第67話



「え!英ちゃん、翼帝つばてい知らないの?」


気の進まない作業を終えた翌週の日曜日、映画を見に行った帰りの喫茶店で凜にさり気なく切り出してみると、彼女は目をぱっと見開いた。


「ツバテイ?」


「翼の帝国の略。単にツバサとか帝国って呼ぶ人もいるけど。本当に知らないの?めっちゃ有名じゃん」


凜は器用にスマートフォンを操作して、翼の帝国のサイトにアクセスすると画面を見せてきた。


「ほら、これでしょ」


父の書斎で見たものと全く同じものが、そこには映っていた。


「MMO参加者数ランキング、3年連続トップだからね。ユーザーアカウント1000万超えしてる、神ゲーの一つだよ」


凜のぷっくりとした唇から飛び出してくるポップな言葉の数々についていけず、英理は気恥ずかしい思いで尋ねた。


「なあ、まずMMOっていうのは」


何なのか説明してほしいと言う間もなく、間髪入れずに、


「MMOはMMOだよ。ソシャゲと違って、参加者協力型のRPG」


はにゃ?


混乱している英理に、凜は「何て説明したらいいのかな」と悩ましい様子で首を捻る。


何だか自分がとんでもない過去の遺物として扱われているような気がして、やたらと惨めだった。


もしかすると会社にいる年配の男性陣も、こういう思いをしているのかもしれない。


もう使えないガラクタを見るような、優しくて生温かい目と、おざなりな微笑。


「ソシャゲっていうのは、SNSに付属のミニゲームみたいなもの。プレイする媒体はスマホが主流で、気軽に1人で遊べて、SNSの友達と成果を見せ合ったりする。


MMOっていうのはマッシブリーマルチプレーヤーオンラインの略で、大規模多人数同時参加型のオンラインゲーム。

こっちは、基本的に単独で攻略することはできないの。パソコンのインターネットを通じてゲーム内で仲間を作って、パーティーを組んで一緒に攻略していく。

複雑だしマニア向けというか、そういう感じ」


分かった?と聞かれて頷くしかできないのは、小学生の算数の授業から変わらない。


分からないと言って失望されるのが嫌だから。

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