どう思っているのだろうか

 俺の弟子……というと少し違うかもしれないが、隆盛が全ての力を発揮した模擬戦が終わって数日が経過した。

 Fランク探索者のイベントということもあってか、それ以上のランクの探索者にはこういうことが起きていたんだということすら伝わることはなかった。


『ありがとう瀬奈君……その、僕頑張れたよね』


 その言葉に俺はもちろんだと頷いた。

 流石に俺も刹那も自分のことを考えればそう長く外に居るわけにもいかず、一戦の活躍だけを見て俺たちは演習場を後にした。

 その日の放課後に隆盛と落ち合ってその後のことを聞いたのだが、あの戦いで完全に疲れがピークを迎えてしまい次の戦いは呆気なく負けたようだった。


『僕にとって最高の経験だった……本当にありがとう』


 何度も何度もありがとうと彼は言ってくれた。

 ただ、探索者として素晴らしい時間を過ごせたのは間違いないと言っていたが、それはある意味で自分の限界も知ったらしく、高校を卒業して大学に進学したら普通に働くために頑張るらしい。


「……ま、それもあいつが出した答えだもんな」


 探索者のことを嫌いになったわけではないので、ある意味で円満な決意だった。

 隆盛は将来探索者を辞めるものの、俺にとっても彼と過ごした時間は決して無駄なものではなかったので、しっかりと連絡先も交換してこれからも純粋な友人として仲良くすることになった。


「ふふっ、最近とても機嫌が良さそうね」

「まあな」


 友人が増えるというのはとても良いことだ。

 ただ単に仲良くなるだけならこんなことはなかったけど、あんな風に戦いを教えるという形なのはある意味で特殊な事例だ。

 だからこそ、こうして刹那に指摘されるほどに俺は満足感を抱いていた。


「瀬奈君が色々教えたら他の人もあんな風に成長するんじゃない?」

「それはどうだろうな……まあでも、流石にあんな経験はもうないだろ。つうか、もし結果が出なかったら申し訳ないって気持ちになるのが怖いからさ」

「なるほどね……なら私はどう?」

「え?」


 刹那が自分のことを指差して言葉を続けた。


「私も武器は剣だし、瀬奈君には教わる部分は多いのよ。私よりも剣術のレベルは上だし、文句なしにあなたの方が強いもの。だから教わることは多いかなって」

「……なるほどな。でも刀と剣は似ているようで全く違うと思っているし、型が崩れたりするかもだからおススメは出来ないな」

「そう……残念ね」


 隆盛の場合は極められていないからこそ出来たことだ。

 刹那の場合は既に戦い方は確立されているし……まあ、刀も剣も特に違いはないかもしれないが、流石に彼女レベルになると気軽に俺が教えてやるとはならないのだ。


「は~い。お待たせケーキよ」

「ありがとうございます」

「どうも」


 須崎さんが持ってきてくれたケーキを楽しんでいると、そろそろ目前に控えた夏休みに関して刹那がこう言ってきた。


「ねえ瀬奈君。そろそろ夏休みだけど約束は覚えてる?」

「え? ……あ~実家に来るって話?」

「えぇ。雪ちゃんには絶対に行くって言ってしまったし……でも瀬奈君やそちらのお母さまはどうかしらって思ってて」

「俺はあの時言ったのが全てだよ。母さんも雪が話してるだろうし安心して……って実家に女の子呼んだことないから俺の方が色々気にする方だぞ」

「……そっか。私が初めてなのね」

「そこまで仲の良い子は居なかったからな」


 それだけ昔の俺はモテるような人間じゃなかった。

 今がモテるという表現とはまた違うけど、刹那みたいな綺麗な子と仲良くはなれたわけだが……まさかそんな子を実家に連れて行くことになるのは予想していなかったしな。


「でも良かったわ。一応こっちも母と父の許可は取ってるの」

「なら安心だ」

「えぇ……その、父に関しては母が無理やり納得させたんだけどね」

「……なんとなく想像出来る」


 覚馬さんは俺のことを信用してくれているようだけど、やっぱり相手が誰であれ刹那のことになると親バカな顔が出てくるようだ。

 万が一はないと約束は出来るし、そこは雪の希望を叶える意味でも納得してもらったのはありがたい。


「瀬奈君の実家にお邪魔するなら何か贈り物を買っておかないと……」

「それこそ気にしなくても――」

「ダメよ。第一印象は大事なんだから! それに、私より母の方が絶対にお土産は持って行けって言うだろうしね」

「仲良くなったみたいだしな」

「言っとくけど、かなり気が合ったみたいよ」


 それは俺も母さんから聞いていた。

 一体俺と母と鏡花さんが出会うのはいつになることやら……なんてことを話しながら刹那との時間を楽しみ、辺りが暗くなった段階で俺たちは店を後にしようとした。


「ねえ二人とも、良かったら今日はここで夕飯を済ませない?」

「え?」

「須崎さん?」


 突然の提案に俺たちは驚いたが、そう言えばここは夜もやっていたなと思い出す。

 俺としてはどっちでも良かったが、許すならもう少し話でもしようと刹那に誘われたことで須崎さんの提案に頷いた。

 須崎さんの作ってくれる料理はとても美味しく、話も上手なので刹那と一緒にずっと笑わされていた。


「ところで瀬奈君? 刹那ちゃんと本当に仲が良いけれど、付き合ったりしているわけじゃないのよね?」

「付き合ってるように見えます?」

「仲の良すぎる友達に見えるし、友達でなければ恋人同士にも見えるけど」

「……………」


 以前も思ったけど刹那のことは確かに魅力的な女性だと思っている。

 ……悪く思われてはいないはずだし、もしかしたら刹那とそういう関係になれる未来もあるのかなと思うと少しワクワクするのは確かだ。

 ただ、こうやってそういうことを考えると彼女の花嫁姿を思い出す。


「あら、何の話をしているの?」

「え!?」

「あら刹那ちゃんおかえり」


 鏡花さんとの電話で席を外していた刹那が戻ってきた。

 顔を赤くしていた俺のことが気になったようで、色々と聞いてきたが何とか彼女の質問を躱していく。


「もう教えなさいよ!」

「ちょ、近い! 近いから!!」


 俺たちのやり取りを須崎さんはずっと笑って見ていた。

 ……俺、刹那のことをどんな風に考えているんだろうな……なんてことを、その日はずっと刹那と別れてから考えていた。

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