第70話

「何?」


凜が怪訝そうに眉根を寄せる。


「IDとパスワード持ってるんだ。これでログインできるかどうか、試してみてほしい」


「それってお父さんのアカウントでしょ?勝手に入ったりしたら、履歴残っちゃって後でばれるよ」


「大丈夫、大丈夫。多分あの人、履歴調べるようなことできないから」


英理が軽く請け合うと、凜は表情を曇らせた。


「でもさ、いくら家族でも、そういうの気分よくないと思うな。英ちゃんだって、勝手にパソコンとか携帯見られるの嫌でしょ?」


全くの正論だった。


今頃、父は何も知らず、何も疑わずに弥生と新婚旅行に出かけているはず。


それを考えると素直に良心が痛んだ。


ぐうの音も出ずにいると、凜はやれやれといった様子で溜息をついた。


「……まあ、ログインして基本情報見るぐらいだったら、大目に見てもらえるかもしれないけど」


渋々ながら譲歩してくれたようだったので、英理はほっとした表情で「ありがとう」と言った。


「でも、MMOはスマホじゃプレイできないんじゃないのか?」


「いろいろだよ。パソコンだけとか、逆にスマホ専用とかもあるし。

翼の帝国はインターネットに接続できる媒体なら、スマホでもパソコンでもタブレットでも何でもOK。ただデータが重いから、通信速度が遅い環境だったりすると、読み込みに時間がかかったりとかはあるかも。やり出すと時間かかるから、通勤の暇つぶしとかには向いてないしね」


適宜説明を加えながら、凜はログイン画面に英理の指定したパスワードを入力する。


するとIDが認証され、扉が開いてホーム画面に切り替わった。

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