雪
「……そろそろか」
土曜日の朝、俺は約束したように雪を待っていた。
既に寮の方には妹が二泊することは伝えているので準備は万端、後は俺が雪の安全を常に確保するだけだ。
スマホで時間を確認し、新幹線が駅のホームに入ってきたのも確認した。
改札口を通って利用客が何人も出てくる中、その中に一際目立つ女の子が旅行鞄を引いて歩いてきた……まあ目立つと思ったのは贔屓目が多分にある。
「……あ」
最愛の妹というとシスコン極まるが、俺としても彼女をこうしてこの目で見たのは数か月ぶりだ。
雪は俺の元に走ろうとしたが、ちょっと鞄が重たいのか動きを止めたので、俺はそんな風に慌てている彼女の元に急いだ。
「雪」
「兄さん!」
鞄を置いて雪は俺の胸に飛び込んだ。
こうして雪の温かさと……あれ、この子こんなにスタイル良かったか……いやいや流石にこの考えは捨ておけバカタレ。
「久しいな雪」
「うん。久しぶり兄さん!」
「……なあ雪、お前ってこんなに可愛かったか?」
「はぁ? いつも可愛いでしょ♪」
俺の胸元に頬を押し付ける雪を見ていると実家での暮らしを思い出す。
お互いに小さかった頃はこんな感じだったし、成長して病気になってからは触れ合いも減って……病気が治ってからは少しクールになったけど、まだまだ兄離れは出来そうにないか。
(……って違うか。俺が妹離れ出来てないのか? まあでも、世の妹を持つ兄貴ならこの気持ちは理解してくれると思うけどな)
俺は抱き着いたままの雪の頭を撫でつつ、彼女の体に視線を巡らす。
それは決していやらしい意味ではなく、こうして雪に会うと決まって俺は体に不調は出ていないかと気になるようになったからに他ならない。
「兄さん、心配しなくても大丈夫だよ? だって兄さんのおかげで治ったもん」
「そうは言ってもだなぁ。ま、そうだな」
「うん♪」
以前に俺が彼女に送ったブレスレットもしっかりと付けているのも確認できた。
「それ、付けてるんだな?」
「え? あぁうん。兄さんが付けとけって言ったからね。それにアクセサリーとしても全然良いんだよね。友達からは彼氏からのプレゼントかって揶揄われたけど」
「雪に彼氏は……居ないよな?」
「居ないってば」
あ、心からホッとしたぜ。
それから俺は雪の鞄を引いて寮まで歩くのだが、当然のように他の量の利用者は雪に視線を向けてくる。
雪自身は俺と違って容姿が優れているのもあって人から見られるのは慣れているのもあってか、どんなに見られてもいつも通りの様子だった。
「一応泊まる人用に部屋は借りられるんだけど俺の部屋で良かったよな?」
「もちろん。兄さんの部屋じゃなかったら逆に嫌だよ」
「なら良かった」
他の一般校であったりの寮がどんなものかは分からないが、個人の部屋として出来ることがかなり詰まっている。
それこそキッチンだってあるし風呂もトイレも付いているので、料理に使う食材さえあればこの部屋だけでも生きていける。
「……これ、うちの中学校に来てる寮生の人に見せてあげたいな。すっごく羨ましがると思うよ」
「写真とか撮っても良いぞ?」
「ほんと?」
雪はスマホを取り出してパシャパシャと写真を撮りだした。
そんな彼女の後ろ姿が本当に微笑ましく、雪を毎日見ることの出来る母さんが羨ましいなと、同じ家族なのにちょっと嫉妬した。
「雪」
「なに?」
少しだけ真剣に雪を呼ぶと彼女はスッとこちらに振り向いた。
スマホをポケットに仕舞って俺の言葉を待っている様子、それは明らかにこれから真剣な話をするという俺のことを分かっている様子だ。
俺はよしよしと頭を撫でながら大事なことを伝えた。
「なあ雪、探索者ってのは一般の人と違って強い力を持っている」
「うん」
「だからひょんなことからいざこざが起こることも少なくない……だから――」
「兄さんから離れるなって言うんでしょ? 大丈夫、兄さんの言うことには従うよ」
「……従うとかそういう固く考えなくて良いからな?」
「分かった。兄さんから離れない♪」
ギュッと彼女は抱き着いてきたので、俺はやれやれとため息を吐いた。
まあでも、せっかくこっちまで来てくれたのだからある程度は自由に街中を見させてやりたい……もちろん俺は常に傍に居るのだが、それを窮屈に感じないのであれば俺としても安心だ。
「ねえ兄さん……兄さんはやっぱり大きいね」
「普通じゃね?」
「大きいよ。私にとって兄さんは本当に大きな存在……私のヒーローだもん」
「……そうか。ちょっと照れるな」
「えへへ」
さてと、このまま雪と兄妹の時間を過ごすのも悪くない。
しかし刹那に彼女を会わせるって約束をしたからなぁ……そろそろ時間だし雪を連れて行くか。
「なあ雪、実は友人に雪を会わせるって約束をしたんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。勝手に決めて悪い……決めるのは雪だけどどうする?」
「会いたい。兄さんの友人さんに会いたい」
よし、それじゃあ早速刹那と待ち合わせをしよう。
俺は彼女にメッセージを送って十分後に待ち合わせをしたのだが、彼女からの返信から待ちきれない様子が伝わってきた。
雪を連れて寮の外に出ると、彼女はすぐそこに居た。
「待たせたな刹那」
「……女の人?」
刹那は俺と……そして雪を見て固まり、雪も驚くように刹那を見つめた。
しばらく見つめ合った二人は同時に口を開くのだった。
「か……可愛い!!」
「綺麗な人!!」
あ、これは仲良くなれるわと俺は確信した。
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