噛み合いすぎてる関係性

 それはとある機関での会話だった。

 二人の青年が見つめているの大きなモニターで、そのモニターに映るのはとある学生の情報だった。


「……ふむ、以前のケースと同じか」

「みたいですねぇ。新手の病気かと思いましたけど、どうもそうではないようです」


 モニターに映る生徒、そこには千葉と神崎……そして複数の生徒だった。

 その生徒たちに共通しているのは瀬奈のロストショットによってその運命を変えられたという事実がある。

 そう、この青年たちは少年たちの身に起きた異変について調べていた。

 現状で魔力の結節点については傷つけることは出来ても破壊することは出来ない、それは詳しい人間なら誰もが知っていることだ。


「あり得ないと思いますよ? 探索者としての可能性を見出すスキル、それをわざわざ破壊するスキルが発現するなんて聞いたこともない。そもそも、全てのデータがここには集まるんです――隠すのは無理だ」

「そうだな。たとえ隠蔽スキルがあったとしても見抜くことが出来る……ただ、その隠蔽に関するスキルが高レベルの物だとしたら?」

「……それはまああり得るかもしれませんが、限りなく低い確率でしょう。そもそもがさっきも言ったように、結節点を破壊するスキル自体が存在するかも怪しいのに」


 現状において、高レベルのスキルで確認されているのはほとんどが戦いに活用できるものが多く、隠蔽出来るスキルも見つかってはいるが低レベルが多い。

 確かに高レベルの隠蔽スキルを持っている者が存在する可能性も捨てきれないが、まあ実際には瀬奈という実例が居るもののそこまでたどり着けてはいない。


「まあ良い、これからも注意深く観察するのは必要だ。もしもこれが人工的な手順で行われているのだとして、もしも全ての探索者を脅かす可能性があるのだとしたら対処はせねばならん」

「……ま、そうですねぇ」


 そして男が端末を操作し、新しいページが現れた。

 そこには千葉や神崎たちが直近で出会い会話をしたであろう者たちが全て記録されており、当然のことながら瀬奈の顔写真も載っていた。


「……なんつうか、パッとしねえ顔が多いじゃねえか」

「何言ってんですか。こんな日陰の場所でこういうことをしている俺たちの方がもっとパッとしないっすよ」

「それを言うんじゃねえよ」


 ロストショットを扱う瀬奈に辿り着くことは困難だろうが、少なくとも瀬奈の行動によって気にする大人が現れたのも事実だ。

 探索者を脅かす者を放っておけない、それが今の会話から窺い知れるがどうもそれだけではないようだ。


「探索者を牽制出来る力を持った存在……これ以上心強いものはないだろ? 神輿として担ぐことで抑止力になる」

「でも逆に狙われるでしょそれ」

「そうなったらなったで仕方ない。幸いにスキルを取り除き移植する方法も開発が進んでいるからな」

「相変わらず鬼畜なことを考えますねぇ」

「それこそねえとは思うが、その何者かのバックに皇ほどの大物が居ない限りは問題ねえ。そうじゃなかったら家族を餌にするなりやりようはいくらでもある」


 瀬奈の知らないところで、そんな会話がされていた。

 しかしながら、彼らはとことん地雷原でタップダンスをしていることに気付いていなかった。


▽▼


「……はっくしょい!!」

「おぉ、大きなくしゃみだな。花粉症か?」

「いえ、大丈夫っす。すいません」

「構わない、それじゃあ授業を再開するぞ」


 つい急激に鼻がムズムズして授業中なのをお構いなしにくしゃみをしてしまった。

 クラスメイトのほとんどがクスクスと笑っているのはもちろんだが、刹那は風邪でも引いたのかと思って心配してくれているらしく、大丈夫だと一応伝えておく。

 それから授業を乗り越えた後、当然ながら真一と頼仁がニヤニヤしながら近づいてきた。


「ようよう、随分とデカいくしゃみだったじゃないか」

「まあでも、おかげで目が覚めたぞ」

「なんかムズムズしたんだよ」


 あんなデカいくしゃみなんざ腹の虫が鳴るよりは恥ずかしくもなんともない、なのであんな風に堂々としていた方が逆に良いってもんだ。


「くしゃみなんかマシだろ。授業が始まって五分くらい経ってからの腹痛に比べたら可愛いもんだぜ」

「その的確な例えやめれい」

「……でも、確かにそれは嫌だな」

「だろ?」


 古今東西、多くの学生が直面した経験があるだろう授業中の腹痛。

 別に授業中にトイレに行くことはいけないことではないが、静かな空間の中で手を挙げてトイレに行きますと口にするのは勇気が要る。

 大便かよと揶揄われるのも嫌だって人は多いはずなので、授業中に不意に訪れる便意と腹痛に絶望した経験のある人はきっとそれなりに居ると思う。


「大丈夫なの?」


 なんて話をしていると刹那も近づいてきた。


「大丈夫だって。きっと誰かが噂をしてたんだろ」

「瀬奈君がそれを言うとシャレにならない部分もあるんだけど?」


 それを言われるとちょっと痛いかもしれない。

 ロストショットの件も含めてもしかしたら噂をされるかもしれないが、あれから数日が経過しても特に何もなく……敢えて言うなら、神崎は千葉たち同様に普通科へと変わった。

 そのことを知ったのは割とすぐだったけど、やっぱりもう悩むこともなかった。


「つうか、皇も大分今日欠伸をしてる気がするんだが?」


 真一がそう問いかけると刹那はそうねと頷いた。


「実はね、昨晩遅くまで瀬奈君の妹さんと電話してたの。それが原因かしら」

「そうだったのか……ってそうか。あの中学校は今日は設立記念日か」


 まあでも、雪はきっと刹那のことを思って早々に終わらせようとしたんだろうけどまあ……雪のことが大好きだし、きっと大丈夫だからって付き合わせたんだろう。

 刹那が大丈夫なら私もって感じで雪も喜びそうだし……ほんと、仲良くなって兄貴の俺は嬉しい限りだよ。


「みんな~! 昼食に行くよ~!」

「お、来たか。すぐに行く!」

「二人はどうする?」


 俺と刹那は顔を見合わせ、それならと頷くことにした。


「付き合う」

「もちろん行かせてもらうわ」


 妹だけでなく、こうしてみんなでつるむのも当たり前になってきた。

 良い変化だなと改めて思いつつ、俺たちは学食に向かうのだった。

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