー!」

俺たちは歓声を上げる。

「それじゃあ早速、、、」

直が腕を振り、足を上げる。

「消えた、、、直はどこだ?」

一瞬で消えた直がまた一瞬で戻ってきた。

「、、、済まない、俺、やっぱり走れない。動くと一瞬で突き当たりまで行ってしまうから、ジョギングは出来ない、、、」

直は心底悔しがっていた。俺はその表情をしっかりと覚えていた。


その日の夕方、、、

「直、元気出せよ」

部室の隅でうずくまる直に声をかける。

「み、みんなは優しすぎるんだ。俺なんかがいくら頑張ってもなんの役にも立たないし、むしろみんなの足を引っ張ることになる。今回の一件でそれが改めて分かったよ」

「そんなことない、誰もお前を責めたりしない。そんな奴がいたら俺たちがとっちめてやる」

「あ、ありがとう。N、お前もいい奴だな、、、」

俺は直を励ましたくて色々考えた。そして、、、

「こっちだ、直!」

直を連れてビルの屋上にやって来た。

「どうだ、この夕日は?ここはいい景色が見られる絶好のスポットなんだ。周りのビルより頭一つ抜けて高いからな」

「ああ、いいな、、、」

一緒に夕日を眺めていた直の目からは涙がうっすら溢れていた。こいつ、普段は無表情なのに意外とは感情的な一面もあるんだな。

「、、、なあ、直。お前の能力はきっと何かに活かせるはずだ。それを一緒に考えていこう!」

「、、、ああ、ありがとう、N!お前のお陰で元気が出たよ!」

俺たちは10分ほど夕日を眺めてたわいもない会話をするのだった。

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