雪と刹那

(……なんて目の保養になる光景なんだ)


 あの後、刹那と合流してから雪に街中を案内していた。

 とはいえ主に刹那と雪が言葉を交わしているので、俺はそれに相槌を打ちながら傍に控えているだけなんだが……うん、二人の美少女が並んでいる姿は非常に良い!


(でも……本当に思った以上に仲良くしてくれてるな。刹那も雪も波長が合っているみたいだし)


 そんな風にうんうんと一人頷いていたらガシッと腕を取られた。


「ちょっと兄さん遅れてるよ?」

「おっと、そいつはすまん」


 どうやら考え事に集中し過ぎて遅れていたようだ。

 早く行こうとはしゃぐ雪に腕を引っ張られ、そんな俺を見て刹那はクスクスと笑っていた。


「なんというか、初めて瀬奈君と雪ちゃんが一緒なのを見たけど……羨ましいくらいに仲良しね」

「まあ雪と仲が良いのは当然だな」

「ねぇ♪」


 ……しっかし、こうして二人と一緒に居ると注目はされてしまうな。

 学生ももちろんだが大人からも視線を集めるほどで、そんな雪に腕を組まれている俺に対して嫉妬のような視線だって僅かにある……いや、刹那も傍に居るからなのかこれは。


「取り敢えず手頃なところで喫茶店でも行かね?」

「そうね。雪ちゃんもそれで良い?」

「分かりました!」


 ということで、オカマオーナーこと須崎さんの喫茶店に向かうことにした。


「あらぁ? 両手に花じゃないの時岡君」

「妹ですよ妹」

「そうなの!? すっごく別嬪さんね!」

「あ、ありがとうございます……」


 テンションの高い須崎さんに以前の俺と同じように雪もタジタジだった。

 須崎さんと初めて会った人は絶対あんな感じになるそうなので、俺も雪も反応としては何も間違ってはいないのである。

 それから適当に飲み物とケーキを頼んだ後、俺の隣に座った雪はボソッと呟く。


「……やっぱり兄さんの隣は楽しいよ」


 きっとそれは自然と出た言葉だったんだと思う。

 それでも俺にはバッチリ聞こえていたので、そっと雪の肩に手を置いてポンポンと叩いた。


「……妹かぁ。良いわね本当に」

「一人っ子の方が気楽なこととかあるんじゃないか?」

「それ、私は要らないってこと?」

「なんでそうなるのよ雪さんや」

「冗談だよん♪」


 この子、久しぶりに会って一段と兄貴を揶揄う術を手に入れているな……。


「ダンジョンとかだと凄く強いのに……雪ちゃんには勝てないのね」

「それを言うんじゃねえよ。いつの時代も兄貴ってのは妹に弱い」

「兄さんはやっぱりそんなに強いんですか?」


 雪の問いかけに刹那は頷いた。

 どうやら俺の口から聞くよりも、他人から俺のことを聞くのが雪はお求めらしく刹那の言葉に耳を傾けている。


「雪ちゃんのお兄さんは凄く強いのよ。私もそこそこ強い自信はあるんだけど、以前に模擬戦をやった時は負けちゃったわ」

「え、そうなんですか?」


 ちなみに雪は刹那の探索者ランクを知っているので、それもあっての純粋な驚きが顔に出ている。


「それだけ雪ちゃんの為に培った力が強いってことなのよ」

「あ……」


 元々俺が探索者になったのは適性があり憧れだったのもあるが、探索者になってからの俺はとにかく雪の為に強くなることを心掛けた……まあ、雪が体調を悪くする前から俺のスキルは育ってくれていたけど、剣術のレベルが10になったのは間違いなく雪の為にっていう想いがトリガーだった。


「あの時の私、兄さんの重荷に――」

「ふんっ!」

「あいた!?」


 ぺちっと軽く頭を叩いておく。

 叩くと言っても撫でるようなものなので、雪も痛いと口にはしたが全く痛みはないはずだ。


「それは俺が一番欲しくない言葉だぞ? たった一人の妹を助けるために頑張るのは兄貴として当然だし、それが出来るって確信していたから俺は頑張ったんだ」

「兄さん……」

「だからそんなことは言うなよ。何も不安に思わず、ただ笑ってれば良い」

「……うん、分かった」


 まあ俺としても雪が過去のことを引きずっているのは理解している。

 雪が病気になったのは誰のせいでもないし、何より雪の不注意が招いたとかそんなわけでも断じてない……だからこそ、それは気にしても仕方ないことなのだ。

 それから雪も普段の様子に戻ったので、俺たち三人はお互いのことを楽しく話すことが出来た。


「それじゃあ私はこれで失礼するわね。これ以上はあなたたちの邪魔だろうし」

「そんなことはないけどな」

「そうですよ……私、刹那さんとももっとお話したいですから」

「雪ちゃん……可愛い!!」

「わぷっ!?」


 取り敢えず、今日はこれでお別れにはなるがまた明日も雪が刹那と遊びたいと言ったので会うことになった。

 本当に仲良くなったなと思いつつ、やはり何かが二人の中で繋がるというか気が合うらしい。


「兄さんと刹那さんは付き合ってるの?」

「どうしてそうなるんだよ」

「だってそれくらい仲の良さが私に分かったし……何より凄くお互いに信頼し合ってるでしょ?」

「それは……まあ信頼はしてるな」


 ……こういうことを口にするのはやっぱり照れるな少し。

 ただ誤解が無いよう言うなら俺と刹那は決して付き合ったりはしていない、そもそも俺と刹那じゃあまりにも立場が違いすぎるからな。


「よし、それじゃあ改めて兄妹としての時間を楽しむとしますか」

「らじゃ!」


 雪を連れて街を歩く中、そっと俺は後ろに視線を張り巡らせる。

 いつもは気にしないけど雪が居るからこそ神経質になっているようだが、これくらい警戒するのがちょうど良い。


「そう言えば兄さん、夜はご飯どうするの? 良かったら作ってあげるよ?」

「マジで?」

「うん」


 なら久しぶりに雪の作るご飯を御馳走してくださいお願いします!

 そう頼み込むと雪は嬉しそうに頷いてくれるのだった。

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