第13話 因果応報
入学早々、伊依君という予想外の存在に驚いた。
でも私には芳虎君という心強い彼氏が居ることを思い出した。
もし伊依君に関わることになっても、前のように彼が、芳虎君がなんとかしてくれると。
この後の学院生活もカッコいい芳虎君との充実した学園ライフになるだろう。
入学式の時まではそう思っていた。
そう、そのはずだったのに……。
最近、素っ気ない事が多くなってきてたけど、険悪になるほどではなかった。
なのに、どうしてこうなった?
放課後、帰り道で突然切り出されたのだ。
「紗栄里……他に好きかな人が出来たから別れてくれ」と。
彼の周りに女子が多かったのは確かだけど、この短期間でそれらしい女子なんていなかった。
私も牽制もしていたし。
だからこそ、その言葉は青天の霹靂だった。
「そっ、そんな、いきなり酷いよ。私は芳虎君のこと本当に大好きなんだよ」
思いがけない言葉に対し、私は咄嗟に涙を浮かべて縋ってみた。
一年近く付き合っていたのだ、仮に好きな人が出来たとしても情は残っているはずだから。
「いや、済まん。その人は俺に彼女が居ることを知っていてな二股は許さないみたいなんだ」
二股という言葉に胸がチクリと痛む。
「でも、その人芳虎君のこと本当に好きなの? 私よりも、芳虎君のこと大切に思ってるっていうの?」
私も芳虎君を好きになった時、前のカレシ……伊依君を直ぐに切ることは出来なかった。
彼も本当に好きな人だったし、彼が私のことを好きでいてくれている事も分かっていたから。
「俺が誘った時に彼女が居るのを知っていたくらいだからな、そして、わざわざ二股を指摘したってことは、二股にならなければ付き合うってことだろう」
「へっ?」
私でも芳虎君の方から誘われた事なんて無いのにと思いつつ、その時のやり取りを見ていないので断言は出来ないけど、そういう意味ではないだろうとは気付いた。
「えっと、ちょっと待って、それって私と別れても付き合ってくれるわけじゃないと思うよ」
「はぁあ、なに言ってるんだ。断る理由が二股になるなら、その原因を解决すれば、俺の誘いを断るわけないだろう」
無駄にイケメンでモテてていただけに妙な自信だけはあるみたいだ。私と別れればその意中の相手と付き合えると思っているらしい。
「ねえ、もっとちゃんと考えてよ。芳虎君のことを私より好きな女子なんていないから、お願い別れないでよ、その望むなら何だってしてあげるし」
私は精一杯の感情を込めて芳虎君を見つめて訴えかける。少し上目遣いで。
「はぁ、こうなったからハッキリ言うけどさ、俺って人を好きになったことないんだ」
そんな私に芳虎君は思いがけない言葉を浴びせかけてきた。でもその言葉の意味を考えると当然の結論にたどり着く。
「それって私も?」
私の震える声に芳虎君は無慈悲に頷く。
「そんな嘘よ、私は貴方と一緒に居たいからこの学校にしたんだよ、アナタに尽くしてきたのに……こんなの酷いよ」
そう、芳虎君と付き合うために伊依君とだって別れたのに、いまさら好きじゃなかったっだなんて酷すぎる。
「別に俺から頼んだことなんてないだろう」
そんな私に追い打ちをかけるように冷たい言葉が芳虎君の口から飛び出す。
そんな、こんなの私がしてきたことが全て無駄になるじゃないか、折角イケメンで周囲にも自慢出来る彼氏が出来たのに……。
「いやだ、いやだ、いやだよー、お願い、お願いだから捨てないでよ、やだよ芳虎君」
もう、計算など関係なく、惨めでみっともなくても私は無様に芳虎に縋り付く。
しかし芳虎君はそんな私が目に入らないかのように語りだす。
「なあ、俺が初めて本気で好きになった相手なんだ。紗栄里が、それこそ本当に俺のことが好きなら応援してくれるだろう、だからここは俺のために別れてくれ頼む」
「そんなの、そんなのって無いよ」
「はぁ、分かった。じゃあ俺を応援してくれない紗栄里なんて嫌いだ。だからこれで終わりな」
なんの未練もなく告げる芳虎君。
私は溢れる涙と惨めさに打ちひしがれる。
本当にどうして、こうなったのだろう。
あんなに好きだった伊依君と別れてまで手に入れた絶大なイケメン彼氏のステータスが消え失せようとしていた。
ああ、こんな事ならあの時。
「……伊依くん」
思わずこぼれ出た名前に何故か芳虎君 が反応する。
「なんだ、知っていたのか。なら、俺のことを応援してくれれば友達ではいてやるからな。ただ、これからは彼女面して気安く話しかけてくるなよ」
そう言って彼氏だった芳虎君は私の前から去っていった。
そして元カレとなった東元芳虎が好きになった相手が同じ元カレだった伊依君だと知ったのはその後だった。
私は裏切って手に入れた相手を、裏切ってしまった相手に図らずも奪われてしまったのだ。
しかも、相手は男の子だというのにだ……それを知ってしまった私は、完全に女としてのプライドを打ち砕かれてしまった。
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