第3話 BURUMA ―ブルマ― 卑の意志を継ぐ者

 体操服に着替え、生徒会室を後にした俺と古羊は、さっそく校舎裏にあるあまり使われていない体育倉庫へと移動した。


 ……まではいいのだが、ここで『ある問題』が浮上してしまった。



「ねぇ古羊ちゃん? なんで今日はハーフパンツじゃなくて、ブルマなの?」

「うぅ、こっちを見ないで、ししょー……」



 ポッ、と頬を赤く染めながら、上着の裾を引っ張って、なんとかブルマを隠そうとする古羊。


 だがそうすると、今度はピッチリと胸が強調される格好になってしまい、さらに顔を赤らめてしまうなんちゃってギャル。


 こ、この女、天然で男のツボを突いてきやがる……っ!? 


 なんだコイツは? 天性の北斗的な神拳の使い手か?


 ヤダ、強そう。色んな意味で。


 俺の視線から逃げるように身体をくねらせる古羊、それが俺の目には余計に扇情的に見えてしまい、お股に住む我が息子も「おっ? 出番か?」と鎌首をもたげ始め――危ないっ!? 古羊の貞操が危ない!?



「そ、そんなにジロジロ見ないでよぉ~」

「いや、そんなに恥ずかしいなら、なんでブルマなんか履いて着たんだよ? 最高かよ? ありがとうございますっ!」

「こ、これはしょうがないんだよぉ!」



 そう言って、古羊は事ここに至るまでの道筋を丁寧に教えてくれた。


 曰く、どうやらここに来る途中、運悪く園芸部の水撒きをハーフパンツがモロに被ってしまい、結果パンツはびしょ濡れ。


 このままじゃ仕事にならないということで、保健室で替えのハーフパンツを借りに行ったら、何故かブルマを差し出されたとのこと。


 時間もないし濡れたハーフパンツよりはマシということで、覚悟を決めてブルマを履いて現在に至ると……ってちょっと待て!


 ということはおまえ、まさか!?


 ジーッ、とお尻の形が如実に表れているブルマを凝視していると、古羊はモジモジと居づらそうに膝を擦り合わせた。



「ど、どうしたのししょー? そんなにブルマなんか見つめちゃって? は、恥ずかしいよ……」

「いやちょっとした疑問なんだが……。もしかしておまえ、今、ノーパン?」

「で、デリカシーッ!? ししょーにはデリカシーってものが無いの!? 普通、女の子にそんなこと聞かないよ!」



 カァーッ! と顔を赤くして「バカバカ! ししょーのバカ!」と憤慨ふんがいする古羊。かわいい。



「失礼な! 俺だってこんなこと、おまえ以外には聞かねぇよ!」

「うぅっ!? 曇りなきまなこでそんなこと言わないでよぉ……。でもそっか……ボクだけか」



 えへへ……と、ムニムニ動く唇を必死に噛み殺そうとする古羊。


 その横で、俺は人知れず冷や汗を流していた。


 自分で言っておいてアレだが、今の結構な変態発言じゃね?


 コレさ、古羊に出るところ出られたら、マズイんじゃねぇの?


 ……まぁあの様子からして、芽衣にチクることも無さそうだし、安心していいのかな?



「それで? パンツは履いているのか? どうなんだ、うん?」



 チクられない事を確信するや否や、途端に強気に出るシロウ・オオカミ。


 そう、俺は知っているのだ。


 この女、多少こちらが強めに主張すれば、余程のコトが無い限りは「しょうがないなぁ」と苦笑を浮かべながら、大体のことは許してくれるということにっ!


 まったく、なんて男にとって都合のいい……じゃない、イイ女なんだ。


 10万シロウ・ポイントを贈呈してやろうっ!



「そ、そんなに知りたいの?」



 上目使いで尋ねてくるヨウコ・コヒツジ。


 かかった! と内心ガッツポーズをかましながら、コクコクと何度も頷く。


 古羊はシュボッ! とりんごの如く顔を真っ赤にしながら、蚊が鳴くような小さな声で、



「そ、その……履いてないです、はい」

「なんで履いてないんだテメェ!?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんで怒られてるのボクっ!?」



 かつッ! と目を見開き、古羊を力の限り叱責する。


 この女、ブルマを履いているくせに、パンツを履いていないだと? 


 そんなのブルマに対して……いや俺たちブルマニストに対しての冒涜だ!



「いいか古羊? ブルマっていうのはな、現在では二次元をはじめ、いかがわしい意味合いで言えば日本代表として名高いスクール水着に並ぶ、若さとエロさを象徴する性的フェティシズム衣装の1つなんだぞ」

「唐突にししょーの自分語りが始まっちゃったよ……」



 古羊がうんざりした顔を浮かべたが、どうやら聞いてくれる意志はあるらしく、「どうぞ?」と視線だけで続きを促してきた。


 その期待に応えるべく、俺はブルマのポテンシャルについて熱く、されど短く答えてやった。



「確かに100年ほど前は、エロさの欠片も無いちょうちんタイプの代物だったさ。けどな? 男達の血と汗と涙と努力により、70年代頃には今現在も知られているフトモモ露出タイプのピッチリしたエロス100%なモノに変容したんだっ!」

「ねぇ、なんでそこまで詳しいのししょーっ? 純粋に怖いよ?」

「こんなの義務教育の一環だろうが」

「どこの世界の義務教育なの、ソレ……?」



 明らかにココじゃない、別の平行世界のお話だよね? と、呆れた瞳を向ける古羊に、俺も呆れた瞳で見返してやる。


 まったく、ブルマの歴史なんぞ、いまどき幼稚園児でも知っている一般常識だろうに。


 コイツは一体、義務教育で何を勉強してきたんだ?


 そんな無知の知を極めているとしか思えないギャル子さんにも分かりやすいように、俺は親切丁寧に説明してやった。



「揺れるケツ、そして食い込んだブルマを人差し指でクィッ♪ と直すその仕草。だがブルマの最大の魅力はそこじゃない。ブルマの最大の魅力……それは――そうっ! かすかにハミ出た魅惑のパンティだ!」



 女の子が恥ずかしがりながら、パンティをブルマの中に仕舞い込むその姿こそ、ブルマのポテンシャルを最大に引き出す瞬間なのだ!


 だというのに、この女は……パンティを履いていないだとぉ?


 正気の沙汰とは思えねぇ、どこの痴女だおまえは!?



「謝れよ! 俺とブルマに謝れよ!?」

「うん、まずはししょーがボクに謝るべきじゃないかな?」

「ほんと生まれてきてゴメンね?」

「いやそこまで卑下ひげしなくてもいいよ……」



 古羊の冷たい視線を真正面から受けとめ、改めて我に返る。


 うん、さっきまでの出来事を改めて思い返すと、相当やべぇヤツだな俺。


 ここに青い服を着たサンタさんが居たら、問答無用で職質、およびパトカーと言う名のソリで強制帰宅しているところだ。



「もう、こんなことしてたら日が暮れちゃうよぉ」

「おっとぉ、つい熱くなりすぎたみたいだな。そんじゃま、そろそろ本格的に仕事を始めるか?」



 うん! と頷きながら俺に背を向け体育倉庫の中へと入って行く。


 俺はプリプリと左右に動く古羊のヒップライン、いやブルマラインを眺めながら彼女に続くべく倉庫の中へと突貫する。



「う~ん? 結構ゴチャゴチャに置かれているから、探すのに時間がかかりそうだねぇ」



 難しい顔をしつつ、乱雑に置かれた荷物の中に顔を突っ込む古羊。


 途端に「触ってくれ!」とばかりに、俺の方にその形の良い肉厚の丸いお尻がぷりん♪ と差し出される。


 う~む……改めて見返してみると、コイツ本当に良い体しているんだよなぁ。


 触り心地が良さそうなムチムチとした身体。


 だというのに『ぽっちゃり』という印象を抱かないのは、きっと出るとこが出ていて、引っ込むところが引っ込んでいるからだろう。


 なにより目を惹くのは、栄養が全部おっぱいにいったかのようなあの爆乳。


 ほんと、どこかの虚乳生徒会長さまに分けてやりたいくらいだよ。



「あれれ~? 無いなぁ? どこいったんだろぅ?」



 ふりふり♪ ふりふり♪



「んん~? コッチの方かなぁ?」



 ふりふり♪ ぷるんっ♪



「…………」

「やっぱり見当たらないなぁ。ししょー、そっちは何か見つかった? ……ししょーっ?」



 古羊が何か言っているようだったが……正直、どうでもよかった。


 それよりも、俺の感心はもっぱら『ふるふる♪』と揺れる彼女のデカ尻に釘づけである。


 もう、なんて言うか……凄いぞ?


 その大きなお尻があっちに『ふりふり♪』、こっち『ふりふり♪』と、まるでダンスするかの如く、左右になまめかしく揺れる。


 まるで子犬のシッポのように、ふりふりふりふり♪ と揺れるその光景に、思わず『ブラボー』と叫びそうになったよ。


 む、婿入り前の乙女がなんてはしたない! いいぞ、もっとやれ!



「あった、あった! ししょー、森実祭用の看板を1つ発見したよ! ……って、こんな時にドコを大きくさせてるの!?」

「うん? おっと、いつの間に?」



 パッ! と子犬のように振り向いた古羊が、ギョッ!? と目を見開き、一瞬で顔を真っ赤に染めてしまう。


 その視線の先を追うように顔を下げると、そこには俺のオマタノオロチが『やぁっ! また会ったね?』と小粋に微笑んでいた。


 コラコラ、粗相をしちゃメーでしょ? と、オロチを退治しながらペコリと頭を下げる。



「す、すまん古羊。ウチの愚息が大変失礼なことを……」

「お、親が親なら子どもも子どもだよっ!」



 混乱しすぎて訳が分からないツッコミを入れる古羊。


 あと関係ないんだけどさ、どうして女の子の侮蔑ぶべつの眼差しはこうも男のイチモツを聖剣へとエクシーズチェンジさせてくれるのだろうか?



「――なぁどう思う? なんで女の子に嫌な顔をされると無性に興奮すると思う? 俺の持論では、おそらく女の子に嫌な顔をされることによって無限に妄想が膨らみ、結果欲望も膨らむからこそ、おティムティムも膨らんで、より一層興奮するんじゃないかと推測できるんだが……どうだろう?」

「いや知らないよ!? そんな真面目な顔で『どうだろう?』とか言われても、答えられないからね!?」

「ハッ! そ、そうか! なんでモザイクがあんなに興奮するのか、今、分かったぞ! 部分的にそこなわれている方が妄想で補うことが出来て、より興奮できるんだ!」

「そんな同意を求めるような目でボクを見ないでよ! 知らないよ! エッチな動画なんて、今まで1度も見たことがないんだから!」



 俺が世界の真理に触れている傍ら、古羊が『無駄話はおしまいだ』とばかりに、手をパンパンと鳴らした。


 間違っても、腰と腰のぶつかった音ではない。



「く、口じゃなくて手を動かして、ししょーっ! このままじゃ帰れないよ?」

「へーい」



 生返事をしながら、さすがにそろそろ仕事を開始し始める。


 いやぁ良いモノも見れたし、やる気充分! 元気バリバリ!


 さぁ、今日も頑張っちゃうぞ!


 俺は気力を満ち溢れさせさながら、名残惜しくも彼女のお尻と別れを告げ、古羊の隣へと足を進めた。

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