見たことのないアイテム
「なあ瀬奈」
「う~ん?」
カラオケで女性陣が大いに盛り上がる中、俺の両隣りに座る真一と芳樹がコソコソと顔を寄せてきた。
何だろうと思って耳を傾けると、彼らから齎された言葉はある意味で予想出来るものだった。
「友人を一人連れて来るって言ったけどさ……まさか皇とは思わないだろ!」
「そうだそうだ! ガチ中のガチ! 学校一の有名人とか聞いてないぞ!」
「……まあそうなるよな」
クラスで最近皇とは話をするようになったので、友人と言ったら皇ももしかしたら想像してもらえるかと思ったが、流石にそこまでは無理だったようだ。
『ういっす~。皇連れてきたぞ~』
『お邪魔するわ』
そう言ってみんなが待つ部屋に入った時の驚きようは面白かった。
真一と芳樹はこれでもかと目を見開き、女性陣も女性陣で予想外だったらしく飲んでいたジュースを吐き出すほどだった。
「沙希と夢を見てみろよ。もう打ち解けてるぞ?」
真一や芳樹と常にパーティを組んでいる女性陣の沙希、そして巷ではオカルトマニアって言われており陰キャを自称する
さっきも言ったが女子二人とも皇に驚きはしたものの、同性ということもあって本当に打ち解けるのが早かった。
「だって女子だもんな」
「俺たち男子だもんな」
まあ確かにそれはそうだ。
だけどと、俺は二人に皇の表情を見てくれと口にした。
「俺は最近知り合ったばかり、お前らは今日遊んだりしたのは初めてだけどさ。この中で一番緊張というか、疎外感を感じていたのは間違いなく皇だ。でもそんな彼女がああやって笑ってくれている……そんな表情を見たらこうやってコソコソするのはどうなんだって思わない?」
「……確かに」
「……そうだな」
ま、それでも緊張するとは思うけどな。
俺としては……何だろうな、元々刀を手に深層まで潜ることで度胸が付いたのか、或いは武器を交えたからなのかは分からないのだが、あまり皇に遠慮をすることはなくなった。
(……それが原因なのか、彼女に揶揄われることも多いんだけどな)
そこは俺も男ということで、仮に揶揄われても相手が皇みたいな美少女ともなるとちょっと役得な気がしないでもない。
「ふぅ、久しぶりにこんなに歌ったわね♪」
「皇さん凄く上手だよぉ!」
「そ、そうね……す、すごく上手だった」
「ありがとう二人とも」
沙希と夢の二人とひとしきり歌い終えた皇だが、次は何を歌おうかとノリノリなので、突然ではあったが誘ってよかったなと俺は思うのだった。
それから真一と芳樹も歌に参戦し、完全にではなかったが皇と言葉を交わすことである程度は仲良くなれたらしく、解散した後も皇はカラオケ店でのことを楽しそうに話してくれた。
「今日はありがとう時岡君。本当に楽しかったわ」
「良いってことよ。また誘ったら来てくれるか?」
「もちろんだわ♪ 是非誘ってちょうだい!」
ま、俺が誘わなくても仲良くなった以上は沙希たちが誘うと思うけどな。
「それじゃあ今から組合に行く?」
「そうだな……」
カラオケが楽しくて忘れていたが、そう言えば目的はそれだった。
忘れていたのかと皇は呆れたような表情をしたが……やはり、彼女は気付いて無さそうだった。
「皇」
俺は皇の肩を抱いた。
突然のことに彼女は驚き、若干頬を赤く染めて俺を見つめてくる。
「いきなりすまん。このまま真っ直ぐ歩け、変に意識せず、自然体を心掛けて」
「っ……分かったわ」
たったこれだけの言葉で俺の意図は伝わったらしい。
探索者の中には基本的に戦いの中で培われた気配察知の能力はあるだろうが、スキルとして保持するかそうでないかでその辺りはかなり察知力に差は生まれる。
「学校を出てしばらくしてから誰かが後ろに居る。俺と皇のどちらかに用があるのかと思ったけど、見ているのは皇みたいだ」
「……なるほどね」
「何か心当たりは?」
「あり過ぎて困るほどよ」
「な~るほど。そいつは大変だ」
確かに財閥のお嬢様となれば色々と柵はありそうだからな。
それにさっきも言ったがいやらしさを感じさせない視線、何かを観察しているようなこの視線はおそらくその道のプロだろうか……まあ、俺の気配察知には引っ掛かってるんだけど。
「時岡君は気配を察知するスキルも持ってるの?」
「【気配察知レベル7】があるからな。発現してから自然と育ったんだ」
「レベル7って結構育ってるのね……でもなるほど、それなら相手が隠形を発動していても見破れるわね」
「あぁ」
まあこれ以上のレベルの隠形術は流石に見破れないのだが、スキルのレベルの上昇は6から一気に難しくなる。
なのでその壁を越えた俺の気配察知はかなり効果的というわけだ。
しかしこうして情報が入った今だと、皇も何かを感じ取れたようだ。
「……皇?」
「えぇ。私も気付けた……一人みたいね」
皇の瞳が銀色に輝いており、それはあの時の天使の翼を生やした状態に似ていた。
俺も知らない見たことがない皇にのみ秘められた力……気にはなるが、一応この後ろに居る奴の顔くらいは見ておくか。
「そこ、路地裏に入るぞ」
「えぇ。少しドキドキするわ」
「スパイごっこしてんじゃないんだぞ~?」
「分かってるわよ」
路地裏に入ってすぐ、俺と皇は物陰に身を隠す。
ついでと言わんばかりに皇が持っている気配遮断のスキルも使うことで、俺たちの気配は完全に掻き消された。
「……あれって」
「知り合いか?」
俺たちの後に現れたのはスーツを着た男性だった。
サングラスも掛けている屈強な男で、彼は辺りをチラチラと見回した後に首を傾げて元の道を歩いて行く。
どうやらあの男性について皇は知っているようだった。
「あの人……確か父の誕生日パーティの時にゲストの護衛で見たことがあるわ」
「ふ~ん?」
「そのゲストは……
「それはまたそこそこの大物じゃないか」
千条院、確か皇グループには及ばないがそれなりの金持ち一家だったはずだ。
そんなグループの護衛がどうして皇の後を追いかけているんだ?
「……分からないけれど、このことはそれとなく父に話しておくわ」
「それが良い。けど少し俺の場合は疑っちまうのが先行するんだよ――皇の家族もグルの可能性は?」
「ないわね。父も母も厳しい人だけど、私には甘ちゃんだから」
「はは、そうか。なら大丈夫そうか」
彼女の家族は味方みたいなので一先ず安心か。
ただ、それでも万が一ということもあるので警戒しておくに越したことはなさそうだが……ったく、皇と知り合ってから色々とイベントに事欠かないぜ。
「ま、尾行に気を付けながら組合まで行くとするか」
「そうね……でもごめんなさい時岡君。私の――」
「私のせいとか言うなって。つうか皇は謝り過ぎだ」
「……でも……ううん、分かったわ。ありがとう」
謝るよりお礼を言われた方が良いのは当然だ。
その後、俺たちは組合に向かったが尾行されることはなく、特に何事もなく俺たちは目的地に着いた。
そして赤い宝石について分かったことを教えられた。
「あの宝石、どうやらアイテムの類のようです。魔物だけに限るのかどうかはまだ分かりませんが、潜在的な何かを無理やりに引き出す効力があるようです。ただ赤黒いオーラを放つ魔物に関してはおそらく、暴走したのだと思われますが詳しいことはやはり不明ですね」
っと、俺たちは伝えられた。
取り敢えずただの赤い石ころでないことが分かったのは一つの成果だが、今までダンジョンでも見つかったことがないアイテムとして組合で預かってもらうことになり、一旦俺たちに伝わる情報としてはそこまでになるのだった。
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