第27話 この心やさしき愚か者に祝福を
倉庫に飛び込むなり、いきなり鹿目ちゃんが男に押し倒されていてビビった。
ビビりすぎたので、つい勢い余って鹿目ちゃんに覆いかぶさっている男を蹴飛ばしてしまったが、大丈夫だろうか?
まあ、身体も小刻みに痙攣しているし大丈夫だろう、と自分を無理やり納得させ残りの男共の数を確認する。
ひぃ、ふぅ、みぃ……3人か。
「ど、どうしてセンパイがここに……?」
「ちょっと待ってな。すぐ終わらせてくるからよ」
「へっ?」
呆けた声をあげる鹿目ちゃんの脇を通り過ぎるなり、3人の男のうちの1人が怒声を上げながら突っ込んできた。
「行くぜ、三下。格の違いを見せてやる」
「ふざけんじゃねぇぞ、ゴラッ!?」
と振りあげた拳を紙一重で躱し、左のレバーに拳を叩きこむ。
そして痛みで顔が前に出て来たところを右足の上段回し蹴りで蹴り飛ばす。
地面に倒れ込む男と入れ替わるようにもう1人が拳を振り抜いてきた。
それを鼻先寸前で躱し切り、左の下段蹴りを放つ。
体勢が崩れたところで再び右の上段回し蹴りを男の側頭部に叩きこむ。
男が膝から崩れ落ちるのを確認し、最後に残った1人を睨みつける。
「テメェで最後だ」
「うぐっ!? なんだコイツ!? マジ
俺に睨まれて体が
その隙を縫うように、とっつぁんメガネが鹿目ちゃんのもとまで駆けだした。
「ま、窓花! だ、大丈夫だったか!?」
「う、うんワタシは大丈夫……でもどうして大神センパイがここに?」
「そんなのいいから、今は逃げるのが先だ!」
「ま、待ってダイちゃん……こ、腰が抜けて立てないの」
2人のやりとりを耳にしながら、1歩男との距離を詰める。
その瞬間、男がツバを吐き散らしながら、脅すように俺に向かって言った。
「お、おまえ、俺らがクズ高だって分かって手ぇ出してんのか!? こんなことして……2度とこの町を歩けると思うなよ!? 必ず俺らの仲間がおまえに報復するからな!」
「やってみろや。俺は森高の大神士狼だ。テメェらがどこのどいつかなんざは知らねぇが、俺の
ドンッ、と男の
激しく咳き込みながらその場でうずくまる男の髪を掴んで持ち上げる。
そのまま吐息がかかりそうなほど男に顔を近づけると、俺は念押しするように口をひらいた。
「いいかよく聞けよ? もし今度、俺のダチに手を出したら、その面で2度とこの町を歩けないようにしてやるからな。わかったか? わかったなら返事は!?」
「わ、分かった……もうコイツらには近づかねぇよ。だ、だからもう勘弁してくれ……ください……」
言質を取ることが出来た俺は、男の髪の毛から手を離してやった。
そんな光景を見てとっつぁんメガネが「すげぇ……」と小さく声を漏らす。
俺は転がっている男共の屍を無視して、鹿目ちゃんたちの方まで歩み寄ると、俺にビビっているとっつぁんメガネに向かって1つだけ忠告してやった。
「おい兄ちゃん。こういう奴らはな、1度でも美味しい思いをすると際限なく調子に乗るから、
「は、はい! き、肝に銘じておきますっ!」
「大神センパイ……どうして? どうして助けに来てくれたんですか? わ、ワタシ、あんなに酷いことしたのに……」
気がつくと、鹿目ちゃんはポロポロと涙を流していた。
「泣かないでくれよ鹿目ちゃん……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……ワタシ、ワタシ……っ!」
「いいんだよ別に。こういうことは慣れたもんだからさ」
それに、と満面の笑みを浮かべて俺は彼女に言ってやった。
「惚れた女の好きな男くらい、守ってやるのが男ってもんだろ?」
「――ッ! あ、ありがとう……ございます……っ!」
泣きじゃくる鹿目ちゃん。俺はその隣にいるとっつぁんメガネに目線だけで語りかける。
あとはおまえの役目だぜ?
俺の意図を汲んだのか、とっつぁんメガネはコクンと小さく頷くと、鹿目ちゃんの震える肩をそっと抱きしめた。
そんな2人を尻目に「じゃあな」と短く別れの言葉を告げ、倉庫を後にする。
夏空の下、俺は俺の帰りを待っている仲間のもとへと歩き出す。
愛しき人に背を向けて。
今度こそ、本当にさようなら、鹿目ちゃん。
……俺の大切だった人。
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