第85話「ハイパーポンコツアイドル」

「……あとは次回の番組本放送の評判が気になる……」

「そ、そうだねっ! そこが大事そうっ!」


 瑠莉奈と二三香は心配そうだが、俺はぜんぜん心配してない。


「大丈夫だと思うぞ。いい放送になっていると思う」


 まあ、俺の黒歴史公開処刑ショーでもあるわけだから気が重いというか、むしろ俺のほうがプレッシャーなのだが……。


「うん! きっとみんな人気が出るよーー! 瑠莉奈ちゃんも二三香ちゃんも、そして、しゅーくんもみんなに受け入れられてもらえるよーーー!」


 両手をブンブンと振り回しながら、太鼓判を推す菜々美。

 まあ、どうなるかな……。

 そんなに上手くいくかとなるとわからないとは思うが……。


 瑠莉奈と二三香はともかく、俺は叩かれる気がする。

 まあ、俺は被害担当艦でいいか……。

 こうなったら戦艦武蔵の如く攻撃を引き受ける。


 ちなみに戦艦武蔵の中にあった武蔵神社は埼玉県さいたま市大宮区にある武蔵一宮氷川神社から分祀ぶんしされたものらしい。氷川神社境内に戦艦武蔵の碑がある。


 卒アルも文集も晒されて怪文書まで送られてきた俺に怖いものはない。

 ただ、ダイレクトアタック(直接攻撃)とかは勘弁してほしいが……。

 アイドルじゃないのにボディガードがほしくなるレベル。


「神寄さんに頼んで屈強な黒服の人をしゅーくんに張りつけよっかーーー!?」

「い、いや、それは、まぁ……今のところ大丈夫だ……」


 むしろ、瑠莉奈と二三香のほうが心配である。

 瑠莉奈は腕力ぜんぜんだし、二三香は武道やっているとはいえ女子だもんな。


「やっぱりしゅーくんも瑠莉奈ちゃんも二三香ちゃんも一緒にホテル暮らししようよーーー! わたしも暇を持てあまさないしーーー!」

「いや、いつまでもってわけにはいかないだろ……」


 高級すぎて、かかる費用を考えるだけで恐ろしい。


「じゃ、わたしの住んでいるマンションに部屋借りて住むとかー!」」

「それもメチャクチャ高そうだろ」


 まあ、実際問題、俺たちの家は特定されてるんだよな……。

 なにかしら対策は練らないといけないのかもしれないが……。


「……いざとなったら、おにぃを盾にするから大丈夫……尊い犠牲になってもらう……」

「あ、あたしは一応剣道初段だし、柔道も習ってたし。たぶん大丈夫っ!」


 まぁ、それはそのとき考えるべきことか。

 あるいは、神寄さんから案が出るかもしれない。


「ともかく、次の放送が重要だよーー! これでわたしたちの人気が測れるーーー!」

「……次こそ、本格デビュー……」

「やっぱり緊張してきたっ!」


 落ち着かないな……。


「こんなときには高級寿司だよーーー!」


 それしかないのか菜々美は。

 すぐに高級寿司に脳内回路が直結する菜々美の財政は心配になる。


「……菜々美ちゃんの金銭感覚にあわせているとすぐに財政破綻しそう……」

「た、確かにっ」

「おごるから大丈夫ーー! そのためにこれまでたくさん稼いできたんだもんーーーー!」

「いやいやいや。節約思考を身につけたほうがいいぞ」


 もし芸能界を追放されていたら、この金銭感覚ではすぐにスッカラカンになりそうだ。


「じゃ、ハンバーガーにするーーー!」


 極端だ。

 でも、まぁ、高級寿司ばかり食べているよりいいのか?


「……自炊をするべき……」

「えーーっ!? 芸能生活が長いと、お弁当か外食しか選択肢が浮かばないよーーー!」


 やはり菜々美は俺たちと生活感覚が違いすぎる。


「……菜々美ちゃんの今後のためにも、瑠莉奈が家事全般を教える……」


 こう見えて瑠莉奈は家事能力が高い。

 昔から両親は出張が多かったので、俺たちはそこそこ家事ができるのだ。


「やだやだやだーーーっ! 菜々美ちゃんは歌って踊ってしゃべるしか能がないんだよーーー!」

 

 芸能に関してはどれも有能な菜々美だが、ほかの面では無能というかポンコツなのかもしれない。

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