再会
ダンジョンに行く? 行かない? どっちなんだい? い~く!
ということで、あの二人組の科学者が少し気になったものの俺は一人でダンジョンに訪れていた。
今日は特にここには来ないつもりだったのだが、やはりやることがないとここに足が向くのは仕方ない。
「少し、Bランク階層にでも行くか」
里帰りという意味も込めて、俺はしばらく籠っていたBランク階層へと訪れた。
Sランク階層やAランク階層の奥と違い、この階層には本当に多くの探索者たちが訪れている――彼らは必死の形相で魔物たちと戦い、魔物を倒すことで満面の笑みを浮かべるように心から喜んでいる。
「……あ」
ただ、そこで俺はある光景を目にした。
学校で見たことがあるようなないような……そんな薄らとしたものを感じさせる生徒がピンチに陥っていた。
うちの学校は人数が多いのであいつを見たことがあるか、いやなかったかなとなるのも少なくないのだが、確実に知り合いではないのは確かだ。
【魔弓】発動
ピンチに陥っている生徒は三人……あれ、なんだかデジャブを感じるなと思いつつ俺は迫りくる魔物たちを魔力の矢で貫いた。
(あ、あれだ……勘違い野郎を助けた時じゃないか)
俺が助けたのに魔物が倒されたのは自分の隠された力だと、そう豪語してパーティのメンバーに呆れられたあいつだ。
思えばあいつの顔も最近は見てないけど果たして何をしているのか……あれはあれで濃いキャラだったから覚えてるんだよな。
「な、なんだ……?」
「魔物が……」
周りに集まっていた魔物が全て消え去り、唖然とした様子で彼らは周りに視線を向けている。
俺は彼らに接触をすることなく、奥へと進んでいった。
Sランク階層ともなると一瞬の油断が命取りになり、更に怪我もすれば刹那を悲しませていることは分かっているので気を抜くことはないが、この辺りともなると気を楽にして歩くことが出来る。
「……?」
ふと、後ろを見た。
誰も居ない……しばらく歩く……そしてまた後ろを向く……誰も居ない。
「……………」
いや、誰も居ないなんてことはないはずだ。
俺には気配察知のスキルもあるし、戦い続けた経験もあって特に背後に何かが居る気配に関しては敏感な自信がある。
後ろを振り向いて誰も居ないのは確認しているが、こんなにも何度も振り向く時点で気になる以上は何かある――それは間違いのないことだ。
「よっと!」
なので少しばかり、俺は行動に出ることにした。
一気に駆け出すことでBランク階層の奥に突き進むように駆け抜けていく……その途中で何度も探索者たちと出会ったが、俺の速度に彼らは一切目を向けることはなく目の前の魔物という脅威に手一杯だった。
(付いてきてるな……誰だ?)
速度はそれなりに出ているので、この速さに付いてくれる時点でかなりのやり手であることは確かだ。
ただ……この感覚は覚えがある。
それこそ最近感じたことのある気配だ――しかしそれがあり得ないことは分かっているので、その考えは一旦頭から省いた。
「どこまで付いてくる?」
とにかく走り続けた。
やはりこの階層に蔓延る魔物は俺からすれば弱く、ただ移動するだけでも俺の動きに付いてくることは出来ないほどだ。
そうして駆け抜ける中、どれだけ走っても背後の気配は離れない。
しつこいぞと文句を言いたくなっても、振り向けばすぐに気配は消えてしまい正体を知ることも出来ない。
「……これ、かなりの曲者だな」
新手の悪戯かよとため息を吐きそうになる半面、これほどにしつこく追いすがってくる実力というのは油断ならない。
俺はとにかく一瞬すらも気を抜くことなく、ある程度開けた場所までやってきた。
そこにはこの階層のボスの一匹とも言うべき巨大な魔物が座しており、そいつは俺を見つけて高らかに雄叫びを上げた。
「久しいな……オーガ」
人間なんて目ではないほど、それほどの体の大きさを持つオーガ――ただ俺にとって倒すことは容易い相手である。
背中に気配を感じる中、俺は矢をオーガに放つ。
魔弓のスキルによって縦横無尽に動き回る矢を、やはりオーガは最後まで目で追うことは出来ず、脳天から矢の直撃を受けて地に沈んだ。
「呆気な……くはないみたいだな」
どうやらこのオーガはかなりしぶといらしい。
大量の血を噴き出し、頭が体から離れたと思えば、その頭だけが独立したように俺に向かって飛んできたのである。
俺は指先を動かし、まだ残っている矢の残弾をその頭に撃ち込むつもりだった。
しかし、どうも背後に居た存在には俺が全く動かないことで反応出来ていないと判断したようだ。
ピカッと背後が光ったかと思えば、強烈な光線がその頭を包み込み灰へと変えた。
「……なるほど……って、なんで?」
今の攻撃には覚えがあった。
そして何より、流石にあり得ないだろうと省いた可能性の一つ……まさかと思って俺が振り向くと、今度こそその姿を視界に収めることが出来た。
そいつは優雅に純白の翼をはためかせていた。
相変わらず長い前髪で目元は見えないが、それでも薄らと除く深紅の瞳が俺を見つめている――そう、天使だ。
「……何してんだよ」
「とくに……なにも……」
以前に比べてカタコトじゃなくなったか……?
なんてことを思ったが取り敢えず、なんでここに居るんだと俺が聞きたくなったのは仕方のないことだ。
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