第36レポート 縺?〒繧!蟷サ逋ス縺ョ逾!
ん?
おや。
おやおや。
こんな所に。
君は、誰かな?
そう、君だよ、君。
その窓の向こうからこっちを見ている、そこの君。
え、私は誰かって?
そうだね。
そのうち分かるはずさ。
君がその窓から見続けるつもりなら。
多分ね。
まあ、君の視点と私の視点は違うから。
交わる事は
君の見るべき場所に行くといいさ。
それじゃ、またいつか。
「ううん・・・・・・、よく分からないわね。」
ジルはベルの元を訪れていた。
目的は明白、昨日喚び出した蝶について何か分かる事は無いか確認するためだ。
蝶は今日もジルの周りを気ままに飛び、頭にとまりジルの髪の毛を弄っている。
相変わらず意思疎通は出来ないままだ。
「私は魔獣とか精霊とかの研究はしてないからね、流石に分かんないわよ。」
そう言ってベルは足を組む。
「魔獣生態学の連中に聞いた方が良いんじゃない?」
「そっか~、期待はしてなかったけどやっぱりか~。」
「聞き捨てならない事言うわね!よし!私もその蝶の正体探し手伝おうじゃない!」
がたん、と椅子を引き立ち上がった。
両手を腰に当て薄い胸を張る。
「お、自信あり?」
「あるわけないでしょ!」
「ええ~。」
「一人よりは二人の方が色々気付ける事もあるはずよ!さあ行くわよ!!」
「なんでベルちゃんが仕切ってるの!先に行っちゃったら蝶の説明できないよー!」
部屋から勢いよく飛び出し駆けて行くベルを追いかけ、ジルも走り出す。
二人で話し合い、まずは詳しそうな人からあたる事にした。
「むむ、これは分からないな・・・・・・。」
早々とノグリスから結論が出た。
「何でよ、判断早すぎない!?」
「いや、私が知る中で合致する魔獣等はいない。調べてみるが、望み薄だろう。」
「リスちゃん、何でそう言い切れるの?」
明確に言い切ったノグリスの言葉に対して、素朴な疑問をぶつけた。
そんなジルにノグリスは真剣な顔で説明する。
「魔獣というのは普通の動物とは違い、特殊な魔力を持つ。」
「特殊な魔力って?」
「私たちの使う魔力とは異なった、ほぼ違う物と考えるべきだろう。」
ノグリスは顎に手を当て、少し考える。
「例えるなら、翼竜が火炎弾を吐けるのに対して、私がそれを出来ない理由だな。」
「なるほど~。」
「そう考えると分かりやすいわね。」
ジルは感心した声を上げ、ベルは腕を組んで頷く。
「その蝶からはそうした魔力は感じない。精霊はそもそも存在が不確実だ。」
「ん?でも基礎魔法の訓練で力を借りたりしてない?」
「ああ。精霊は空気や水などと同じ存在、というのが魔獣生態学の見解だ。」
「っていうと、そこにいるだけ、って事かしら?」
「そうだ。少なくとも自身の意思で動き回ったりはしない。」
ノグリスは蝶を見る。
「その蝶は自身の意思で飛び回っているだろう?」
そう言われて二人も蝶を見た。
部屋の中をあっちへこっちへ。
棚の上の本の前で止まり、まるで背表紙を見ているように横へと移動していく。
確実に自身の意思があるような動きである。
「そういう訳で私は力になれそうにないな。」
「そっか~残念。ありがと。」
「仕方ないわね・・・・・・。」
申し訳なさそうな顔をするノグリスにジルは礼を言った。
残念そうな二人にノグリスは思いついた事を伝える。
「そういった存在はエルブンの方に何か伝承が残っているかもしれないな。」
「じゃあ次に行く場所はロシェちゃんの所だね!」
「次行くわよ!」
二人は再び、元気よく駆け出した。
「分かんない。」
一言。
すぱっ、とロシェは短く言い切った。
「早っ!もうちょっと考えなさいよ!」
「考えた。でもそんな伝承は無い。」
「無いのか~。」
がくり、とジルは肩を落とす。
「北部エルブンの伝承にも多分無い。」
「何でそんな事、言い切れるのよ?」
「基本的にエルブンの伝承は同じ。あくまで文化が違うだけ。」
「なるほど~。」
「アルーヴは分からないけど確かめようがない。」
「ああ、そういう事か・・・・・・。」
エルブンが北と南に別れたのは帝国の東部遠征から。
それまでは同じ森に住む仲間であった。
古い伝承は共通しているのだ。
アルーヴは原初的なエルブンで北部の奥地に住んでいる。
他種族とほぼ一切交わらないため、もちろんこの国にはいない。
聞きたくとも術がなければ、どうしようもない。
「それ、何となくだけど魔石と同じような力を感じる。多分。」
「魔石・・・・・・、じゃあ次に行く所は―――」
「エルカさんの所だ!」
三度、二人は駆け出した。
「おう、何だか急いでんな。」
駆けてくる二人に対してザジムが声をかける。
「あ、ザジム君!」
「丁度良いわ、アンタはこの蝶の事・・・・・・絶対に知らないわね、それじゃ!」
ほぼ停止することなく、二人は駆け抜けていった。
「な、なんだよ・・・・・・。」
取り残されたのは
「エルカさん、こんにちは!」
「エルカ様、失礼します!」
「あらあら、二人とも。いらっしゃい。」
実験の手を止め、二人に向き合った。
そしてジルの周りを飛ぶ蝶に気付く。
「あら?その蝶は?」
「昨日召喚したんですけど、この子が何なのかが分からないんです。」
困り顔でジルはエルカに助けを求める。
「リスちゃんに魔獣っぽくない、ロシェちゃんに魔石感じがする、って言われて!」
ザジムは存在すら忘れられている。
「あら、だから私の所に来た、という訳ね。」
「はい。エルカ様なら何か分かるのでは、と思いまして!」
ベルは背筋を伸ばして言った。
ジルへの態度とは全く違う、品行方正を旨とした態度だ。
彼女にとってはある意味、自身の師匠よりもエルカの方が重要な存在である。
「うーん、そうね・・・・・・。」
蝶は
ジルの周りを回りながら、その姿を、動きを、じっくりと観察した。
「結論から言うと、正直分からないわ。」
エルカは熟考した後にまず結論を伝えた。
「何と言うか、不思議な感じ、かしら?私の知識ではそれが何か判断できないわ。」
「エルカさんでもダメですか・・・、う~んどうしよう。」
「もっと経験と魔獣知識がある人なら、何か分かるかもしれないのだけれど・・・。」
三人で、ううん、と考える。
頭に手をやって髪をかき上げるジル。
腕を大きく組んで考えるベル。
左手で右肘を支えて右手で頬に触れつつ考えるエルカ。
それぞれの性格がよく出ている。
「あ、シャル
「そういえば聞いてなかったね。」
「あら、シャルガルテさんは今日いないはずよ。」
ベルの提案をエルカが否定する。
「大型魔獣の死骸が見つかって、解剖学の研究者が全員で出て行ったのを見たわ。」
「む、気が利かない兄弟子ね!」
「わぁ、無茶な道理でシャルガルテさんが責められてる。」
不在裁判でシャルガルテに無情な有罪が付きつけられた。
「そうだ、ゲルタルクさんならどうだろ?」
ふと頭の中に浮かんだ人物。
ロシェの師匠にして、造形の権威。そして変態。
非常に深い魔獣知識を持つ人物である。
人格的にはともかく、その知識と経験は頼りになる、はずである。
「あの人苦手なのよね・・・・・・。なんか視線が
「ふふふ、この国にいる人はすべてあの人の被害者だから諦めなさい。」
光の無い目をした笑顔でエルカはそう言った。
その様子に色々と察した二人は、次なる目的地へと向かって部屋を後にした。
「ぜぇぜぇ・・・・・・。」
「はぁはぁ・・・・・・。」
遥か上層。
ゲルタルクの自室はそこにある。
3等級以上の研究者には魔石エレベーターの使用が認められている。
上級研究者の多くは、自身の魔力で上層と下層を行き来できる者も多い。
だが、ジルとベルには上層に向かう方法が徒歩しかない。
そういう訳で、ここまで
「あ、足がぁ!」
「ぐ、ぐはぁ!」
最後の一段を踏みしめ、二人は廊下に転がった。
そして通りがかりの老年の研究者に声をかける。
「あ、あの~、ゲルタルク様のお部屋ってどこですか?」
「ん?ゲルタルク?あやつならあの部屋だが。」
部屋だが。
嫌な予感がする。
「先程飛び降りていったぞ?飯がどうとか叫んでおったから料理屋だろうな。」
「「え・・・・・・。」」
二人は思わず絶望の声を漏らす。
上層下層往復マラソンが決定した。
「「が、が、が。」」
二人の膝が笑っている。
まともに立てず、二人で抱き合って互いが互いを支える状態で歩いている。
目的地の料理屋は目の前だ。
「「み、見つけたーーーーーーっ!!!!」」
二人同時に声を発し、一番道沿いのテーブルに腰掛けるその人物を指さした。
その人物は口を付けていたコップを置き、ニヤリと笑う。
「おやおやおや?我が愛する弟子の友人たちではないか!!」
二人に対して、このゲルタルクに何か用かね!?とわざとらしく対応する。
「お、おき、お聞きしたい事がぁ。」
「ふむ、まあ、かけたまえよ。」
ボロボロの二人の様子に勢いを緩めてゲルタルクは着席を促す。
着席を促されてジルとベルは倒れ込むように椅子に腰掛けた。
「それで?何の目的だね?」
「あ、はい。この子について何かご存じ無いかな、と思って・・・・・・。」
頭にとまっている蝶を指さす。
それを見たゲルタルクの眉がピクリと動いた。
「ふむ、ふむふむ、ふむふむふむ!!!これは興味深い!!!!!」
「うわあっ!びっくりしたぁ!」
突然の大声にベルが跳び上がった。
そんな事など全く気にせず、ゲルタルクはジルの頭の上の蝶を観察している。
「ほほう、この翅は・・・・・・。この姿は・・・・・・。なるほどなるほど・・・・・・。」
「あ、あの、何か分かります?」
自分の頭の上で繰り広げられる観察会に流石に居心地が悪くなる。
「ふむ、まったく何も分からないねぇ!!!!!!!!!」
明確な回答が返ってきた。
真っ白な答案である。
「「ええええぇぇぇ~・・・・・・。」」
二人の努力は徒労に終わる事が決定した。
フラフラと立ち去る二人を見送る。
メガネの中心、ブリッジ部分を中指で押し上げてズレを直した。
笑みを浮かべていたゲルタルクの表情が変わる。
普段、うっとおしいほどにテンションが高い彼には似つかわしくない、真顔だ。
「恐ろしいものだねぇ、自分が何を喚び出したのか分かっていない、というのは。」
去っていく少女の後ろを飛ぶ蝶を見る。
くるりと振り返った蝶がこちらを見ていた。
小さなその姿には似つかわしくない、不思議な圧力を感じる視線だ。
「・・・やれやれ、触らぬ神に祟りなし、だねぇ。」
ゲルタルクは肩をすくめた。
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