出会う二人
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! うちのママンが丹精込めて育てた野菜ですよ美味しいですよ! あ、そこのお姉さん! 御一ついかがっすか!」
「あらお姉さんだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃないの! このナスビとキャベツをいただける?」
「毎度あり~!」
……おかしい、サプライズで母さんに会いに来たのになんでこうなったんだ?
母さんは知り合いの店で野菜を売り出しているのだが、その売り子というか呼びかけを何故か手伝うことになってしまった。
(……まあ、偶には悪くねえか)
その後、俺は母さんと一緒に野菜を売り切ることが出来た。
「それにしても数ヶ月……本当に久しぶりじゃないの」
「だな。ただいま母さん」
「おかえり瀬奈」
……うん、やっぱり良いなこういうのって。
少しふくよかな体格ではあるものの、顔立ちは雪に似て美人だとは思う。
まあ少し太っていることに関しては俺や雪が元気に過ごしていることで幸せ太りしたんだと自信を持っていたし、母さんも自分の体格に関してはむしろ喜んで受け入れていた。
「瀬奈が居るってことはもう鏡花さんの娘さんも?」
「居るよ。雪と楽しく過ごしてるんじゃないかな」
一応外に出てくることは二人に伝えているので心配はかけていない。
というか、刹那にも聞いていたけど母さんは鏡花さんと名前を呼び合うほどに仲良くなったみたいだし、自分の親が親しくしている友人の親と仲が良いのはこっちも嬉しい気分になる。
「当たり前だけど、私はまだ娘さん……刹那ちゃんの顔を見たことがないのよ。雪も写真を見せてくれないし……ほら、あなたが刹那ちゃんと写真を撮ったアレもまだ見てないのよ?」
「へぇ……ということはすっげえ勿体ぶられているわけだ」
「そうなのよ! 鏡花さんも是非間近で見てほしいって自信満々だし……ここまで来たらそれは気になるってものよ」
鏡花さんもきっと楽しそうに話をしたんだろうな。
親の贔屓目は多分にあるだろうけど、鏡花さんがそう言うくらいに刹那は凄い美少女なので、これは母さんがどんな風に驚くのか楽しみだ。
「ちなみに瀬奈はどう思ってるの?」
「まああれだな……こんな美人な高校生が居るのかってくらいには」
「あら、あなたがそこまで言うのね」
誰だって刹那を前にしたらそう言うと思うけどね。
「もちろん雪だってすっげえ可愛いぞ? あの子はもう特別だ」
「当たり前よ。私の娘でありあなたの妹よ? 可愛くないわけがないでしょ」
「……だよなぁ!?」
「そうよねぇ!?」
ガシッと、俺と母さんは腕を組んだ。
雪のことになると俺と母さんはこんな風に馬鹿になることもしばしばで、それはある意味で雪が病気になった時期があったからというのもある。
俺も母さんも雪に関しては過保護だが、まあ可愛い妹を大事に思うのは兄貴として当然なんだ。
「……ちょっとドキドキしてきたわ」
「俺のクラスメイトに会うだけだって」
「そうだけど……というか、よく泊まりに来ることになったわね? 思えば向こうでのあなたの友達を連れて来るってことで簡単に許可を出したけど、最近の高校生はそうなの?」
「いや……まあなんだ? 刹那とは本当に仲が良いっていうか……とにかく、雪とも会いたいって言ってたから」
そんなやり取りをしていたらすぐに家に戻ってきた。
まだ夕方というわけでもないのでもしかしたら、母さんたち女性陣で夕方まで会話が盛り上がるかもしれないな。
(そうなると俺が暇になるけど……ま、眺めても良いし寝ても良いし)
母さんが玄関を開けて中に入ると、雪がまずリビングから現れた。
そして、刹那も続くように姿を見せ母さんがポカンと口を開けて固まった。
「は、初めまして! 皇刹那と申します! お母さま、お会いしたかった……え?」
「……おい、母さん」
肩をトントンと叩くと母さんは我に返り、慌てたように返事を返した。
「っ……こほん! 聞いていた以上の美人さんで驚いてしまったわ。初めまして、時岡
「あ、はい! よろしくお願いします!」
どうやら刹那も少しだけ緊張していたようだ。
母さんも緊張と感動の嵐だったみたいだが、母さん以上に緊張している様子の刹那を見て大人の余裕を取り戻したらしい。
とはいえ、母さんの固まり具合から刹那の美少女っぷりに放心したのは俺の予想した通りだった。
「改めて良く来てくれたわね。息子とも仲良くしてくれているようで……あなたのお母さんからも色んな話を聞かせてもらっているわ」
「いえいえ、私も母から聞いています。その……お酒の誘いだったりとか、うちへの招待とか結構無茶を言ってませんか?」
「確かにパワフルというか、あまり接したことのない人ではあったの。でもその口ぶりからは刹那ちゃんのことを思う優しさを感じたのよね。だから私も、彼女と同じ母として楽しくお話をさせてもらったわ」
和やかに話をする二人を眺めていると雪が俺の腕を抱いた。
「おかえり兄さん」
「おう」
「なんというか……思った通りすぐ打ち解けたね」
「だなぁ。これはもしかしたら話が長くなるかもしれんな」
「それも良いと思うけどねぇ。その間は私が兄さんを独占するもん♪」
さよかと、俺は雪の頭を撫でるのだった。
こうして刹那と母さんが出会い、我が家での賑やかな一週間が本当の意味で幕を開けることになったのだ。
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