異変の正体?

 Bランク階層に出没するはずのオークがCランク階層に上っていたということがあってから数日が経過した。

 あのことは真一と共に組合に報告し、なんとか奴を倒せた証拠でもある素材を見せることで信じてもらえ、注意喚起を組合の方から全ての学生に出してもらった。


『どうしますか? お二人の名前は出した方がよろしいでしょうか?』


 その提案に俺と真一は首を横に振った。

 今回のことは組合からも大きく感謝をされたことで、褒賞というわけではないが感謝の品を渡されるほどでもあった。

 Cランクの探索者がBランクの魔物を倒した、それは別に珍しいことでもないがやっぱり居るのである――そんな小さなことに嫉妬をする奴が。


『変に絡まれるのはごめんだからな。それこそ、ダンジョンって場所でやられるとみんなに危害が及ぶ』


 それは仲間想いの真一らしい言葉だった。

 俺としてもその案には賛成だったので、ああいったアクシデントはあったが良い方向で話は纏まったわけだ。


「とはいえ、何があったのかは気になるってもんだよな」


 一応弓の精度もそうだが、スキルのレベルアップに関してもCランク階層は狩場でもあるので、俺は今日という休日に朝からダンジョンに潜っていた。


「……人居ねえなぁ」


 基本的に休日にはこの辺りは学生の姿がいっぱい見えるはずなのだが、やはりオークが出たということでCランクの探索者は少し落ち着くまで遠慮しているようだ。

 まあ全く居ないわけではないが数はやはり少ない。


「とりま行きますか」


 襲い掛かって来る狼を蹴散らしながら俺は進んでいく。

 あの時にオークと出会った場所に向かっても特に何も見つけられなかったため、俺は一度転移陣に戻ってBランク階層に赴いた。


「えっと、確か森林地帯はあっちか……」


 以前に真一が不思議そうにしていたのも確かで、俺は既にBランク階層に関しては以前に通ったことがあるからだ。

 ただただ剣術を極めるために、それこそ刀を片手にあの時は駆け回っていた。

 少しばかり前の記憶を思い返しつつ、俺はオークの住処である森林地帯に辿り着いた。


「ここにも人居ねえなぁ」


 そもそもオークは集団で動くのもそうだが、オーク以外にもここには多種多様な魔物が生息している。

 おかげに視界も悪く奇襲の危険性もあるわけだ。

 後はまあ……言ってしまうと夢がないけれど、オークを含めてここの魔物の素材はあまり使用用途がなく使い道がないのだ。


「って、お出迎えかよ」


 オークではないが、木の見た目をした化け物であったりキノコの姿をした魔物が大量に現れた。


【魔弓】発動


 見た目はファンシーだが舐めてかかると痛い目を見るのがBランクである。

 俺は魔弓のスキルによって魔物を駆逐しながらどんどん奥に進んでいく……しっかし、自分の力を過信するわけじゃないけどこれよりも圧倒的な力を持っているというのは気が楽で仕方ない。


「特に変化はないな。生態系に異常があるわけでもなく、強いて言えば少し静かなくらいか?」


 辺りの森林地帯は静寂だ。

 これはおそらく俺が辺りの魔物を駆逐し終えたからではなく、本当に鳴き声すら聞こえないほどに静かなのだ。


「……?」


 そのまま奥に進んでいくと、何やら変な風が肌に触れた気がした。

 チリチリと肌を焼くと言うと少し違うかもしれないが、この先には何かがあると思わせるようなそんな気がする。


「行ってみるか」


 更に、更に奥に進んでいくとようやくオークの姿を発見した。

 何匹ものオークがドシドシと音を立てて歩いているが、どこかそのオークが何かに怯えているような印象を俺は受けた。

 それから更に奥に進んでいく――するとそいつは居た。


「なるほど……あいつか」


 大きく開けた土地の上に一匹のオークが立っている。

 本来のオークは全体的に緑色なのに対し、そいつは赤黒いオーラを放ちながらただただそこに居座っていた。

 一体どういう原理であのような状態になっているのかは不明だが、他のオークたちが奴を遠巻きに眺めているのを見るに、もしかしたら原因は奴じゃないかと俺は考える。


「……ま、考えても仕方ねえか」


 小さく呟き、俺は奴を囲い込むように矢を放って停滞させた。


「行け」


 そしてオールレンジで奴を仕留めるために矢が一斉に動き出した。

 突然のことに赤オークは驚いたものの、やはりその動きは緩慢で到底避けられるとは思えない。


「やったか?」


 やったかはフラグ、レギオンナイトもそう言っていた。

 その言葉が真実であることを示すかのように、赤オークの体に傷は一切入らずに無数の矢は全て弾かれた……否、目玉だけは片方潰していた。


“グオオオオオオオオオオオオオオッッ!!”


 目から感じる痛みを怒りに変えるように、凄まじいほどの咆哮が奴から放たれ、それは俺が隠れていた茂みすらも風圧だけで吹き飛ばす。

 姿を晒すことになった俺を奴は見つけ、残された片目は真っ直ぐに俺を射抜いた。


「おっす」


 まるで友達に問いかけるように俺は手を上げたが、奴は近くにあった大岩を放り投げてきた。

 その岩を回避した瞬間、ピコンとスマホが音を鳴らした。


【鷹の瞳】発動


 どうやら新しいスキルが発現したようだ。

 しかもまたレベルの概念がないということはレアスキルの証であり、早速説明文を読むとやはり弓の戦いをこれでもかと補助してくれるものだった。


「……へぇ」


 スキルを発動したことで、赤オークの体の一部に赤い点が見えるようになった。

 俺は再び魔弓を発動し、無数の矢の雨を降らしながら赤オークの体勢を崩した後、その点に向かって強く弓を引き絞り放った。

 その矢は魔弓による威力のブーストを受け、その一点を軽々と貫いた――つまり奴の体に穴が空いたわけだ。


「つまりクリティカルショットって奴だな。赤い点が示す場所がそいつの弱点というよりは、必ず俺の矢が貫ける場所ってわけか」


 それが鷹の瞳の力らしい。

 ただ相手が万全の状態では使えず、ある程度のダメージを受けた状態でのみその弱点は看破出来るようで、流石にそこまで万能ではないかと苦笑した。


「って、まだ起き上がるのか」


 一度倒れた赤オークは再び立ち上がったが、しばらくして倒れ込んだ。

 鷹の瞳発動状態で奴の弱点が消えたこと、それは奴が死んだことを意味し、戦いの終わりを告げていた。


「……? なんだこれ」


 オークの死体に近づくと赤い宝石が落ちていた。

 それが何かは分からなかったが、俺はそれをポケットに入れて地上へと戻った。

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