第23話 ※閲覧注意 失って初めて知る気持ち
「きたくねぇけどきちまったよ」
目の前に広がる建物、お店、人々を見て懐かしいと思ってしまう自分に殴ってやりたい。なんせ俺が向かった場所は――「娼館通り」と呼ばれる娼館が沢山立ち並ぶ大人の街なのだから。
「ただ来たところでなぁ。適当に店に入って一日過ごすか。でもそういった店しかないし…」
端っこで呆然と立ち尽くし目の前のピンク色や紫色といったアダルティな色合いの街並みを人ごとのように眺める。
「お、ボールスじゃないか。久しぶりだな」
「あん?」
どうしようか悩んでいると背後から男の声が聞こえる。色々と重なり不機嫌だったので感じ悪く振り返ってしまう。
「お、おぉ。お前なんか雰囲気変わったな。中々顔を出さなかったから心配したわ」
男は一瞬眉を顰めるがいつもの友人だと思ったのか気さくに話しかけてくる。
コイツは確か――
黒のタンクトップ姿にガタイのいい体を持つ男の顔を見て思い出す。嫌な思い出を。
「――ダン?」
「おう。ダン様だぜ。今日もビンビンよ」
自分の腰を不可解に前後に揺らし軽い下ネタを挟みながら笑顔で挨拶してくる。
めんどくせぇやつにあった。
記憶にある「ダン」という腐れ縁又は悪友を思い出す。本名を「ダン・アルジャミン」。たまたま一人酒をしていたボールスの目の前に現れた男。自分と同じ「D」ランク冒険者の同じランク帯。酒好きで話が合い直ぐに意気投合。ボールスとは違って根はいいやつだが酒癖と女癖が悪く。娼館に通っているせいで嫌われていた。
「で、お前はここで何を…愚問だったな」
「おうよ。
やけに男前な顔を作るダンは一呼吸入れる。
「女を抱きに来たんだよ」
わかっていたがアホであった。
そこであることを思い出す。
「あれ? でもお前確か彼女いたよな? 俺に「可愛い年下の彼女ができたー!」って自慢してきたじゃないか」
「…あぁーそれな。いるが…飽きた」
真顔で清々しいほど潔いクズの発言を一言。
「彼女とはまだ付き合っているのか?」
「おう」
「でもお前彼女さんがいるから「俺も娼館は卒業だな。身を固める為に
記憶にあるダンの言葉を口にして問う。
「馬鹿やろう、仕事と遊びとどっちが大事だと思ってるんだ!!」
「お、おぉ」
突然逆ギレするアホ。なんか何処かで聞いたことがある
【お前は両○勘○か】
そんなことは思っても口には出さない。
「まあ俺の話はいいじゃねぇか。それよりもボールスよ。可愛い嬢ちゃん達に手ェ出したんだって?」
ニヤニヤとニヤついた気持ちの悪い顔でこちらを見てくる。正直うざい。
「お前も知ってたか…俺は手など出してない。ただのデマだ、デマ」
「別にそんな話はどうでもいい。その嬢ちゃん達は可愛いか、可愛くないかって話だ。で、どうよ?」
バカが真面目な顔で聞いてくる。正直周りの目もあるからあまり本当のことは言いたくないので適当に話しを合わせる。
「あぁ、可愛いよ。ただその子達凶暴でさ。俺は何もしていないのに股間をおもいっきり蹴られて今まで意識不明だったんだ」
「マジかよ…ヤベェなその嬢ちゃん達」
俺が話すと期待していた話しと違かったのか血の気の引いた顔を作る。
自分が消息を経っていたことも踏まえて適当なホラを話す。ダンは昔からバカなので信じると思っていた。案の定疑うことをなく信じてくれたので安心してる。
「あぁ。運が悪いことに俺のマイサンは蹴られる前はわんぱく盛りの元気一杯でよ」
「あ、あわわ、だ、大丈夫だったのか?」
目の前で顔を真っ青にして俺のマイサンを見てくる。別に何もされていないんだがな。やられたのはそのリーダーの息子。
「安心しろ。いまはなんともない。一時期はマイサンが折れたことのショックで倒れて大変なことになったけどな」
「折れ!?」
話しを聞いていたダンは自身の股間を押さえてガタガタ震える。その姿を見て笑いを堪えながら他人事のように話す(実際作り話だし)。
その後も身振り手振りで実際もクソも根も蓋もない捏造を話す。
「あぁ、あれはさすがの俺でも驚いた。もう根本からポッキリよ。ポッキリ。痛いのなんのって。次第には…くっ」
ここで話を止めて苦しそうな演技を入れるのを忘れない。
「し、次第にはど、どうしたんだよ! 怖えけどそこで止められるのもモヤモヤするから教えてくれよ!!」
「……」
ダンは少し涙目になりながら懇願してくる。もしかしたら自分が彼女に「浮気」が見つかった後のことを考えてしまったのかもしれない。実際
「…次第には先端からドロっとした血の塊がでてきてよ。気づいた時には初めの頃の痛みの非じゃないぐらいの激痛と喪失感。俺は痛むのを我慢してなんとか止血だけでもしようとした」
「そ、それで?」
「あぁ。なんとか周りの人に拭く物を貰って血が止まることを祈りながら耐えたな。その後は痛みやらのショックで気絶」
「え? 野外だったのか?」
「あぁ、街の真ん中だ」
「――」
事実を知ったダンは固まる。そんなダンの顔を見てボールスも吹き出しそうになったが堪える。なんとか苦笑を作って誤魔化す。
「ま、俺も悪かったんだ。彼女達に声をかけた俺が。聞いた話しだと彼女達にはイケメンで「A」ランク冒険者の彼氏がいたみたいだからな。ダン」
「な、な、なんだ?」
あからさまに動揺を見せる友人(アホ)。
「お前もふざけたことしてないで彼女さんのところに行ってやれよ。俺ほどではないがもしお前の「浮気」がバレたら…な?」
「わ、わかった。もう遊びはやめる。俺も真面目に向き合う」
俺の「な?」という問いかけにコクリコクリと首を縦に振る。
「ただこれだけは聞かせてくれ」
「なんだ?」
「…その後の息子の調子は?」
神妙な顔で問われたので目を伏せて肩をすくめる。
「…もう俺も忘れるさ」
「ボールス、お前…ごめん」
やり切ったような賢者タイム後のようなナニかを悟った顔をしていたのでダンは謝ってきた。
「でも、なんでお前の息子が、あれなのに。こんな場所に?」
「意識を取り戻したのが昨日でよ。お前がいると思って顔を出そうとしたのと。最後に
「そうだったのか。そんなことも知らずにはしゃいで、なんか悪かった」
「いや、お前に大切なことを教えられてよかったさ」
話すと二人で「フッ」と笑う。
「お前のお陰で俺は道を踏み外す心配は無くなった。けどボールスは今後どうするんだ?」
「変わんねえさ。俺は俺で適当にやってるわ」
「そうか。酒くらいは付き合うぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えるか」
そうして二人はいつものように肩を組むと娼館などに行くことなく夜の街に消えていった。
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