真実

バルドの言葉に驚きを隠せなかったが、バルドは話を続けた。


「お前達はこの戦の始まりの理由を知っているのか?」

「それはお前達が国境砦を攻め落としたからだ!」


バルドは首を振った。


「ならば何故、俺達が国境砦を攻め落とす必要があったと思う?」


どういう事だ?

レグルスはジャンヌを見た。


「そんな事は知らん!貴様らが国境砦を攻め落として各地で略奪を行っている。討伐理由はそれで十分だろう!」


「確かにな。それは否定しない。だがな、理由も知らずに利用されている哀れな勇者に真実を知る権利はあるだろう?」


「真実だと?」


「そうだ!神炎騎士団に利用されている哀れな勇者よ。お前達が蛮族と蔑むバルド族は、昔から『肌の色』が違うと言う理由から、邪神の崇拝する邪教徒として、この不毛な大地に押し込められた。この地は優良な鉱石が多く取れるが、地面は渇き、作物は殆ど育たない。遥か昔は罪人の流刑地だった場所に戦争で負けたバルド族が押し込められたんだ」


「何だって!?」


バルドはレグルスの驚きを無視して続けた。


「そして、大陸との唯一の通路に大きな国境砦を建設して出られなくした。俺達は僅かな食料と引き換えに、鉱石を格安で大量にお前達に卸していた訳だ」


レグルスの視線にジャンヌは答えた。


「ああ、蛮族と細々と交易をしている事は知っていた。しかし、内容までは知らない………」


ジャンヌの顔色も悪くなっていた。


「そうだろな。いつもくるヤツらは聖王の近衛兵ばかりだったからな。末端の者には都合の悪い事は伝えないだろう。俺は10年も前に神託を受け、叡智の宝珠を授かった。そして、叡智の宝珠はその名の通り、知恵を授けてくれる!渇いた大地でも育つ作物や土地の開拓。そして、効率よく鉱石を発掘できる技術など授けてくれた!これにより俺達は生きる術を身に着けたのだ。しかし、力を蓄えてきた事に気付いた聖王は鉱石の出荷と食料の販売を禁止した!再開して欲しければ…………同胞を奴隷として引き渡せとなっ!!!」


!?


「ば、バカな!?いくら金儲けの事しか考えていない聖王達でも、奴隷は大陸で禁止されている行為だぞ!確かに犯罪奴隷はいるが、鉱山などで働かせて任期がこれば開放されるのだが………」


「俺達は邪教徒だから人権は適用されないんだとよ。まだ国全体を賄えるほどの食料生産は出来てないんだ。聖王の要求を呑むしかなかった。だが…………」


バルドは拳を強く握り叫ぶ様に言った。


「心配になった同胞達がどのような扱いを受けているのか調べてみると、とても許しがたい扱いを受けていたのだ!せめて強制労働ぐらいなら何とか我慢できたが…………奴隷として連れて行かれた同胞達の多くは殆どが、虐殺されていた!王侯貴族達の『狩り』の動物として、ストレス発散のモノとして、とても人としての扱いをされなかったのだ!許せる訳がない!!!!」


バルドの目には初めて怒りと恨みがこもった。


「そ、そんな…………」

「そもそも、俺達の信仰する神はアストライアで同じなのだ。もし、俺に叡智の宝珠を授けたのが邪神なのなら俺は同胞を救う為に喜んでこの身を捧げよう!祈っても助けてくれぬ神など不要!邪悪でも我が一族を助けてくれる神を信仰する!」


バルドは全てを言い切ったとばかりに剣を構えた。


「さぁ!勇者レグルスよ!この俺を倒して大陸を救ってみせろ!哀れな神の使徒よ!」


ガギッーーーーーン!!!!!!


高い金属音が響いた。


「くっ!?」

「オラッ!どうした!敵の言葉に惑わされて力が出ないとは情けないヤツめ!!!」


レグルスは何が正しいのか分からなくなっていた。防戦一方のレグルスにジャンヌが止めに入った。


ガンッ


「グッ、しっかりしろレグルス!お前は女神に願われ、戦乱の世の中を救うんじゃ無かったのか!?」


咄嗟に止めに入った事で、ジャンヌは肩に痛手を負った。


「邪魔をするなっ!レグルスを良いように扱おうとしているクズ共が!!!」


バルドはジャンヌを吹き飛ばした。


「レグルス!貴様に揺るぎない信念はあるのか!命を捧げても救いたいと思う者はいるのか?そんな敵の言葉に動揺するようでは勇者は名乗れんぞ!さっさと死ぬがいい!!!!!」


レグルスはバルドの気迫に呑まれていた。








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