エピローグ  ご注文はビンタですか?

 誰も知らないオカマ姉さんとの夜の決闘を終えた翌日。


 ……というよりも、8時間ほど経った午前10時前にて。


 俺は相変わらず水着姿のまま、同じく水着姿の古羊を人気の居ない岩場まで連れ込んでいた。


 実は昨日の夜から一睡もしていない。


 ――のだが、俺の身体からは、溢れんばかりの活力が満ち満ちていた。


 別に『おはよう』には刺激が強すぎる古羊の水着を見たからでも、彼女の水着の裾から伸びる健康的な真っ白な太ももを目視したからでもない。


 いやまぁ、それも理由の1つではあるけれども……1番の理由が別にある。




「ど、どうしたの、ししょー? こんな誰も居ない岩場まで連れてきて?」


「古羊……。いや、我が偉大なる1番弟子、ヨウコ・コヒツジよ。いにしえ盟約めいやくに従い、真の姿を俺の前に晒すときが来たぞ!」


「古? 盟約? 真の姿?」




 意味が分からないよ、と言わんばかりにキョトンと首を傾げる、なんちゃってギャル。


 んもぅ! カマトトぶっちゃって、このお茶目さん♪


 俺はストレ●チ・パワーが溜まり始めた下半身を何とかなだめつつ、両手をスリスリり合わせながら、にっちゃり♪ と爽やかな笑みを顔に張り付けた。



「約束だよ、約束っ! ほらっ! 俺が大会で優勝したら、よこたんの生パイパイを拝謁はいえつさせていただくアレだよ、アレッ!」



 そう言って俺は、彼女の目の前で膝を折り、流れるように拝謁体勢へと移行した。


 ここまでの道のりは、決して楽なモノじゃなかった。


 オカマさんのお嫁さんにされかけたり、ハードゲイにお尻を掘られかけて1等賞しかけたり、なんちゃって虚乳女神(笑)にメバチ先輩との恋路を邪魔されたり、何故か『走る猥褻物』として香川県警にお世話になったりと、それはもう平坦な道のりじゃなかった。


 それでも、もがき続けたこの数日には、意味があったんだ。


 そうっ! すべては、よこたんの『大きなおっぱい』、略して『おっぱい』を見るために、必要な事だったんだ!


 チラッ、と彼女のパイパイを盗み見る。


 そこには相変わらず豊かに実った夕張メロンが、水着という拘束具の中でギュウギュウッ♪ に詰まっていて……強烈デカパイ眠眠打破っ!


 眠気なんて、一瞬で吹き飛ぶよねっ!



「さぁ、古羊よ! 約束の時だ! その可愛い水着で隠された魅惑のパイパイを、俺の前にさらけ出して貰おうか!」



 俺が最終ファイナルミッション『約束された勝利の性剣』作戦オペレーション:エクスカリバーを声高に宣言するのだが……あれ?


 なんか、古羊の反応がかんばしくないような……?


 いつもの古羊なら、ここで『いや、あの、その!? あ、あれはアバババババババッ!?』と、お顔を真っ赤にして、大人の玩具おもちゃよろしく小刻みに震えているところなのに?


 はて? と心の中で首を捻りながら、古羊の様子をうかがうと、なんちゃってギャル子は相変わらず頭の上に「?」を乱舞させていて……えっ?


 何そのリアクション?


 想定外なんですけど?




「ちょっと、よこたん? どうしたの、そんな不思議そうな顔をして? ししょーのお顔がイケメン過ぎて、ビックリしてるの?」


「いやだって……あの約束は無効になったでしょ?」

「はっ? ……はぁっ!?」




 我が1番弟子の突拍子もないセリフに、つい素っ頓狂な声をあげてしまう。



「えっ、無効!? なんで!?」



 い、一体何がどうなって――ハッ!?


 まさか、俺が知らないうちに世界線が切り替わったのか?


 ベータ世界線からアルファ世界線へと、移動してしまったのか!?


 チクショウっ、これがシュタイ●ズ・ゲートの選択かよ!?


 俺がこの世の不条理に怒りを覚えていると「あっ、そうか」と、ナニかに気づいたように古羊が声をあげた。




「ししょーはあの後、シシモトさんとパトカーに乗ってどっか行っちゃったから、知らないんだよね」


「知らない? 何が?」


「えっとね、ししょー達たちが警察官さん達にお世話になっている間に、仕切り直しで決勝戦が行われたんだよ」


「えっ、ナニそれ!? 俺、知らないよ!?」


「うん、知ってる。だってそのとき、ししょー警察官さんに連行されて、このビーチに居なかったんだもん」




 何でも大会運営の方は、俺とオカマ姉さんが同着ゴールした後、優勝者を出すべく、再び仕切り直して決勝戦をしようと試みたらしい。


 が、そのときには俺もオカマ姉さんも、青い服を着たサンタさんに『公然わいせつ罪』とかいうワケの分からん言いがかりをつけられ、パトカーという名のソリに乗って、このビーチを離れていたので、さぁ大変!


 決勝戦に選手が居ないという、エキセントリックな状況になってしまったのだ!




「だからね? 急遽決勝戦はね、見物していたギャラリー達を巻き込んで『〇×まるばつクイズ』をすることになったんだよ」


「俺の今までの努力は一体何だったんだよ……?」




 何ともやるせない気持ちが胸の奥から沸き起こって――ちょっと待て!?


 決勝戦が『〇×クイズ』だったということは、参加していない俺は、まさか!?



「どうやら気づいたようだね、ししょー」

「なぁ古羊よ? もしかして俺は、あそこまで頑張っておいて……棄権扱いなのか?」

「うん。しかも優勝は別に居るから、あの『約束』は無効だね」

「ガッデム!?」



 俺はその場で頭を抱えて、天をあおいだ。


 何で神様は、いつもこんな意地悪をしてくるのだろうか?


 何で俺は、いつも美味しいタイミングを逃すのだろうか?


 何で古羊の水着は、こんなにエッチなのだろうか?


 何で人は、同じ人間同士で争うのだろうか?


 何でこの世から、戦争は無くならないのだろうか?


 何で蛍すぐ死んでしまぅん?


 何で、なんで、ナンデ……?


 ……なんか途中から、自分が何に悩んでいるのか分からなくなってきたな。




「わわっ!? 泣かないでよ、ししょーっ!? その……結果は残念だったけどさ? また次があるよ。だからその、元気出して?」


「えっ、次があるの!? 次、頑張ったら、おっぱい見せてくれるの!?」


「そ、それは今回限りだよぉ!? もうおっぱいの営業は終了しましたっ!」


「チクショーッ!? 誰だ!? 誰が俺から『おっぱい』を奪ったんだ!? 誰が優勝したんだ、この野郎!?」


「――アタシよ、バカ野郎」




 古羊のおみ足にすがりついた俺の背後から、冷たい声音が降り注ぐ。


 まるで研ぎたての日本刀を首筋に当てられているかのような圧迫感。


 こ、この気配は……まさか!?


『ド ド ド ド ド』という某奇妙な冒険でお馴染みのあの擬音が、俺の耳の奥深くから聞こえ始める。


 俺は生唾を飲み込みながら、ゆっくりと背後へと振り返る。

 

 居て欲しくないときに限って必ず傍に居るという、神の悪意たる神秘の法則に基づき……奴はそこに居た。



「なるほど。どうりで2人の様子がおかしいと思ったら、そういうこと。謎は全て解けたわ」

「め、芽衣っ!?。ど、どうしてっ!?」



 俺の視線の先、そこには、岩場の影からコチラを覗くように顔を出していた、我らが生徒会長こと、羊飼芽衣さまが居た。



「おはよう、士狼。昨日は宿に帰ってこなかったから、心配したわよ?」



 そうサラリと言いのけて、岩場の影からひょっこり姿を現し、スタスタと俺たちの方まで歩き寄ってくる女神さま。


 今日も今日とて、お美しい。


 艶やかな黒髪を潮風に靡かせる姿なんぞ、心が洗われるようだ。




「め、メイちゃん!? な、なんで『そんな所岩場の影』に居たの!?」

「アタシの事は、今はどうでもいいのよ洋子。そ・れ・よ・り・も~? ねぇ犬?」

「……はい」


「その洋子とした『約束』って、何の事かしら? 誰の『ナニ』を見るのか、おバカなアタシにも、分かりやすく教えてくれないかしらぁ?」




 えぇ、もう余裕で正座っすよ♪


 不自然なまでにニコニコしている芽衣の目の前で、膝を折るナイスガイ、俺。


 上機嫌の芽衣の右手には、何故か釘バッドが握られていて……おっとぉ~?


 これはもしかしなくても、俺、死んだか?



「大神く~ん、古羊さ~ん、会長ぉ~……? みんなぁ~、どこぉ~……?」

「あっ!? め、メバチ先輩が呼んでる! お、俺もう行かなきゃっ!」



 姿が見えない俺たちを探しているのであろう。


 浜辺の方からメバチ先輩の救いの声が聞こえたので、俺は勢いよく立ち上が――




 ――ガシッ!




「あら、どこへ行くの士狼? まだ『お話』は終わってないでしょ?」



 ニッコリ♪ と、笑顔で俺の頭を押さえつける芽衣。


 ふぇぇ~……タマ取る気満々やでぇ、このぉ!?



「あっ、そうだ。洋子も、逃げようとしても無駄だからね♪」

「ひゃいっ!」



 音もなく、その場を離脱しようとしていた古羊の身体がビックーン!? と震える。


 その瞳は絶望に染まっていて……。



(バイバイ、ししょー。縁があったら、来世でまた会おうね?)

(諦めるな古羊っ!? 生きろ、そなたは美しいっ!)



 覚悟完了させた古羊の目尻から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


 えぇい、ナニか!? ナニか打開策はないのか!?



「――随分とまぁ、面白いことをしてるわね、アナタ達?」

「そ、その声はっ!?」



 俺の灰色の脳細胞が唸りをあげて高速回転しようとした矢先、明後日の方から声が響いてきた。


 俺たちは弾かれたように、声のした方向へと視線を向けると、そこには、いつかの喫茶店内で見かけた、真っ黒なライダースーツを身に纏ったキノコヘアーが立っていた。


 き、君の名は!?




「お、オカマ姉さんっ! どうしてここにっ!?」


「オカマじゃない、オネェだっ! ……そろそろこの地を去るから、その前に喧嘩狼に挨拶をしておこうと思ってね。お邪魔だったかしら?」


「全然っ! 全然邪魔じゃないよっ! なぁ古羊っ!?」


「う、うんっ! ボクたちもちょうど、シシモトさんとお喋りしたいなぁって思ってたところだからっ!」


「だよねっ!」

「あらそう?」




 首を外れろ! と言わんばかりに、俺と古羊の首がブンブンと縦に振りきれる。


 そのまま、何か言いたげ芽衣の言葉を遮るように、俺は慌ててオカマ姉さんに話題を振りにかかった。



「ところで姉さん? この地を去るって、森実に戻るってこと?」

「そうしたいのは山々なんだけど、ね」



 俺が膝についた砂を手で払いながら立ち上がると、オカマ姉さんは苦笑を浮かべつつ、肩を竦めてみせた。



「九州の方で『ハニービー』っていうチームが調子に乗っているらしくって、現地の【七星セブンスター】と合流して制圧してこい――って、副長に言われちゃった」

「じゃあ、これから九州に?」



 古羊の言葉に無言で頷くオカマ姉さん。


 アッチに行ったり、コッチに行ったりと、本当に忙しいオカマさんだなぁ。


 俺がオカマ姉さんのバイタリティに驚いていると、芽衣が不審そうな瞳で姉さんのことを睨んでいることに気がついた。




「九州って……。士狼と洋子の件は、もういいんですか?」


「よくないわよ。でもあたし、負けちゃったし……。これ以上、粘着するのはイイ女のすることじゃないわ」


「負けた? 決勝戦は引き分けだったじゃないですか?」

「『ソッチ』じゃなくて『もう1つ』の方よん♪」

「???」



 どういう意味? と視線だけで芽衣が俺に訪ねてくる。


 多分、オカマ姉さんは昨日の晩の決闘の事を言ってるんだよな。


 う~ん、あの浜辺での喧嘩を手短に説明するのは難しいし……時間のある時にちゃんと教えてやろう。


 俺は『また今度な』と、女神さまにアイコンタクトを飛ばしつつ、オカマ姉さんに笑いかけた。




「そっか。まぁ向こうでも元気にやってくれや」


「言われなくても。……あっ、そうそう。あたしを倒したんだから、次の【七星】が近いうちにやって来ると思うから、気をつけてね? 多分ソイツ、あたしより容赦ないから」


「うげっ!? マジかよ……」

「ふふふっ♪ モテる男はツラいわねぇ、色男?」

「ちょっと待ってください、獅子本さん」




 じゃあね☆ とウィンクを飛ばしながら、颯爽とその場を後にしようとしたオカマ姉さんを呼び止める芽衣。


 オカマ姉さんは「んっ? なにかしら?」と芽衣の方へと振り返った。




「1つ、質問させてください。どうして『洋子』と『士狼』を狙うのですか? 北斗連合は一体、何が目的なんですか?」


「あっ、ソレは俺も気になってた。なんで?」




 そうだよ! 俺はともかく、なんで古羊が【北斗連合】なんていう喧嘩屋集団に狙われなきゃならねぇんだ?


 そもそも、繋がりなんて何もないよね?



「んん~、そうねぇ……。あまり詳しい事は、あたしにもよく分からないんだけど、これだけはハッキリ言えるわね」



 そう言ってオカマ姉さんは、今後の俺たちの未来を左右する爆弾発言を口にした。




「あたし達【七星セブンスター】は、いいえ【北斗連合】は――古羊洋子のために作られた組織よ」







 …………………………はっ?





「し、シシモトさん? それって、どういう……?」

「これ以上は自分たちで考えてね。それじゃ、今度こそチャオ♪」



 手とお尻をフリフリさせながら、振り返ることなく岩場の影をあとにするオカマ姉さん。


 そんな姉さんの後ろ姿を眺めながら、古羊が呆然ぼうぜんと呟いた。




「ほ、【北斗連合】がボクのために作られた組織……?」


「い、意味わかんねぇ……。『古羊のために作られた組織』ってのも分かんねぇし、なんでそんな組織が俺を狙ってんのかも分からねぇよ」


「……確かに。現段階では情報量が少な過ぎて、結論を出すことが出来ないわ。でも今、これだけはハッキリと言える」




 混乱する俺と古羊に向かって、芽衣は力強く、こう言った。




「とりあえず『洋子のおっぱいを見る』っていう約束の件について、詳しく聞きましょうか?」




 思考が数秒ほど、飛んだ。


 えっ?


 このドシリアスな流れで続けるの、ソレ?




「め、メイちゃん? 今はそれどころじゃないと思うよ?」


「そ、そうだよっ! 古羊の言う通りだよっ! 今はこれからやって来るであろう脅威に備えて、3人の結束を強めるべきだと思うぞ!」


「2人とも、正座」


「いや、メイちゃん? だからね? それどころじゃないと思うワケでして……」


「正座」


「あっ、そうだ! こんな所で立ち話もなんだし、海の家にでも行って、ご飯を食べながら相談しようぜ!?」


「正座」


「そ、それいいね、ししょーっ! 3人で、ちょっと早めの昼食でも取ろうか!?」


「正座」


「おいおい、メバチ先輩を忘れてるぞ古羊? このお茶目さん♪」


「正座」


「あっ、そうか。ボク、うっかりしてたよ!」


「正座」


「「アハハハハッ!」」


「――2人とも」




 芽衣は見る者すべてを魅了するような、愛らしい笑みを顔に張り付けて。



「もう1度、言わせる気?」



 ……あぁ、ここまでか。


 俺は古羊の方へと視線をよこす。


 古羊も俺の方へと視線をよこしていた。


 どうやら、考えていることは同じらしい。


 流石は師弟。


 瞬間、心を重ねているね♪



「ししょー」

「あぁ、そうだな」



 古羊と俺は、2人して仲良く頷くと、芽衣に向かって満面の笑みを浮かべてみせた。




「古羊洋子」

「大神士狼」


「「正座、します」」


「んっ、よろしい♪」




 どうやら今日も、長い1日になりそうだ。


 俺はそんな確信にも似た予感と共に、1番弟子と共に、熱した砂浜へと膝を折るのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



お久しぶりですっ! けるたんですっ!


本当なら、次の部で士狼の過去編をするハズだったんですが、自分の書きたいモノを見失ってしまい、洋子ルートは一旦ここで終了ですっ!


ほんと申し訳ないですっ!


メンタルが持ち治ったら、続きを更新するかもしれませんが、とりあえず、一旦ここでお別れですっ!


ほんと、ここまで応援してくださり、ありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「天使」と呼ばれている学校1かわいい美少女が、俺の恋路を邪魔してくる件について けるたん @kerutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ