第132話
理由としては二つ考えられる。一つは本当に全く事件とは無関係だったから。
そしてもう一つは、背後から強力な圧力がかかり、規制が加わったから。
英理が見つけた小さな出版社から出されたルポライターの書籍では、事故が起こった当時の不審な状況と警察のあまりに杜撰な対応、そしてなぜか不自然なほど俎上に上らなかった脳科学研究推進プロジェクトについて記されていた。
『事故から丸一ヶ月の間、美咲が丘中学にはありとあらゆる報道陣が押し寄せ、日本全国のお茶の間の話題となった。
事故のことや美咲が丘中学がテレビに映らない日はなく、事件の本旨から外れたPTA会費の流用問題から教師の不倫疑惑まで、重箱の隅をつつくような微に入り細に渡る取り上げられ方をした。
それなのに、生徒たちが毎日実験と称して配られた二センチ×三センチの一口サイズのチョコレートを食べさせられ、月に一度は能力測定や血液検査をされ、綿密にデータが採取されていたことは拭ったように忘れ去られている。
何らかの人為的抑制が働き、情報操作がされた証左である。
しかし問題は、百歩譲って生徒たちが実験の都合で殺されたという荒唐無稽極まりない話がまかり通ったとして、そうだとするなら残りの二クラスのバスも同じく転落していなければ辻褄が合わないという点である。
また警察、報道、政府ぐるみで隠蔽するほどの何かが、脳科学研究推進プロジェクトにあったと断定できるだけの証拠はない。
その上、事故の一ヶ月後に、実験を事実上主導していた脳科学研究の権威・江本馨氏の自宅は火災で焼失、夫妻と自宅にあった研究資料は全て灰燼に帰している。
結局、真相は闇の中に葬り去られたままである。
犠牲となった四十一人の亡骸とともに。 』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます