第46話 親友と仮恋人-side幽雅-2
灯屋君の能力に変化が現れる時、彼がよく訪れていたのはいつも同じ神社だ。
昔からよく遊び場にしていたし、大人になった今も変わっていない。
実際、灯屋君が病院に通う前にも神社に数回寄っていた。
落ち葉を重ねて下の葉だけを消すとか、土に埋めた石を消していたと報告を受けている。
一人で盛り上がって楽しそうにしていたらしいが、きっとその場には友人がいて、友人とはしゃいでいたはずだ。
その光景を想像してみると彼への心配とはまた別に、私の知らない灯屋君を知りたいと思った。
私が一番灯屋君を知っているはずなのに、その立場が揺らごうとしている焦りもある。
「すまない、新しい目的地情報をナビに送信した。そこに向かってくれ」
「はい」
私は運転手に指示を出し、帰宅せずに今すぐ神社に向かう事にした。
悪鬼の存在がわかる私ならば、何かしらの情報を得られるかもしれない。
その友人は灯屋君の前にしか現れないようだし、鉢合わせの可能性は低いはずだ。
気配を探索して神社が悪鬼の根城なのかだけでも調べておこう。
「私への尾行はあるか?」
「いえ。ここ二週間ほどはパッタリと無くなっています」
「ふむ……では増員の必要ないな」
私は状況に応じて護衛を配置する。周囲の警戒は常に怠らない。
しかし、最近はまるで私の存在が忘れ去られたように他者の監視が無くなった。
何が起きているのか不思議でならないが、それを考えるのは後にしよう。
今は比較的自由に動ける状況に感謝すれば良い。
二十分もすればあっさりと目的地に到着した。到着を阻害される予想もしていたから拍子抜けだ。
車から出ると随分と風が涼しく感じる。
人通りが無い訳でもないのに、神社周辺は木々のざわめきしか聞こえないような静けさがあった。
外からでは何も感じられない。今はここに悪鬼がいないのだろうか。
灯屋君と共によく同じカフェを使うみたいだから、そちらの方が実は正解だった可能性もある。
それならそれでこちらは安全ということだ。
私は恐る恐る一人で鳥居をくぐったが、特におかしな事は起きない。
少し進むとようやく悪鬼の気配を感じた。
しかし悪鬼の気配があるにはあるのだが、あまりにも微かで勘違いかと思った。
むしろ落ち着く気配でもある。灯屋君と一緒にいる時のような安心感と言える。
だが確かに何かがいる。下鬼よりも薄い気配なんて初めてで反応に困ってしまう。
すぐにここから逃げるべきなのか、判断が鈍ってしまった。
「本当に悪鬼なのか……?」
私が首を傾げていると、急に背後から声がした。
「はぁい、悪鬼でーす」
「うあ゛あ゛あ゛ぁあぁぁああああああ!!??」
突然のハッキリした気配と声に驚いた私は絶叫した。
何ならその場に尻もちをついてガタガタと震えて目に涙を浮かべている。
もう無理、絶対立てない。
男の声が突然背後から聞こえたら誰だってビックリするだろう!!
私はおかしくないぞ!!
パニックになっていると、困惑を滲ませた声がすぐ後ろで聞こえた。
「ビビりだとは聞いてたけど、ここまでとはなぁ……ちゃんとこっち見てみなよ」
「ひ、ヒィ……無理無理無理無理無理……」
ヤダヤダヤダ、絶対怖いじゃないか!!!
そう心の中で叫んだが、なんだか普通に話しかけられているような気がする。
テリトリーに入ると悪鬼の声が認識できるという事は多々あるのだが、今はテリトリーに入った感覚は無い。
普通の人間と変わらない雰囲気に、私は少しだけで落ち着いた。
恐怖心を押し殺して振り返ると、ロングコートが似合う随分と男前な長身の男が立っていた。
「み、み、みっ……見える……!?」
「な。ちゃんと見えるんなら何も怖くないんだろ?」
男はしゃがんで私の目線に合わせながらニコリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます