改めての誓い
「……よく寝てるな」
夜に目が覚めてしまい、俺は咄嗟に隣の刹那を見つめた。
あんなことがあったからか妙に刹那のことに関して心配症になっている気がするけど、それも仕方ないなと苦笑する。
ギュッと俺の手を握りしめる刹那の手を解き、俺は部屋を出た。
「……涼しいな」
まだ夏を完全に通り過ぎたわけではないが、今日はやけに涼しい夜だった。
「……天使ねぇ。次から次へと話題に事欠かないな」
とはいえ、笑い事では済まされない。
時間としては既に深夜の2時を回ってしまったが、まあ明日に響かない程度に戻るとしよう。
俺はジッと月を見上げながら、手の平に相棒を呼び出した。
何も音を立てずに最初からその場に居たんだと思わせる相棒……淡く光るその刀は俺にとって幾度となく可能性を示して助けてくれた。
「なあ相棒――相棒ならやれるか?」
あの時は流石に意識していなかったのでそのまま天使を斬ろうとしたが、もしも相棒の力を全力で発揮した場合、刹那と天使の間にあるであろう何かを切り裂くことは可能だろうか?
いや出来る……出来ないわけがないと思いたい。けれど、もし万が一にそれが出来なかったら刹那を傷付けることになる……それが本当に怖いんだ。
「……?」
その時、一瞬相棒が強く輝いた気がした。
大丈夫だと、思いっきり刀を振るえとそう言われた気がして俺は笑みを浮かべ、いつもはそこまで触ることのない刀身を指で撫でた。
「そうだな。相棒はいつだって不可能を可能にしてくれた……なら、今回も同じことをするだけだ――あの天使を斬る……いや、そうしなくても刹那との間にあるかもしれない繋がりを斬ることが出来ればそれで良い」
改めて方針が固まりスッキリしたため、俺は部屋に戻った。
刹那はしっかりと深い眠りに入っており、俺が離れたことに気付いていないようで安心した。
少し前にあったけど、俺がトイレに行くために離れただけでも目を覚ましてしまうことがあったから。
「よっこらせっと」
可能な限り気配を殺し、さっきと同じように刹那の隣に横になった。
しかし、そこで刹那の寝息のリズムが変わったことに俺は気付いた。チラッと横目で彼女を見ると、刹那はしっかりと目を開けて俺を見つめていた……どうやら起きていたようだ。
「起きてたの?」
「うん。あなたが起きた時からずっとよ」
「……マジかよ」
そいつは悪かったなと、俺は謝った。
大丈夫と言って刹那は身を寄せ、そのまま仰向けで寝ている俺の胸に彼女は自身の頭を置いた。
ドクンドクンと静かに鼓動する心臓の音を聞くように、耳を澄ませながら刹那は言葉を続ける。
「瀬奈君のことだもの。色々と気にさせてしまっていると思ったから」
「それは――」
「分かってるわ。そんな風に思ってくれることを嬉しいと思った……大変だと考えてくれているのにも関わらずね」
「……ま、考えるよな」
「えぇ。あなたを独占出来ることに喜びを感じるの……嫌?」
「まさか」
そんなことあるわけないと、俺は笑って彼女の頭を撫でる。
しばらくそうしていたら30分も経過してしまい、流石にそろそろ寝ようかと俺たちは再び寝るための姿勢に戻る。
「こうしてさ。ずっと何も心配事なく刹那と過ごせれば良いんだが……」
「そうね。ねえ瀬奈君」
「うん?」
「私たち……探索者じゃなかったら出会わなかったのかしら?」
「……う~ん、たぶんそうじゃない?」
おそらく探索者でなければ接点は生まれなかっただろう。
仮に刹那が探索者でなかったとしたら上流階級というか、そういった道の方に進んでいたと思うので、田舎者の俺が彼女と出会うことはなかったはずだ。
そう考えると探索者というのは大変なことは多いものの、これのおかげで彼女と出会えたと言っても過言ではない。
「それは嫌ね。探索者になった自分に感謝だわ」
「あはは、そんな風に言われるとどういう顔をすれば良いのか分からないっての」
「笑えば良いんじゃない? ニコニコって」
「……可愛い」
ニコニコって……そう言った時の笑顔にまた俺は心臓を撃ち抜かれそうになった。
刹那の可憐な部分にドキッとするのは今に始まったことではないため、俺は照れながらも堂々と刹那から視線を逸らすことはしない。
こうしていると彼女の方が照れてくれるかと思いきや、彼女が照れるようなことはなく逆に段々と顔を近づけてキスをしてきた。
「……刹那は照れないね?」
「照れるわよ。今だって顔が赤いし、時間が遅くなかったら誘ってるし」
「……おう」
「でももうダメ。明日も学校だし今度こそちゃんと寝ましょ?」
「そうだな」
誘うつもりだったって嬉しいことを言ってくれる彼女さんだよ本当に。
その後は軽く話をした後、俺たちはしっかりと眠ることに――一応明日もダンジョンには潜るが、いつも以上に気に掛けることは増えてしまったので、寝不足で必要な時に動けないなんてことは避けなくてはな。
(刹那……俺は必ず君を守る。もちろん自分だけで抱え込むようなことはしない。それを君は望まないから)
本来であれば、刹那に危険が及ばないように動くのが一番なんだろう。
彼女のことを思えば天使のことを考えてダンジョンに連れて行かない方が何よりも正しいはず……でも、それをすると俺たちが俺たちでなくなる気がする。
だからこそ、俺は刀で未来を切り開くだけだ。
たとえどんな邪魔が入ったとしても、必ずこの事態を終わらせてみせる。
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