第38レポート いでよ!獅子軍帥!
金の
眼光鋭く
いざいざ出陣、
アマツに伝わる妖怪の
かの妖怪は絵巻物にも描かれており、将軍を目指す子供たちが目を輝かせる存在。
腰に
心
「―――といった存在ですね。」
ぱん、と扇子で卓を叩いて話を終える。
まるで
「おおーー!」
「
「いやいやいやいや、すごかったよ!詩人さんみたい!」
「ははは、そこまで言っていただけると嬉しいですね。」
少しばかり照れたようにレンマは扇を開いて口元を隠す。
「それにしても不思議なんだけど、アマツ皇国って戦争した事あるんだっけ?」
「ありません、約五百年は平和です。あくまで、人同士の争い、に限ればですが。」
「あ~、アマツって魔獣が滅茶苦茶強いんだっけ。」
レンマはそれに頷く。
アマツ皇国は他国との戦争をしていない稀な国。
五百年前には統一戦争によって国土が荒廃したものの、それ以降は平和そのもの。
だが、戦いが終わったわけではない。
アマツの地には強力な魔獣が多い。
それこそ国の一軍をもって辛うじて討伐できる、といった魔獣が数年おきに現れる。
平和な国でありながら文武両道を旨としているのはそういった理由である。
それ故に、アマツの国民は
実際、目の前に座る柔和なレンマも初等級研究者としては格別。
3等級研究者にも
普段の様子からは全く想像することはできないが。
「私は精進が必要な身ですが皇国の将軍は凄い。いや、凄まじい、でしょうか。」
「へぇ~。やっぱりアマツの人って強いんだ。」
「そうでなければ、町から一歩出たら死、ですからね。」
「うわぁ、過酷。」
レンマに礼を言って部屋を後にした。
ころころとした毛玉が転がっている。
黄色い毛玉が道を転がっていく。
「なにコレ?」
ひょい、と拾い上げた。
ふにふにとした感触の毛玉である、としか言えない。
物体なのか、生物なのか、よく分からない。
「オウ、捕まえてくれたか。」
「アルーゼさん、なにこれ?」
「毛玉。」
「いや、それは分かってるんだけど・・・・・・。生き物?」
「どうだろうな、よく分かってねェ。どっちかって言うと精霊に近いんだろうが。」
腕組みしながらジルを見下ろし、毛玉に視線をやりつつアルーゼは言う。
「精霊?これが~?」
「ああ。だが勝手に動き回りやがる。阿呆が箱をひっくり返しやがってな。」
「あ~、んで転がってきた、と。」
「そういうこった。ほれ、返せ。」
手を出して、ちょいちょい、と指を動かし返却を
それを見てジルはニヤリと笑う。
「ふ、もし私が捕まえなかったら、これは無くしてたんだよねぇ?」
「・・・・・・何が言いたい。」
「無くした物でお金は取れないよねぇ?」
「・・・・・・お前。」
「それにいつまでもお店空けてて、良いのかなぁ~?」
「チッ、もういい、くれてやる。だが、次に店に来るときは覚えておけよ。」
いつも殴られているアルーゼから一本取った事にジルは小さくガッツポーズ。
そして、ふと思い出す。
自分が素材屋に向かっていたことを。
「やらかした・・・・・・。」
あの後、滅茶苦茶気まずい顔をしながら素材屋で買い物をした。
入口から中を覗いた時に目が合ったアルーゼの顔が忘れられない。
口元に笑いを浮かべた獲物を見つけた猛獣の目だった。
もちろん、盛大に嫌味を言われ、素材の金額を微妙に盛られた。
ぼったくられてはいないので、毛玉分の金額を載せてきたのだろう。
「ま、まあいいや、準備だ準備!」
気を取り直して実験の準備に取り掛かる。
実は先程の毛玉はちょうどよかったのだ。
召喚する獅子軍帥の毛色は黄色。
ふにふに毛玉も黄色。
共通する要素がある。
「この毛玉、どうやって使おうか・・・・・・。」
流石にすり潰す訳にもいかない。
そのままにしておくと、どこかに転がって行ってしまう。
少しばかり悩んだ末に細い木の枝を三本、中ほどから少し上の部分を紐で
その下方を開いて
これならば毛玉が転がっていく事は無い。
とりあえず机の上にその状態で置いておく。
他の要素は二つ。
鎧と軍配。
鎧については、魔獣が持つ鱗状の皮膚で代用可能だろう。
魔獣の皮膚は
簡単に刃物で切れないので、ノミを木槌で叩きながら地道に加工する。
問題は軍配だ。
アマツ特有の物であるため、この国で手に入れるのはほぼ不可能だ。
だが、その形に似たものなら有る。
特殊な
素材屋の端っこに置かれていたのを見つけたのだ。
これで代用する。
レンマより聞いた獅子軍帥の軍配の文字『常勝不敗』を白の塗料で書き入れる。
右上から縦に『常勝』と書き、中央の太い
慣れないアマツ文字をレンマに書いてもらったメモを見ながら書いた。
何だか文字がくねくねしている気がする。
一先ず、これで準備は大丈夫だろう。
魔法陣はマカミを喚び出した時に使用した四角形の陣を使う事にした。
芭蕉の葉を敷き、中央に篝火毛玉を設置する。
魔獣の皮で作り上げた鍬型を毛玉の上に置いた。
準備完了である。
魔力を送り込むと魔法陣から芭蕉の葉に魔力が
芭蕉の葉に書かれた四つの文字が白く光り、浮かび上がった。
浮かんだ字は毛玉の高さの空中で止まり、四つの文字から魔力の
毛玉の上に置いた鍬型がチリチリと音を立てながら燃えて、灰となって消えていく。
それに伴って毛玉が金色の光を放ち、どんどんとその光が強くなった。
唐突に、ぱっ、と強い光が部屋を包む。
同時に白い
「どうだ・・・・・・?」
獅子軍帥の話の通りなら、大柄な存在だろう。
魔法陣から手を離し、顔を上に向け、晴れ行く靄の向こうに目を
靄が晴れる。
視線の先に望んだ
ああ、失敗か―――
にゃぁ
「え?」
視線を落とすと茶トラ柄の猫がいた。
頭には
その軍配には『猫』と『神』の二文字。
それを紅白の
にゃぁ、にゃぁ
「成功、ではないよね、これは。」
猫はただジルに向かって無邪気に鳴いている。
これはどうしたものか、と思っていると―――
バァン!
「うわあっ!!!」
後ろの入口扉が勢いよく開け放たれた。
そこにはロシェがいた。
その目はいつもより輝いている気がする。
「猫。」
「え?」
「猫の鳴き声が聞こえた。」
「あ、ああ、今召喚してて、この子が―――」
言い終わるよりも早く、ロシェが飛び掛かり猫を抱き上げた。
いとおしげに猫の事を見ている。
猫も嫌がってはいないようだ。
「この子、どうするの?」
「召喚失敗、だと思うから、帰ってもらおうかと―――」
「じゃあ頂戴。」
「え?」
「頂戴。」
ロシェは希望を述べているが、有無を言わせない圧力である。
流石にその勢いに気圧される。
「う、うん。別にいいけど・・・・・・。」
「やった。」
抱き上げた猫を高く掲げる。
いつもよりロシェの表情が緩んでいる気がする。
こうして、ロシェの部屋に同居人が出来た。
アマツ風の名前が良いだろう、という事で『とらたろう』と名付けられたのだった。
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