第79レポート きたれ!宝石蟻!
ジルはその発見に心が躍っていた。
砂漠の国デゼエルト王国の岩石が転がる
岩石や鉱物を餌にして自身の体に宝石を作り出す。
近頃
「よぉーっし、やってやるぞ~~~~!」
気合が入った雄叫びを上げ、ジルは走り出す。
「こん―――」
「オウ。」
突入しようとしたジルの顔面に真横から水平に振られた巻紙の筒が直撃した。
すこーん、という小気味いい音が響き、ジルは仰向けにすっ転んだ。
「痛っっっったぁ!!!お客様は神様、大切にしろーーーーっ!!!!」
「オレが客と認めなければソイツは客じゃねェし、神なんぞであるワケがねェな。」
うぐぐ、と唸るジルを横目にアルーゼは巻紙を屑籠に放り込んだ。
「で、何の用だ。」
「買い物に決まってるでしょ!」
「お前の場合、そうじゃねェ事が多いから問題なんだよ。」
「・・・・・・悔しいけど反論出来ない。」
はんっ、とアルーゼは鼻を鳴らし、カウンターを飛び越えて椅子に腰掛けた。
ジルは早速店内を物色する。
「あー、必要になりそうな物は・・・・・・。これと~それと~、あ、これ違う。」
陳列された魔獣の素材を手に取り、戻し、手に取り、戻し。
素材を見ながら頭の中で召喚に必要となりそうな物を吟味する。
「今日は何の魔獣だ?」
「えっとね~、宝石蟻 ―ジャウハルミーガ― !」
目を輝かせながらジルは魔獣の名を言い放った。
「部屋ン中で虫、喚び出す気か?」
「うぐっ、そう言われると気持ち悪くなるけど、大丈夫!そこそこ大きいから!」
「それは大丈夫ッて言うのか?」
「・・・・・・さあ?まあ、多分大丈夫でしょ!」
ジルは基本的に楽観主義である。
無鉄砲、向こう見ず、阿呆、とも言う。
アルーゼの認識はどちらかと言うと後者である。
「そういやお前、デゼエルトに行った事あンのか?」
「あ~、今のところないなぁ。砂漠の国って事は知ってる。」
「そう遠くないから行ってみるのも良いかも知ンねェな。」
「一回行ってみたい!」
未だ見ぬ
意気揚々と歩み、次なる目的地へいざ進む。
ならば必要なのは宝石だ。
「いらっしゃい、ジル嬢。」
「ドルドランさん、こんにちは!」
鉱石ならば鉱石屋、ならばここに来るほか無し。
しゃがれた声に出迎えられ、ジルはいつも通り元気よく挨拶を返す。
カウンターを挟んでドルドランと向かい合って、ジルは椅子を置き、座る。
流れるような自然な動作である。
ドルドランは鉱山ニンジンのジュースをコップに注ぎ、ジルの前に置いた。
「ありがと~!」
「いっつもそれ目当てで来るからな、常備しとるのよ。」
「いつもじゃないよ~。」
そう言いつつもジルは置かれたジュースをちびちびと飲む。
「ちょっと聞きたい事と買い物に来たの!」
「ほう?買い物はともかく、聞きたい事とは。珍しい事もあるもんだ。」
「そんなに珍しいかなぁ・・・。」
少しばかり不満そうにジルはコップを口元で傾ける。
ドルドランは
「それで、何が聞きたいんだね?」
「ドルドランさんは宝石蟻って知ってる?」
「デゼエルト王国に棲んでる魔獣だの。鉱石宝石を扱う以上は知っとるよ。」
ジルの問いにドルドランは即答した。
「良かった、やっぱり知ってた!」
「期待に
「で、その生態とか詳しく知りたいんだけど。」
「生態か、中々難しい事を聞くな。どんな事が知りたいんだ?」
ドルドランの問いにジルは腕を組んで考える。
少しばかりそうしてから口を開く。
「まず巣の事。大体、私二人分くらいの大きさの
「ほぉ、良く知っとるな。」
立派な髭を弄りながら、ドルドランは戸棚から何かを取り出す。
「これだ。」
「石?」
カウンターの上に置かれたのはごつごつした黄土色の塊。
一見すると石だが、粉が散っている事からそれが
「こいつは粘土だ。デゼエルトの
「砂漠って水無くてカラカラだよね?粘土なんてあるんだ。」
「水が通ってるんじゃないかってくらいには、地下は潤っておるんだ。」
新しい知識を得て、ジルは、へぇ、とひと声上げた。
「宝石蟻は巣を作る時にまず深い穴を掘る。そんでこの粘土を取り出すんだ。」
「なるほど~。」
ジルは話をつぶさにメモに残す。
「次の質問!宝石蟻の腹部に作られる宝石は何?どんな宝石?」
「ふぅむ、答え辛いの。種類が多すぎる。」
「そんなにいっぱいあるの?」
「おうとも。」
ドルドランは店内に目を遣る。
それにつられてジルも店内を見回す。
「大体、この店にある宝石は全部、宝石蟻が作り出せるもんだ。」
「そんなに沢山あるの!?」
店内には何十種類もの宝石が光を受けて、自身を主張するように輝いている。
それら全てを宝石蟻が作り出すことが出来るとは。
「ま、宝石蟻が作り出す宝石は大体クズ石だがの。」
「そうなの?」
「ああ。話を
ジルの頭の端にあった、あわよくば、の想像は崩れた。
召喚する事自体が目的なので大した問題では無いのだが、少しばかり残念に思う。
「そんな宝石蟻にも天敵がいる。」
「天敵?
「いんや。宝石蟻喰 ―ジャウハルオルソーロ― って奴だ。」
そう言われてもどんな魔獣であるのか、ジルには分からない。
「どんな姿の魔獣なの?」
「あー、なんて言うかな・・・・・・。」
説明し辛そうにドルドランは特徴を
ジルは自室に向かって歩きながら腕を組み、唸っていた。
理由は宝石蟻の天敵、
ドルドラン
四足歩行しているが宝石蟻の塚を壊す時は後ろ足だけで立ち上がる。
立ち上がると塚より少し小さいくらいの大きさである。
鋭く太い爪を持ち、それで塚を壊し、宝石蟻を捕食する。
もっとも特徴的なのは細長い顔ととても長い舌。
以上の情報から、その姿をジルは想像する。
馬のように面長で長い舌を口からだらんと垂らし、ジルが見上げるほどの巨体。
鋭く太い爪で塚を壊す、という事は体は熊のように強靭なのだろう。
馬と熊を合わせたような化け物だ、怖すぎる。
ジルは身震いしながら今回の召喚対象を思い浮かべた。
宝石蟻は手のひら大の大型の蟻。
人間にしろ他の生物にしろ、自発的に攻撃する事は無く、社会性を持つ。
頭は
攻撃的であればそこそこ危険だが、温厚な魔獣ならば大丈夫だろう。
やってみる、そして駄目なら改善する。
それがジルの実験スタイルだ。
「お~っし、準備準備!」
気合を入れ、素材を机の上に広げる。
複数種類の虫の甲殻、粘土
まず粘土塊を砕いて粉末にして大きめのガラス瓶に入れ、水を注ぐ。
虫の甲殻を大まかに砕いてから薬研で細かい粉末状にし、泥水に混ぜる。
クズ宝石を半分だけ泥水に放り込み、かき混ぜて召喚材は完成だ。
魔法陣は円形。
土と砂、石と宝石に関する言葉を書き込み、中心には蟻を模した絵を描く。
六本の足の先に宝石を山にして、中心に製作した召喚材を置き、準備は完了だ。
「さてさて~、始めますか~!」
腕まくりをして、魔法陣の前に立った。
目を瞑り、両手を前へ、魔力は召喚材に向かって送り込む。
その内部の宝石に魔力を吸わせて、泥水全体に広がるように
そしてそこから蟻の絵を通して、六本の足の先の宝石へ魔力を流していく。
濃い黄色の光が蟻の形に魔法陣から立ち上り、天井に蟻の姿を映し出た。
砂塵を思わせる
ぶわっ、と
「どうだっ!?」
ジルは目を開き、そこに現れたであろう蟻を見る。
「・・・・・・え?」
そこには見た事の無い生き物がいた。
四足歩行で毛に覆われたずんぐりとした大きな体をしている。
腹と顔は灰色、両足から背中にかけては茶色、顔の先から眉間まで黒い線が一本。
瞳は丸く、耳は小さく、そして何より顔が細長い。
面長などというものではない、ツルハシのような細長さだ。
時折、長い舌を出し入れしている。
その姿は愛らしくすらある。
その魔獣とジルの視線がかち合う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
もの言いたげなその魔獣と見つめ合ったまま、ジルは硬直する。
その魔獣も動かず、ジルと
「あ、この子が宝石蟻喰かぁ・・・・・・。」
召喚失敗した事を嘆きつつ、別のものが召喚出来た事を複雑な表情で受け入れる。
ジルはとりあえず怖ろしい姿の魔獣では無かった事を安堵した。
宝石蟻喰はジルの事をただただ見ている。
「あー・・・・・・、元居た場所にお送りしますぅ・・・・・・。」
ジルは召還術式を起動し、丁重に彼(?)を送り返したのだった。
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