第106話 威圧
王軍の前に立つ前に三人の将軍に会う。
「お初にお目にかかります。王軍第三軍の軍将レボリア・バロン・ド・リーブと申します」
「同じく王軍第五軍、リーク・カウント・ド・ベルメル」
「同じく第八軍、アースター・バロン・ド・ストライクです」
三人とも既に出陣準備を整えた完全武装で俺の前に立っていた。
神眼で三人のステータスを確認したが、やはり実力で選ばれているのがよくわかる。
純粋に強くレベルが高い、もしくは指揮官系のスキルを持っている。
だが、三人の俺を見る目がどこか疑わしいという感じだ。それも仕方がないことだ。
なにせ俺はまだ12歳である。
いくらオリオン家の人間とはいえこんなガキが俺らの大将かよ、というような雰囲気である。
王命もあるし、俺が西部でバドラキア軍を撃退した話は聞いているのだろうが、それでも目の前にするとやはり怪しいという感じだ。
彼らは生粋の軍人だから指示には従ってくれるだろう。あとは……実力示すだけだ。
俺は今まで抑えていた魔力をゆっくり体外に排出する。
「初めまして。私の名はレイン・デュク・ド・オリオン。オリオン家の嫡男です。この様な若輩者に指揮されることに不満を持っていらっしゃる方もいるでしょう。ただ……」
さらに魔力を放出する。地面が少し揺れ、小石がカタカタと音を立て始める。
前にいる三将も異変に気付いたのだろ。目を見開きこちらをみつめている。
「私の命令には従っていただきます」
さらに溢れ出た魔力によって地面が少しひび割れを起こした所で一気に魔力を抑える。
このパフォーマンスで俺が尋常成らざるものだと気付いだはずだ。
三人とも背筋を伸ばしながら三者三様に俺を見ている。
「それと、こちらは私の従者、スクナと申します。レベルは52。火魔法はレベル9まで扱えます」
「火魔法がレベル9!?」
「レベル52だと? そのなりでそんな馬鹿な!」
「いくら何でもそれは……」
三人の中で唯一魔法レベルが高い、補助魔法のスキルをもつレボリアが叫ぶ。
他の二人もスクナのレベルに驚きを隠せないでいる。
「事実ですよ。鑑定石を使っても構いませんが今は時間がありません。北部の……恐らくラッツ平原あたりで帝国軍とぶつかるでしょうから、早めに布陣し待ち構えましょう」
「か、畏まりました。し、しかし、今のお言葉、偽りございませんか?」
「ええ、オリオン家の名にかけて」
はっきりと目を見返し断言すると、三人は一度目配らせし、次の瞬間、ビシッと敬礼をする。
「「「ポルネシアに勝利を!!!」」」
ーーラッツ平原にて。
軍を展開し終えたポルネシア軍は北から攻めてくる帝国軍を待ち構えていた。
「報告! 帝国軍、確認致しました!」
「来ましたか。兵数は? それと率いている将は誰でしょう?」
「はっ! 兵数、およそ五万! 敵将は帝国六魔将、風のウィンガルド、それと……」
そこまで言うと斥候が言い淀む。しかし、意を決して続きを報告する。
「それと、闇のフレッグスです」
「何だと!?」
フレッグスの名前を聞いた途端、レボリアが椅子を蹴飛ばしながら立ち上がる。
「フレッグス……、あのフレッグスですか」
「ええ、レイン魔導将。あの、フレッグスです」
帝国六魔将の一人、闇のフレッグス。
別名、死霊王フレッグス。今でこそガルレアン帝国にて六魔将という地位についてはいるが、元々は小国の生まれであった。しかし、禁術と呼ばれる死霊術に手を出し、その材料として生きた人間を多数扱った事により国を追われ、帝国に流れ着いたのだ。
そこでも繰り返し残虐行為を行なっていたが、帝国の皇帝の目に留まり、その闇魔法の強さを見込まれ六魔将となった。
そして、フレッグスが率いる軍には必ずと言ってもいいほど付いてくるものがある。
「だとすると、ゾンビ兵がいますね?」
「はっ! 先程の五万とは別にポルネシア王国の民と思われるゾンビ兵が多数目撃されております。数は最低一万五千!」
「一万五千……」
ゾンビ。
ファンタジー小説や漫画、ゲームでは定番の死んだ人間や動物、魔物のガワを被った魂なき虚な存在。
この世界でもゾンビは存在する。深夜になると何処からともなく現れ、生きた人間を襲う魔物の一種として認識されている。
しかし、平時において、ゾンビはそれ程脅威とは認識されていない。
何故なら、通常のゾンビはとても弱いから。死後、数週間立たないと死体はゾンビ化せず、腐り切った肉体故、筋力は生きていた頃よりも遥かに弱まり、足も遅い。
しかもゾンビ対策として、死んだ人間は燃やしたり浄化の魔法を使ったり聖水をかけたりする為、その数もかなり少なくなっている。
だがしかし、フレッグスが扱うゾンビ兵はそんな雑魚魔物とは訳が違う。
死んだその日に魔物化したフレッグスのゾンビ達は生きていた頃とほぼ同等、それどころか生存本能や肉体のタガが外れ生きていたとき以上の強さを発揮する。
フレッグスが出陣した戦場は地獄絵図と化し、ゾンビ兵が敵兵を殺し、殺した兵がゾンビ兵となり元の味方を殺していき、その殺した兵がゾンビとなる。ゾンビによるゾンビの連鎖。
そんな凄惨な戦場となるのがフレッグスの戦い方だ。
ポルネシア王国でも第一級の危険人物としてマークしていた人間だ。
「魔導将」
リークが座ったままこちらに顔を向ける。俺はその視線に頷く。
「ご安心を。ゾンビやスケルトンは私の敵ではありません。さぁ、皆さん配置についてください!」
「「「はっ!」」」
ポルネシア北部ラッツ平原にてーー。
帝国軍五万とポルネシア王国軍三万が向かい合っていた。
だが、その間にはボロボロの服を着た異質な人間だったもの達が呻き声を上げながら虚空を見つめて立っていた。
「フィッツ伯爵、レーンバルト男爵、アーギュルト子爵……」
虚空を見つめるゾンビ達の中には北部で時間を稼ぐ為に寡兵で帝国軍に立ち向かった勇気あるポルネシア貴族達もいた。
「彼らの無念は必ず私が晴らします」
兵の士気も上々。攻められて国が滅亡の危機というのもあるが、子どもであってもオリオン家の人間が率いてくれているというのは彼らにとっても誇りのようだった。
すると、向かい合った帝国軍から、一騎の騎馬が旗を持って向かい合うポルネシア軍に近付いてきた。帝国からの使者である。
そして、こちらに充分に近付くと声を張り上げる。
「ガルレアン帝国六魔将が一人、ウィンガルド・ドュチェス・ウインド様より貴国の勇敢なる兵士達に提案がある! 降伏せよ!」
その使者の言葉に俺は眉を顰める。怒っているのではない。今更なんだ、何が狙いだという疑問である。
俺だけではなく、ポルネシア兵全員が疑問に思う中で使者はさらに続ける。
「目の前の帝国軍、そしてゾンビ兵達を見よ! 数の差は歴然である! 更にこちらにはかの六魔将の二人、英雄級の魔導使い、風のウィンガルド様と闇のフレッグス様がいる! はっきり断言しよう! そなたらに勝ち目はない!」
確かに数の差で言えば倍以上。そこに英雄級の魔導使いが二人もいるとなれば勝率は絶望と言っていいだろう。
「寡兵で我らの前に立ち塞がった勇気は認めよう! もしここで降伏するのであれば、わが主、ウィンガルド・ドュチェス・ウインド魔将軍の名にかけて命の保証はする! 勿論ゾンビにはせず後に解放することを約束しよう!」
安全は保証しないと。この場の命だけ保証されてもしょうがないだろ。
冷ややかな目で見る俺の前で使者は更に声を張り上げる。
「しかし、もしも我らの前に立ちはだかると言うのであれば、貴様らに待っているのは死んでなお苦しむ地獄を味わうことになるだろう!」
そして俺達をぐるりと見渡す。
「返答は如何に?!」
ポルネシア兵が一斉にこちらを見てくる。
それに対する俺の返答は単純だ。
「焼いてあげなさい」
「はっ!」
俺の言葉を聞いたスクナが即座に魔法を唱える。
魔法を唱え終わるとスクナの上空に細い円柱の槍が現れる。
レベル7火魔法「
そしてスクナは上げた手を真っ直ぐに使者に下ろす。
加速度的に速くなっていく
舞い散る火の粉と砂埃が収まると、そこに立っていたのは軽装の男。渦巻く暴風が、こちらを射抜くような眼光が。その男が只者ではないことを表していた。
そして使者の代わりにその男が声を張り上げる。
「最後の警告だ! 降伏せよ!」
始まる。そう確信した俺も声を張り上げる。
「全軍! 防御陣形!」
目の前で行われた魔法戦に少し動揺したポルネシア兵達も俺の声を聞いて即座に配置に付き長槍を構える。
こちらの行動を見た男は諦めたように手を挙げる。
そしてそのまま真っ直ぐに下げる。
「「「ウォォォォぉぉぉぉぉ!!!」」」
悍ましき怨嗟の声を響かせながら帝国のゾンビ兵が進軍を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます