第5話「暴走爆発炎上アイドル」

「ふぅ~……まったく菜々美ちゃんは困ったちゃんですねぇ~……これはお仕置きモードに入らないといけませんかねぇ~……?」


 神寄さんは持っていたカバンを開き、中から鞭(!?)を取りだした。


 さらにはアゲハ蝶をイメージしたような仮面(顔の上半分が隠れるような形状)まで出して、メガネを外して装着していった。


「ひぃい!? ま、待ってぇ、神寄さん!?」

「うるさい! この小娘!」


 ――ピシィイイ!


 鞭を手にして立ち上がった神寄さんは、床をしたたかに打ちつける。

 床めちゃくちゃ傷ついてる!? ここ俺の部屋なんだが!? 


「人が下手(したて)に出てればワガママ放題! 芸能界舐めんじゃないわよ! あんたのワガママでどれだけの損失が出てるかわかってんのかぁ!?」


 ――ビシィイイ!


 だからここ俺の部屋ぁ!? また傷がぁぁ!


「でも、だってぇー! そんなこと言っても愛は永久に不滅だもーん! お金より愛のほうが大切なんだもーーーん!」

「あんたが一人前になるまで事務所がどれだけの時間とお金かけたと思ってんのよ!?」

「で、でも、わたし一年目からわりと稼いでたもん!」

「業界の仁義舐めんじゃないわよ!?」


 ――バシィイイイ!


 俺の部屋の床のライフがどんどん減っていく。

 ……俺の部屋の床は、犠牲になったのだ……。


「……おにぃ……この人たち、すごく迷惑……」


 俺も同感だ。


「って、しゅーくん、なんで迷惑そうな顔してるの!? わたしの婚約者(フィアンセ)なんだから味方してよ!」

「……え? あ、ああ……菜々美、がんばれー」

「なにその適当な応援!?」


 だって、これ、俺の介入できるようなレベルの話じゃないし。

 高校生の俺ですら今回の騒動によって菜々美が事務所に与えた損害がトンデモナイことが想像できる。


「……というより……結婚するって公言したアイドルに需要ってあるの……?」


 そして、我が妹はポツリとつぶやいて核心を突いた。

 ……沈黙が訪れる。


 だが、神寄さんの鞭が床を打ちつけて静寂を打ち払った。

 意味もなく俺の部屋の床を傷つけないでほしい。


「……そう。普通ならアイドル生命は終わったようなものよ。でも、現在、SNSでは歴史に残る放送事故を起こした菜々美ちゃんを応援する流れになっている……」


 仮面に覆われた神寄さんの表情は、よくわからない。

 淡々と事実を述べている。


 ……そうか。まぁ、あんなメチャクチャな放送事故見たことないもんな……。

 炎上どころか、大爆発といった感じだ。


「……暴走爆発炎上アイドル……」


 瑠莉奈がポツリとつぶやく。確かに、そんな感じだ。

 しかも自ら爆発していった。菜々美の自爆炎上で俺まで誘爆している。


 まぁ、今回は犯罪とか悪いことをして炎上したわけじゃないから世間の中には面白がるような声もあるのだろう。


「わたしのファンはよく訓練されたファンだから大丈夫だよ! わたしたちの愛を絶対に応援してくれるよ! 絶対に!」


 菜々美は自信満々だった。

 でも、世の中そううまくいくものだろうか……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る