もうすぐ夏休み
「うおおおおおおお歌うぜええええええ!!」
「行くぞおおおおおおお!!」
「私も歌っちゃうぞおおおおお!!」
「わ、私の歌をきけえええ……なんて」
騒がしい……あまりにも騒がしすぎる!
夏休みを前にして真一たちいつもの面子とカラオケ店に集まり、一学期お疲れ様会という名目で打ち上げをしていた。
俺たちの前に並んでいるのはお寿司やポテト、たこ焼きといったあまりにも組み合わせとしては頭の悪いメニューが並んでおり、これこそ学生が食べたいものを片っ端から頼んだという並びである。
「美味しい……わね。うん……最高じゃない」
「……………」
もはや俺たちの一員として違和感なく混ざり込んでいるのが刹那だ。
元々俺たちだけでこの集まりは計画されていたが、教室に来ていた沙希がダメ元で刹那を誘ったところ、快く頷いてくれてここに加わった。
「刹那……さっきから手止まってなくね?」
「良いじゃない美味しいんだから……この炙りサーモン最高よ。それにこの中トロに関しては文句の付けようがないわ」
「……ま、たくさん食べてくれや」
国民的アニメを四人で歌う真一たちを見つめながら、俺もポテトを次から次へと食べていく。
隣の刹那を見ていると寿司が欲しくなったので手を伸ばそうとすると、彼女が皿を渡してくれた。
「ありがとう」
「良いのよ」
次に、しょうゆを取ろうとしてまた刹那が渡してくれた」
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんな息の合った流れと共に寿司をいただいた。
俺と刹那が今は食事に手を付けているものの、彼らの分はどうかと心配する必要は意外となかったりする。
一応全て食べるつもりだが、6人でも少し多いかなというほどなのだから。
「……ふぅ、本当にこの賑やかさは良いわね」
「偶には良いだろ?」
「偶には……そうね。でもこんな騒がしさをずっと堪能できたのが羨ましいわ」
「そっちはそうじゃないのか?」
そう聞くと刹那は頷いて色々と話してくれた。
「私はそんなつもりはなくて良いって思うんだけど、ほとんどの人は私の顔色を窺うように静かなお店を選ぶから」
「へぇ」
全部が全部そういうわけではなく、ちゃんと年頃の子供たちが集まる騒がしい店にも行くことはあるようだが、比率的には静かで上品な場所が多いようだ。
本当に今更だけど、刹那は日本を代表する皇グループの令嬢だしな。
「ま、基本的に俺たちは騒ぎまくってるからなぁ。これからもしょっちゅうこういう集まりはあると思うし、その度に呼んでも大丈夫そうか?」
「っ……うん! 是非お願いするわ!」
こんなやり取り、前もやった気がするのは気のせいか。
それから俺と刹那も彼らと入れ替わるようにして歌ったり、思いの外パクパクと食べる刹那に俺以外のみんなが驚いたりと……そんな楽しい時間を過ごした。
大人が集まる宴会のような騒がしさは最後まで続き、カラオケ店から出る頃には何人かの喉が死んでいたのがうるさくしすぎた代償だ。
「楽しかったわとても」
「お疲れ様だ」
まだまだ元気が有り余っている真一たちは次なる店に向かったが、俺と刹那はそんな彼らと別れてのんびり歩いていた。
特に何かを話すでもなく、二人肩を並べて歩いているだけだが妙に心地が良い。
俺たちの間は静かだけど、周りはまだ少し賑やかで……そんな中、チラッと刹那に目を向けると彼女も俺を見ていた。
「あ……」
「……っ」
そしてどちらからともなく視線を逸らす。
居心地の良さと妙な気恥ずかしさ、けれどもこの空間が終わってほしくないと思い始めていた。
「……え?」
っと、そこで俺たちが通りかかったのはあの写真撮影をした店だった。
タキシードを着た俺とドレスを着た刹那が並んでおり、あの時のことを明確に思い出せるものだ。
まあ忘れた時はなかったけれど、それでもこうして目にすると感慨深い。
刹那はともかく普段の俺とかなり顔が違う部分もあるので、意外と気付かれていないのは嬉しいのか悲しいのか……。
「この時の写真あなたももらったでしょ?」
「え? うん」
「私ね? 自分の部屋に飾ってるの。縁起が良いと思わない?」
「……そうなんだ」
「そうなの。部屋に……っ!」
途中まで言いかけて刹那はハッとするように口を閉じた。
俺は大切に保存しているのだが、まさか刹那がそのまま部屋に飾っているとは思わず驚いた……いや、驚きよりもそうなんだという嬉しさがあった。
「こ、この辺でお別れだな」
「う、うん! そうね!」
それから刹那に背を向けて寮まで歩き出す。
ただ……俺はそっと振り返り、刹那に声をかけようと思ったら彼女は足を止めてこちらを見ていた。
「……あはは」
「……ふふっ、考えることは同じみたいね?」
全く持ってその通りだなと俺たちは笑い合った。
「夏休みになったらすぐに実家に向かうけど、日程の調整とか――」
「大丈夫よ。いつでも行けるように予定は一切入れてないから」
「……準備万端じゃん」
「雪ちゃんに絶対に行くって言った以上はどんなことがあっても守らないわけにはいかないでしょ?」
「……だな。ありがと」
「お礼を言われるほどじゃないわ」
そうしてやっと、俺たちは別れた。
刹那が実家に来てどんなことになるかは分からないが……探索者なんてそうそう居ない地域だし、俺としても久しぶりなので新鮮な日常が待っているはず。
「楽しみだな」
刹那と一緒に里帰りもそうだが、母さんや雪に会えるのはやっぱり最高に楽しみだった。
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