妹とのデート?
雪にとっての人生はある意味で壮絶だった。
普通と何も変わらない日々を送っていた時、彼女は突如原因不明の病に体が侵されてしまった。
原因不明ではあっても薬はあったのだが、それは難易度の高いダンジョンの奥に行かなければ手に入れられないものであり、一般家庭では手に入れることが出来ないほどのアイテムで、お金を払おうにもあまりにも高額だった。
『私……死ぬのかな』
それはずっと雪が口にしていた言葉だ。
だがそんな雪を救い、今まで通りの日々を取り戻してくれたのが瀬奈であり、病院の上で自分の命数が消えゆくの感じる中で、彼女のヒーローである兄が駆け付けた。
『兄さん……好き』
ずっと仲が良く、そのような出来事もあって雪は瀬奈に好意を抱いている。
だがそれは妹が実の兄に抱いてはいけない感情であると分かってはいても、彼女はその想いを消し去ることは出来なかった。
『俺はお前の兄貴だからな。何かあれば駆け付けるさ』
しかし、それは彼女が立ち止まり続けてしまう原因でもあった。
今回瀬奈の元にやってきたのは彼に会いたかった気持ち、そして自分の抱く感情に決着を付けるためだ。
楽しそうに過ごしている兄の姿、そんな彼と一緒に語り合う刹那の姿……それは雪の心に清々しい諦めを抱かせるには十分だった。
『私は兄さんの妹……うん、それで良いんだ』
たとえ瀬奈の特別になれなくても、自分はずっと彼の妹で在れる。
それは雪にのみ許された特権でもあるので、彼女はずっとその立場を手放さないんだと……自ら兄離れ出来ないことを誓うのだった。
▽▼
「……あ、そうか」
朝、目を開けた俺の視界に映り込んだのは雪だった。
一瞬夢でも見ているのかと思ったけど、俺はすぐに前日でのことを思い出してあぁっと納得した。
「ほんと、安心して寝やがって」
家族贔屓の極みになってしまうのだが、本当に愛らしい寝顔をしている。
サラサラの髪を撫でるようにすると、俺の手の動きに会わせて指に絡む……っと、そんな風にしていると雪が目を開けていた。
彼女はただジッと見ているだけで怒ったりせず、眠そうに目元を擦ってから俺に抱き着いてまた眠り始めた。
「……もう9時なんだが、まあ良いかもう少しこのままで」
それから更に一時間ほどしてから俺たちはようやくベッドから出た。
雪の都合もあって今日は夕方に刹那と落ち合い、それから夕飯を一緒に食べて解散する予定だ。
本当なら雪の手料理をまたご馳走になりたかったところだが、せっかくこっちに来たんだからそれなりの高級店に行く約束をしている。
「ねえ兄さん」
「どうした?」
「兄さんの戦っている姿が見たいなぁ」
「……………」
俺は少しばかり考え、ダメだと頭を振った。
「あはは、やっぱりそうだよね。ごめんごめん」
「刹那も誘えば万全の守りは出来るけど、流石にこればかりはな」
俺と刹那が居る時点でどんな不測の事態にも対応は出来るだろう。
それに俺としても兄貴としての雄姿を見せるのもありとは思っているが、ここはグッと我慢して最初から雪を危険なダンジョンに連れて行かないのが常識的な判断だ。
【無双の一刀】発動
スッと手元に淡い光を放つ刀が出現した。
雪はかなりの驚きを見せた後、マジマジと刀を見つめた。
「普段は弓を使ってるんだけど、こいつが俺の本来の武器だな。色々あって表には出してないんだが、雪は特別だぞ? その代わり絶対に内緒な」
「そうなの? うん分かった。兄さんとの約束を私は破らないよ」
普段隠しているが妹はやっぱり特別なわけだ。
「触ってみても良い?」
「良いぞ」
ただ、俺の手から離れた瞬間に刀は消えてしまう。
なので俺が触れている状態で雪に触らせたのだが、俺が力を抜いているからこそ感じ取れる刀の軽さに驚いていた。
「あれ、刀って凄く重たいんじゃないの?」
「普通はな。ただ俺のこいつは重さなんてほぼ皆無だけど、威力と切れ味は本物だ」
「へぇ……これが兄さんの戦う力なんだね」
「そうだ。こいつを片手にダンジョンに潜って雪の為に頑張ったんだ」
「……そうだったんだ」
その後、普段は弓を使っていることも教えた。
俺がレギオンナイトに憧れているからと伝えると、雪はその時だけまるで母親のような顔になって好きだったねと言われて恥ずかしくなった。
「ああいうのは男の夢なんだよぉ……」
「分かってるよ。チャンバラごっことか友達と良くしてたもんね」
それももはや黒歴史なんよ雪さん……。
それから昼まで寮で過ごした後、俺たちはまた街の散策の為に外に出た。
「さてと、夜は刹那と合流するとして……どこに行こうかねぇ」
「どこでも良いよん」
そうだなぁ……それなら適当にまた歩くとするか。
「……?」
雪を連れて歩いていた時、前から歩いてきた顔には見覚えがあった。
探索科に所属するAランクの生徒たちで、彼らは俺を見た後に雪を見て……そこで俺は瞬時に魔弓のスキルを発動させた。
別に弓を出さなくて手の平で簡単に小さい矢を魔力で生成したのだが、それを俺は放って三度に渡る軌道変化で彼らの背後に着弾させた。
「雪、こっちに行くぞ」
「うん」
……この子、普通ならどうしたのって聞くところなんだけどな。
矢が僅かに爆発したことで彼らの視線が逸れたのだが……まあ彼らが雪を見てニヤリと笑ったから俺はこうしたわけだ。
別に撃退も可能だし街中ということで騒ぎになるのは彼らもごめんだろうが、俺としてはとにかく雪に物騒なものは何一つ見せたくない。
「何も聞かないんだな?」
「うん。咄嗟に兄さんが何を言ったとしても、それを聞いて間違いはないと思っているから」
「……やれやれ、本当に大した妹だよ」
「兄さんの妹だもんねぇ」
そんな風に笑いながら俺たちは彼らから離れて散策を再開させた。
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