第22話 イケナイ怪盗~ヘンタイ パラダイス~
結論から言って「司馬ちゃんパンティー返却計画」は全部失敗に終わった。
授業合間の休憩時間やお昼休み、全ての時間において羽虫が如く司馬ちゃんの周りに集まる
まあ男達の気持ちは、分からなくもないんだけどね。
なんせ司馬ちゃんのような一等星の引力に惹かれるのは、凡人としてしょうがないとすら思う。
けどさ? 司馬ちゃんがトイレに行っている時間くらいはさ、普通に散らばれよ?
なんだよお前ら? 忠犬ハチ公か? ハチ公の生まれ変わりか?
いやはや、最初から難易度は高いとは覚悟していたが、まさか鞄に触れる隙さえ与えてくれないとは……流石はあの大和田信菜ちゃんと並んで『1年生美少女ランキング』同率1位なだけある。
もうね、気がつくと夕方の4時30分っていうね。
そんな俺たちの心の焦りなど、もちろん知らない司馬ちゃんは、本日分の森実祭のクラス準備も終え、今日も今日とて元気に部活動に勤しんでいた。
そして俺たちも――
「よし、行くぞ!」
――司馬ちゃんを見習って、うさみんと2人で元気一杯に、陸上部の女子更衣室へと潜入しようとしていた。
「のう1号? これは絶対に違うと思うのじゃが……」
俺と同じく全身黒タイツ一色に身を染めたうさみんが、極めて冷静な口調で俺に語りかけてくる。
ちなみに芽衣と古羊は溜まっていた生徒会の仕事を消化するべく、本日はお休みである。
「しょうがねぇだろ? こうでもしないと司馬ちゃんのパンティーを返却出来そうにないんだから」
「そ、それは分かるが……流石にすぐそこで運動部が部活動をしている手前で侵入するのは、中々にリスキー過ぎると思うのじゃが……?」
「安心しろ。俺もそう思って、今日はスペシャル・アドバイザーを連れてきた」
「すぺしゃる・あどばいざぁ~?」
小首を傾げるうさみんに「あぁ」と短く首肯しながら、俺は彼の名前を呼んだ。
「先生、お願いします」
「――どうやら、時が来たようだな」
刹那、蜃気楼が如く俺の横の空間が歪んだかと思うと、音もなくうさみんの前に脂ぎったオジさんが姿を現した。
卑猥極まる桃色のパンティーで頭を武装し、夏場だというのに目に眩しい真っ赤なマフラーを首にかけ、「それ何の意味があんの?」と思わず尋ねたくなるようなピッチピチのホットパンツを身に纏い、クールビスと言わんばかりに上半身裸にサスペンダーを装着した、正義の心と熱き魂を標準装備した彼の名前は――
「アーッハッハッハッハッハッハッ! 天が呼ぶ、地が呼ぶ、乙女が呼ぶ! パンツを盗めと我を呼ぶ! 聞け、乙女どもよ! 我の名前は変態仮面!
「紹介しよう、うさみん。2カ月前、森実に住む数多の女性たちを震撼させ、その名を神話に刻み込んだ、その道のプロフェッショナル。伝説の下着泥棒こと『変態仮面』さんだ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッッッッ!?!?」
天を切り裂かんばかりのうさみんの悲鳴が大地を震わせた。
友人の本気の拒絶を目の当たりにした、大神士狼16歳の夏。
「誰かぁ!? 変態じゃっ! とんでもない変態じゃっ!
「アッハッハッハッハッ! これはまた派手に嫌われたものだな。流石の我も、ここまで分かりやすく拒絶されると悲し過ぎて――勃起しそうだ❤」
「いやぁぁぁぁ――ッ!? お母ぁぁぁぁさぁぁぁぁぁ――んっ!?」
うさみんの悲鳴と共鳴するかのように、変態仮面のホットパンツが3Dになっていく。
その姿はまさに神話の1ページを見ているかのようであり、風の谷あたりで『その者、ピンクのパンティーを頭に
「落ち着けよ、うさみん。これから協力して貰うって言うのに、その言い分は失礼だぞ? すいませんね、変態仮面さん? ウチのパツキン巨乳が」
「協力っ!? ハァッ!? この変態にっ!?」
正気かキサマッ!? と汚物を見るような目で俺と変態仮面を見やるロリ巨乳。
正直、他人の彼氏を寝取ろうとする女に正気を疑われるのは酷く心外だったが、時間も無いのでスルーすることにした。
「今日は昨日みたいにヘマをしたら1発アウトだからな。万全を期して、その道のプロにサポートしてもらうことにした」
「なぁに、気にすることはないよお嬢ちゃん。紳士として当然のことをしてるまでさ」
そう言って無意味にサスペンダーを引っ張って、ペッチィィィンッ! している変態仮面。
俺はそんな変態仮面にスッ、と右手を差し出して、お互いの友情を確認し合うように固い握手を交わし合った。
「今日はよろしくお願いします、先生」
「フッ、他ならぬ
「おい1号っ! ワガハイたち、ヤベェ奴を女子更衣室に手引きしようとしとらんか!? 大丈夫か!?」
「気にするな、大事の前の小事。大義を見失うなよ、うさみん?」
「どちらかと言えば、見失っているのはキサマの方の気がするがな……」
うさみんのワケ分からんツッコミを華麗に無視しつつ、俺と変態仮面は周りの生徒たちに気づかれないように、細心の注意を払いながら女子更衣室前へと移動した。
「文句を言ってないで早く来い、うさみん。時間がねぇんだから」
「わ、分かったわい。どうなっても知らないからの?」
しぶしぶと言った様子で俺たちの後を着いてくるうさみんを横目に、変態仮面が女子更衣室のドアノブをゆっくりと回した。
が、やはり鍵がかかっているようで、ガチャンッ! と無機質な音が鼓膜を叩いた。
「……Cタイプか」
「いけますか、先生?」
「ふっ。誰にモノを言っている
変態仮面はパンツの中から(あっ、頭に被っている方ね!)ピッキングツールを取り出すと、手慣れた動きでジャコジャコと鍵穴を弄りはじめた。
「この程度、我にかかれば、真夏のビーチでナンパ待ちしてる女子大生をお持ち帰りするよりも簡単なことよ」
「流石です、先生」
「……なぁ、もうワガハイ帰ってもええかえ?」
カチャリッ♪ と開錠する音と共に、自動ドアと化したヤリマンギャルのお股のごとく簡単に開いていく女子更衣質の扉。
「よし、開いたぞ
「はいっ! 行くぞ、うさみん」
「えぇい、もうどうにでもなれっ!」
うさみんの声を皮切りに、俺たちは滑り込むように女子更衣室の中へと入室した。
ふ~む、ここが女子更衣室かぁ。
なんだか思っていたのとは大分印象が違うなぁ。
もっと小奇麗なイメージがあったんだが、物は散乱していて、ぶっちゃけ汚い。
男が見ていなければ
我が家に住まうリトルボスの
しょんぼり落胆しながら、司馬ちゃんの使っている鞄を探す。
「クマのキーホルダーがついているのが司馬ちゃんの鞄だ、探せ!」
「分かっておるわい。というか……下僕1号、覆面はどうしたのじゃ?」
「洗濯中だ、気にすんな」
「気にするわい。何でもいいから顔を隠せ、このアンポンタン! 身バレするじゃろうが」
「チッ、わかったよ」
そう言って、そこらへんに落ちていた誰のモノか分からない妙にエロいブルマ型のユニフォームを手に取って顔に被る。
「これで文句ないだろ?」
「逆に文句しかないんじゃけど? どこの変態仮面じゃキサマは?」
「呼んだかい、お嬢ちゃん?」
「呼んどらんっ! 引っこんどれ、変態がっ!」
なんて無駄口を叩きながらも、手は淀みなく司馬ちゃんの鞄を探すべく動き回る。
どこだ、どこにあるんだ司馬ちゃんの鞄!
と、俺が若干焦りを覚えていると、うさみんの方から「あった!」という声が部屋中に響き渡った。
「あったぞい鞄!」
「でかした! たまには役に立つじゃないかパツキン!」
「ほんと一言余計な男じゃのう、キサマはっ!?」
うさみんは迅速かつ丁寧な動きで、持ってきていた司馬ちゃんのパンティーを鞄の中に忍び込ませる。
そのまま鞄をもとの位置に戻して……。
「これでミッション完了じゃ!」
「よし、はやくズラかるぞ!」
「いや
デビルイヤーは地獄耳よろしく、変態仮面の鍛え抜かれた聴覚が、こちらに向かってくる1つの足音を捉えたらしい。
すぐさま俺とロリ巨乳に「身を隠せ!」と小声で叫びながら、近くにあったロッカーへと身を隠す変態仮面。
それに
……何故か一緒のロッカーへと。
「バカ、おまえっ!? なんでこんなにたくさんロッカーがあるのに、同じロッカーに入ってくるんだよ!?」
「ハッ!? し、しまった!? ついワガハイらしくもなく気が動転してっ!?」
ワタワタと急いでロッカーから出ようとするうさみんだったが。
――ガチャリッ。
と、女子更衣室のドアノブが回った。
「ッ!?」
「へっ? うにゃっ!? げ、下僕1号!?」
瞬間「なにをっ!?」と声を荒げるうさみんを無視して、彼女の華奢な身体をガバッ! と引っ張る。
そのまま「ふぎゃぁぁぁぁ~~~っ!?」と悲鳴をあげるロリ巨乳を、小魚を飲みこむイソギンチャクよろしく、我がロッカーへと引きずり込んだ。
「いやぁぁぁぁ~~っ!? 犯されるぅぅぅぅ~っ!?!?」
「ええいっ、変な声を出すなっ! 異常な性癖に目覚めるだろうがっ!」
高鳴る心臓と共に、俺が芽生えかけた新たなる性癖の扉とロッカーを閉めると、間髪入れずに女子更衣室の扉がギィッ、と開いた。
「……あれ? 開いている? 誰か鍵を閉め忘れたんすかねぇ?」
そう言って扉から現れたのは、陸上競技用のスポーツウェアに身を包んだ我が親友のガールフレンド(ガチ)の司馬葵ちゃんその人であった。
お、おまえかい!? と心の中でツッコミを入れつつ、息を殺して司馬ちゃんが立ち去るのを待つ。
司馬ちゃんは汚部屋と化した更衣室の中から、何かを探しだすような動きで辺りをキョロキョロと見渡す。
「うーん? 無いっすね……もしかしてロッカーの中っすかねぇ?」
「「ッ!?」」
ひぅっ!? と声をあげそうになるうさみんの口を片手で塞ぐ。
手のひら越しに感じる、ふにゅふにゅプニプニとした、やたらと柔らかい触り心地のイイ彼女の唇の感触が妙にクセになりそうだった。
おまけに身長差があるせいで、うさみんのお胸が出来立てのお餅よろしく、俺の股間のグングニルに押し付けられて、むにむにと変幻自在にその姿を変えて……おっとぉ?
(……? ……ッッ!? ~~~~~~っっ!?!?)
胸に違和感を覚えたらしいうさみんが、俺の下半身に視線をやり――パニックに
彼女の視線の先、そこには……『コンニチハッ!』と元気に挨拶する礼儀正しい我が息子の姿があった。
うん、まぁしょうがないよね?
だって女の子の甘い匂いが充満するロッカーの中で、全力おっぱいタッチとあっちゃ、どんだけシリアスをぶっこもうが、もう股間は独立愚連隊が如く硬くそそり
何なら指先で弾いた瞬間に『キィーン……』という甲高い音が鳴って、うさみんが『いい音……』とか言いながら頬ずりしてきそうなレベルで硬くなっとりますわ。
……どこの風の谷の少女かな?
(うさみん落ち着け! そんなに暴れると司馬ちゃんにバレるぞっ!? ――って、うん? なんだコレ?)
下半身のヤンチャボーイをうさみんの胸に押し付けていた俺は、ロッカーの中でとある体操服を発見した。
そこには胸元に大きく「司馬」と書かれていて。
「……Oh」
膝から崩れ落ちるかと思った。
こ、ここってまさか!?
俺が理解するのと同時に、ガチャッ、と俺たちの入っていたロッカーがゆっくりと開かれた。
「「…………」」
無言で見つめ合う、俺とうさみんと司馬ちゃん。
さあ想像してごらん?
自分のロッカーを開けたら、謎の全身黒タイツの男がブルマを顔に被って荒い呼吸を繰り返しながら、同じく全身黒タイツの謎の女を抱きしめている光景を。
うん、確実に事案発生案件だね。
俺なら迷わず通報している。
俺たちをガン見したまま、ピクリとも動かない司馬ちゃん。
そんな司馬ちゃんに、俺とうさみんは1度だけお互いの顔を見合わせながら、苦笑するように小さく微笑んだ。
そして固まる司馬ちゃんに向かって、2人仲良く笑顔で口をひらいた。
「「やぁ! ぼくミ●キ――(中断)」」
昨日ぶりに地獄の鬼ごっこが再開された。
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