第39話「恐るべし高級寿司パワー」
……二時間後。
「……うまい、うますぎた……」
俺は人生で初めて回転寿司以外の寿司を食べた。
あまりの美味さにカルチャーショックを受けた。
俺が今まで食っていた寿司とは、なんだったのか……。
チェーン店の寿司とはレベルというより次元が違う。
鮮度、味、見た目……もうなにもかもが違いすぎて比べるのもおこがましい。
あとは内装や接客からして高級感溢れていて、雰囲気だけでも萎縮してしまった。
だが、菜々美はこういう高級店に通い慣れているのかマイペースで大トロとかウニとかノドグロとかイクラとか頼んでいた。俺は意識的にサーモンとか安いものを選んでいた……。
「……おにぃ……瑠莉奈は芸能界に進む……そして、高級寿司を食べまくる……」
胃袋が陥落した瑠莉奈は、完全に芸能界に心が傾いたようだ。
やはり食い物の威力は大きい。
特に一般庶民である俺たち越草家にとっては絶大だった。
「えへへ~♪ 三人でお寿司楽しかったねぇ~♪ どうだった? しゅーくんっ♪ お寿司美味しかった?」
「……あ、ああ。信じられないくらいうまかった……」
やっぱり芸能人って、俺たち庶民と食ってるものが違うんだな……。
テレビでたまにやってる、庶民が行くようなチェーン店での芸能人の食レポとか絶対に本心では美味いと思って食ってないだろう……。そう思うぐらいにレベルと次元が違かった。
「しゅーくんに喜んでもらえてよかったよ~♪」
やっぱり菜々美とは住んでいる世界が違うんだよな……。
食の面でも思い知らされた。
「どうしたの、しゅーくん? 浮かない顔して……」
「い、いや……菜々美って、すごい稼いでるんだなって……」
「えへへ~♪ これでもわたしトップアイドルだからね~♪ でもでも、お金なんかいくらあってもしゅーくんと一緒にいられなかったら意味がないよーー!」
そこまで断言できるほどの価値が自分にあるとは思えないんだが……。
俺にはこの高級寿司に勝てる自信はない。
というか完全敗北していると言っていい。
お寿司しゅごい。高級寿司にわからされてしまった。
「……おにぃ……この高級寿司のぶん馬車馬のように働くべき……」
……うむ。そういう気にさせられる。
「しゅーくん、ぜんぜん気にしないでいいからね! むしろこれくらいなら毎晩食べてもいいぐらいなんだしー!」
やめて! もう俺のライフは0よ!
金銭感覚が違いすぎる! 恐るべしトップアイドル。
これでは菜々美からのあらゆる要求を拒否できなくなる。
庶民の俺は体で払うしかないレベル。
「……菜々美ちゃん、おにぃのことならもう好きにしていいから……」
さんざん不健全ポイントだなんだと言っていた瑠莉奈だったが、完全に菜々美の味方になってしまった。高級寿司の力すごい。
……って、これでは完全に抑止力がなくなってしまうじゃないか!
「えへへ~♪ お寿司で瑠莉奈ちゃんを味方につけられたのなら安いものだよぅ~♪ これでしゅーくんを思いどおり~♪」
これが財力チートというやつか。
資本主義怖い。
「……高級寿司の力の前に人民は無力……」
そして、妹の前に兄は無力なのだ。
妹より強い兄などいない。
「お寿司でお腹いっぱいになったし、あとはお部屋でゆっくりしよう~♪ しゅーくん♪ いっぱいイチャイチャラブラブしようね~♪」
身の危険を感じる。
しかし、もう妹の抑止力は期待できない。
俺、無事に明日の朝を迎えられるかな……(童貞的な意味で)。
正直、不安である。
高級寿司をおごってもらったことで、俺はピンチを迎えたのだった――。
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