第23話 恋の自覚-Side灯屋-9



 この人は俺のためにこんなにも感情を露わにするのか。

 それはとても嬉しいのだが、愛情が重過ぎる気がした。

 ほんの数分話しただけの子供に対しての熱量がおかしくないだろうか。



「……幽雅さん、俺のことかなり好きじゃないですか?」



 つい、そう聞いてしまう。

 幽雅さんはフンと鼻で笑い、尊大な態度で言った。



「だから好きだと何度も言っているだろう。灯屋君のその強さに憧れ、私は自由になるべく自分を鍛えて能力も高めた。今の私があるのは灯屋君の存在が大きい。呪いだって君に捧げるつもりで磨いてきたしな」



 この人はとんでもない事を言っている自覚があるのだろうか。

 呪いを捧げるって、俺に命を捧げると言っているのと同義だ。

 俺への愛情を言葉端からヒシヒシと感じて真顔になってしまう。

 そんな俺に気付かず幽雅さんはまだ続けた。



「君は昔からすぐに危険に陥るだろう。私が見守っていなければ何度命を落とした事か。出会った時からずっと君を監視させていて正解だった。君には私が必要なのだよ」

「重いっ!!!!」



 ここが個室で良かったと思うほど、腹から声が出た。

 変な人だとは思っていたが、俺はまだまだこの人を甘く見ていたのかもしれない。

 幽雅さんは心外そうにムッとした。



「重いとはなんだ。虐待の証拠を掴み、しっかり正攻法で君を守ろうとしたのだ。しかしタイミングが良いのか悪いのか悪鬼関連の事件となって尚更君の行動を監視する必要が出てきたからな。まあ、そのお陰で能力が発現した時もすぐに対応できたのだから運が良いことだ」

「はぁ!? マジでずっとだし! まごうことなき年季の入ったストーカーじゃないですか!!」

「スッ……!?」



 一瞬だけ衝撃を受けた顔をした幽雅さんだったが、すぐに冷静な表情になる。



「……言われてみれば、確かに……?」

「言われなくても気付いてくださいよ!!」



 ある程度は常識的な人かと思っていたが、考えを改める必要があるようだ。

 とんでもない人を好きになってしまった。

 少し口元が引きつっている俺など気にも留めず、幽雅さんはドヤ顔で言った。



「まあ、ほら、能力者が発掘できたという正当な理由もあった訳だし、君に訴えられた所で揉み消せるくらいの権力が幽雅家にはあるから問題ないだろう」

「解決策が雑過ぎでは!?」

「ふははは! 私はある手札は全て使うタイプなんだ!」



 悪びれもなくふんぞり返る幽雅さんだが、それすらも可愛いと感じてしまう。

 だがこれだけは言わせて欲しい。



「そこまで長年俺に執着しておきながら恋愛感情が無いってのは理解できませんね。再考してください」

「さっ、再考と言われてもな……」



 急に恋愛方向に話をもっていかれて、幽雅さんはモゴモゴし始める。

 妙な所で純粋さを感じ、少しだけ優越感が湧いてしまう。

 自覚さえすれば、幽雅さんは落ちるのが早そうだ。

 俺はすかさず攻撃を仕掛ける。



「そもそもですよ。幽雅さんの俺への好きって感情がラブでない根拠はなんですか。普通ライクでディープキスなんてできないですよ。さすがに幽雅さんが嫌がってない事くらい、何回もキスしてるんでわかってますからね!!」

「む……」



 言ってやったぞ。

 長年監視されていたという事実に比べたら、これくらいの反撃可愛いものだ。



「そ、それは……だな……」



 本人にも自覚があるのか、少し耳が赤くなっている。

 これ以上無理に攻めるのも意固地にさせてしまうかもしれない。

 俺はそれ以上何も言わず、動揺する幽雅さんを笑顔で見つめていた。



「……ッ」



 幽雅さんが悔しげに押し黙ったところで扉をノックする音が聞こえた。

 俺達は料理の美味しそうな香りが漂っている事に気が付き、急に空腹感に襲われたのだった。


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