第6話「俺の部屋でナニをする気だ!?」

「…………調べてみる…………」


 瑠莉奈はスマホを取りだして指を動かしていく。

 ツイッターでも検索しているのだろう。


「…………ん~…………」


 菜々美は画面をスクロールして、ツイートを確認しているようだ。


「……うーん……菜々美ちゃんについては、なぜか好意的なつぶやきが多いけど……でも……おにぃについてはネガティブなつぶやきが多い…………」


 十分に想像できる事態だ。

 ファンは激怒しているだろう。怖くて見る気になれない。


 神寄さんは仮面を外しながら、口を開く。

 再び表情は貼りつけたような笑顔になっていた。怖い。


「しゅーくんさんの住所がファンから特定されるのは時間の問題でしょうし身の安全のためにも、わたしたちと一緒にいるほうがいいと思いますよ~? 菜々美ちゃんのファンは熱烈というか狂信的な方もいらっしゃいますし~」

「……おにぃ……うちの住所が特定されてる……」


 うわあ、もうか。

 信者の方々恐ろしい。


「そういうわけで~、とりあえずわたしと一緒にきてください~。悪いようにはいたしませんので~。ほらほら、菜々美ちゃんも~」


 ここは神寄さんに従うのが賢明な選択かもしれない。

 今日は幸い土曜日。学校がない。

 ついでにタイミングよく学校の創立記念日が月曜なので三連休だ。


「ううう……でもでもでもぉー! しゅーくんとせっかく再会できたのにーーー! もう今日からここで同棲生活したいのにーーー!」

「ワガママ言わないでください~……これ以上駄々をこねるならば~……わたしもスーパー修羅モードに突入しますよ~?」


 神寄さんはカバンからロウソクを取り出した。

 俺の部屋でナニをする気だ!?


「ひぃい!? ロウソクはやだぁ!?」


 菜々美にとってトラウマらしい。

 いったい、これまでにどんなお仕置きを受けてきたのだろうか……。


「……アイドルって不健全……」


 瑠莉奈が冷たい瞳でつぶやく。

 俺も同感である。


「もう! わたしは健全だよ! 清純派アイドルだもん!」

「……清純派暴走自爆炎上アイドルってつぶやかれてる……」

「もうわたしの人生に悔いはないよ! あいあむじゆうーーー!」


 昔は割と引っこみ思案な性格だった気がするのだが、すっかり菜々美は変わり果ててしまった。まさかこんなエキセントリックになってしまうとは……。歳月は残酷である。


「……菜々美ちゃんのこういう暴走キャラがファンを爆発的に増やしてきた理由のひとつなので事務所としても悩ましいところだったんですよね~……」


 神寄さんが笑顔のまま遠い目をしている。これまでの苦労がしのばれた。

 まぁ、放送事故前からわりとマイペースすぎるアイドル活動をしてたからな……。


「しゅーくん、なに神寄さんにシンパシー感じてるみたいな表情になってるのー! ひどい! わたしたち永遠の愛を誓いあった仲でしょー!? わたしを支持してよー!」


 そこまで誓いあった記憶はない。というか、子どもの頃の「結婚をする」というのは普通はノーカウントだろう。


「しかし、菜々美、そんな昔のことを……」

「昔のこと!? まさかしゅーくん、わたしとの約束をなかったことにするの!?」

「い、いや、そういうわけでは……」


 ……ないのだが。

 でも、アイドルになってしまった菜々美と結婚するだなんて非現実的すぎる。


 そもそも俺たちは十一年ぶりに再会したのだ。

 急に結婚しようと言われて即承諾してたら、それはそれでおかしいのでは?

 理性的にそう考える俺だが、菜々美はみるみるうちに涙ぐんでいく。


「う、ううう~……しゅーくん、ひどい、ひどいよぅぅ~……」


 って、俺が悪者になっているだと……?


「……おにぃ……無責任……女の敵……」


 瑠莉奈からも冷たい視線を向けられる。

 今日だけで妹からの評価がダダ下がりだ。


「結婚の約束を忘れるなんて人間失格レベルですね~」


 初対面の神寄さんからもナチュラルにディスられてしまう。


 ……って、なんで俺の評価がここまで落ちねばならないんだ。

 幼稚園時代の俺にそこまで責任を負わせないでくれ!

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