妹との夜
雪が作る料理は美味しいというのは、実家に帰った時に毎回実感していた。
刹那と別れた後に雪と一緒に遊び歩き、寮に帰る前にスーパーに立ち寄って食材を買ったのだが……まあ何というか、値段などを見ながら食材を選ぶ姿に俺は本当に成長したなと涙が出そうだった。
「……おぉ」
そして家に帰った後、彼女が気合を入れて料理を作ってくれたのだが……うん、野菜は最小限に肉類が大量だった。
普段は俺が自分で作る時もあれば食堂で食う時もあるけど、メニューの都合上はうどんとかラーメンと頼まない限りはバランスが良い食事だ。
「その……気合を入れたら兄さんの大好きなモノばかりになっちゃった」
てへっと舌を出して雪はそう言った。
まあ基本的に好き嫌いはないので何でも良いんだけど、今日くらいはカロリー度外視でも全然ありってもんだ。
それにビーフシチューの中にニンジンとか入ってるし問題ない。
「作ってくれてありがとな雪。それじゃあいただきます」
「いただきます!」
ということで、本当に数ヶ月ぶりの妹との夕飯だ。
既に今日は一日ずっと一緒に居たようなものなので多くのことを話したが、やはりまだまだ俺たちの口から出てくる言葉は止まらない。
パクパクと食べ進めて消えて行く肉に、俺と雪は揃って笑った。
「良く食べるね兄さんは」
「まあ育ち盛りだからな」
まだ若いからこそ大量の肉を食っても胃もたれなんかしない。
……流石にちょっと厳しいかもしれないけど、残ったら明日にでも食べれば良いしどうとでもなる。
「久しぶり……本当に久しぶりだよ。お盆とか正月に会おうと思えばいくらでも会えるけど、やっぱりこうして兄さんが目の前に居るのが良いかな」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。俺としてはもう一人で過ごすことにはなれちまったけど……うん、雪が居るのはやっぱり良いな。母さんも居れば最高だ」
「だね」
母さんは今どうしてるだろうか、一人寂しく夕飯を食べていると思うと心が痛いけど、近所に仲の良いママ友がいっぱい居るので集まって酒でも飲んでるかな。
「雪は今日どうだった?」
「え? 楽しかったよ?」
「窮屈だったりしなかったか?」
「ううん全然、むしろ……えへへ♪」
「……なんだよ」
「兄さんを独占出来て嬉しかったかな?」
この子……このまま成長したら凄い子になりそうだ。
だからこそ兄貴として雪の行く末は見守っていくつもりだが……うん、雪がいずれ彼氏が出来たのって連れてくるのは心が死ぬかもしれんな。
その後、あっという間に料理を食べ終え雪と一緒に食器を洗った。
「明日は朝とお昼も作るからね?」
「あざっす!」
「任せてよぉ♪」
食器を洗い終えた後は先に雪を風呂に向かわせた。
風呂に向かう際に一緒に入らないかと誘われたけど、流石にもうそんな歳じゃないので俺は断った。
頬を膨らせて不満そうにしていたが……まあそこは一緒に寝ることで許してくれ。
「一緒に寝るのは確定しちまったしな」
風呂に入らないならせめて寝るのは一緒だと約束させられた。
スマホを手に取ると刹那からメッセージが届いており、ちゃんと雪と楽しめたかと聞かれたのでバッチリだと返事をしておいた。
それから雪が戻って来たので入れ替わるように俺も風呂を済ませ、十一時くらいまで話をしてからベッドに横になった。
「ベッドもこんなに大きいなんて本当に凄いねここ」
「だろ? 過ごしやすさは本当に快適だぜ」
その辺の高級ホテルよりは格段に過ごしやすいからなぁ……まあ、だからこそ入寮の為に結構金は掛かるし、過ごしていくためにも維持費はそこそこ掛かるのだが、まあ俺のダンジョンの稼ぎからすれば余裕だ。
「……ねえ兄さん」
「うん?」
「ちょっと昔のことを話しても良い?」
「良いぞ」
「ありがと」
俺の腕を胸に抱くようにして身を寄せてきた雪はこう言葉を続けた。
「私ね? 病気になって動けなくなった時、二つの気持ちに挟まれてたの」
「二つの気持ち?」
「うん。一つは兄さんに対する申し訳ない気持ち、もう一つは兄さんが私の為に時間を使ってくれることへの喜び」
「……………」
「体の辛さは嫌だったけど、兄さんのことを想えばなんてことなかったの……それどころか、この辛さを我慢すれば兄さんはずっと私の傍に居てくれるんだってことも思っちゃってた」
チラッと雪の顔を見ると、彼女はジッと俺を見つめていた。
当時のことを思い出して瞳が少し潤んでおり、俺は雪の方に体を向けてその頭を優しく撫でる。
「……自分にだけ向いている兄さんの気持ち、それを独占していることに居心地の良さを感じつつもこのままで良いのかなって思ってたの」
「そうか。別に悪いとは思わんけどな」
「兄さんならそう言うよね……だからね? 兄さんと離れている間は色々と自分を見直す時間でもあったの。私も前に進まないといけないってね」
「十分前に進めていると思うけどな。明るくなって、みんなと同じように生活出来るようになって……十分だろ。というか、俺に言わせたら褒めることしか出てこねえ」
俺からすれば雪に対して悪いことなんて何一つ出てこない。
今彼女からそんな話を聞かされたとしても、それでもやっぱり雪は俺にとって大切な妹なんだと思う他ないんだ。
「私、兄さんの妹で良かった」
「俺も雪の兄貴で良かったよ」
だからこそ、俺はこんなに強くなれたんだから。
自分で言うのもなんだが俺のスキルは強い、それこそSランクという最強の相手を前にしても引けは取らない……むしろ圧倒できる自信がある。
でもそれは偶然手に入れたものでもないし、才能だけで上り詰めたものでもない。
ただ大切な存在を守りたい、助けたいと思った先の努力の賜物だと思っている。
「もう寝る?」
「まだ寝ないかな」
「だよね。ならさ、もっと詳しく兄さんのことを聞きたいな。どんな風にダンジョンに挑んでいるのかとか」
「良いぜ? それじゃあ何から話そうかな」
それから眠くなるまで、俺は雪にダンジョンでのことを話すのだった。
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