第2話 童貞をシャブ漬け戦略

「ダメよ洋子? 女の子がそう簡単に男の子の前で肌を見せちゃ?」

「うぅ、ごめんメイちゃん。ちょっと油断しちゃった……」

「気をつけなさいよ? 切り札は『ここぞっ!』ってときに使わないと。肌を見せない女優は、映画とかでちょっと肌を見せるだけで話題になるんだから」

「あぁ~、確かに。限定何個ぉ~、とかの方が価値があるように感じるもんね」

「分かってるじゃない。いい洋子? パンチラもそうだけど、好きな人の前でその人にだけチラッと見せて、彼の視線を奪ってからこうよっ! 『んもうっ! ……えっち』。これで十中八九、大体の男が恋に落ちるわ。もちろんこの際、頬を赤く染め、上目使いで恥ずかしそうに睨むのを忘れちゃダメよ?」

「ほぇ~、流石はメイちゃん。物知りだなぁ~」

「あの? 男の俺の前で女の広辞苑を引くの止めてくんない?」



 芽衣からのお仕置きのファーストブリットが俺の頬を貫いて15分後の生徒会室にて。


 ゴミのように床に転がり意識を失っていた俺が目を覚ますと、体操服姿に着替え終わった古羊と制服姿の芽衣が、夢も希望もないガールズトークに華を咲かせていた。



「あら起きたの士狼? おはよう」

「あっ、ししょーっ! さっきはその……ごめんね? お見苦しいモノをお見せしちゃったみたいで」



 相変わらず自分に自信がないらしい古羊が恥ずかしそうにモジモジしつつ、申し訳なさそうに俺に謝ってきた。


 おいおい、現役JKの生着替えを拝謁はいえつさせてもらえたあげく、謝罪までしてもらちゃったよ俺。


 もう古羊がただの天使にしか見えないよ。


 ここまで人がいいと、お兄ちゃん、ちょっと心配になるなぁ。



「古羊よ、おまえはもっと自分の魅力を自覚するべきだ」

「ぼ、ボクの魅力……っ?」

「そうだ。いいか? おまえの身体は歩くバイオ兵器なんだから、もっと自分に自信を持て」

「歩くバイオ兵器ってなに!? 意味分かんないよ!?」

「……そうね、洋子には意味分かんないでしょうねぇ」

「な、なんでそこでボクを睨むのメイちゃん?」



 持たざる者Aカップひがみに満ちた視線にたじたじしつつ、古羊が場をリセットするように声を張り上げた。



「と、ところでっ! きょ、今日の生徒会活動はどうしよっか?」

「そうねぇ、一応集まって貰ったけど……ぶっちゃけ今日はやることが無いわ」

「ってことは解散か?」

「というコトになるわねぇ」



 芽衣がコクリッ、と小さく頷くのと同時に、古羊が「あっ! だ、だったらさ!」と俺の顔を見ながら上ずった声をあげた。



「じ、時間も余ってることだし、駅前の方までお出かけしない? そのぉ、ボクの男性恐怖症克服のトレーニングも兼ねて、ね?」



 どうかな? と不安そうな瞳を揺らしながら、ねだるような視線を俺によこしてくる古羊。


 まったく、ここに居るのが英国紳士も裸足で逃げ出すような理性の化け物である俺じゃなければ、今頃その唇を奪って末永く幸せに暮らしている所だぞ?


 もちろん女の子にここまで言わせて断るような、軟弱ヘタレ無個性なろう主人公ではない俺は2つ返事でOKを出そうと……。



「いいぜ、そんじゃま今日はこのままデートへと洒落しゃれこみ――」

「ダメ。絶対ダメ」



 ――するのだが、何故かそれよりも早く我らが女神さまが不機嫌そうに口をひらいた。


 その湿った瞳はどこか俺を責めているようにジトッとしていて……えっ? 


 なんでそんな不満気な瞳で俺を見るの? 怖いんですけど?


 そう思ったのは俺だけではないらしく、古羊も怪訝そうな表情で「メイちゃん……?」とハリボテおっぱいの名前を口にした。


 俺たち2人の視線をその身で受け止めた会長は、ツツーっと逃げるように視線を明後日の方角へと逃がす。


 そのまま、俺たちの方は一切見ないで、その愛らしい唇がくし立てるようにペラペラと戯言をほざきだした。



「まだ士狼は女の子慣れしていないし、洋子とお出かけなんかしたらデリカシーに欠ける発言をするに決まっているわ。そうなったらまた警察が飛んでくるかもしれないし、ここはもう少し様子を見るのが吉だとアタシは思うのよ。士狼が女の子に完全に慣れるまで、洋子とのお出かけは控えた方がいいかもしれないわね。大丈夫、アタシがキチンと最後まで付き合ってあげるから、ドーンッ! と大船に乗ったつもりでいなさい! いてはそうね、洋子の前にまずがアタシとデートに行きましょうか? いやこれは別に他意なんか何もないわよ? ただ純粋に、士狼のため、引いては洋子のために、仕方なく、ほんとぉぉぉぉぉ~にっ! 仕方なくっ! デートをしてあげるって言ってるの。勘違いすんじゃないわよ、このクズ!」

「すげぇ喋るじゃんコイツ……」

「早口過ぎて聞き取れないよ、メイちゃん……」



 キュルキュルキュルキュルッ! とテープを早回しにしたかのような雑音しか聞き取れなかったよ……。


 なに言ってのか全然分からなかったけど、とりあえず「士狼」と「このクズ!」だけは聞き取れた。


 ……なんで俺、今、罵倒されたの?



「ごほんっ。何でもないわ、忘れなさい2人とも」



 ほんのりと頬を赤く染め、ワザとらしく空咳をする芽衣が、気を取り直したかのように俺たちの方へと向き直る。



「せ、せっかく3人揃っているんだし、たまには3人でどこかに遊びに行かない?」

「『たまに』も何も、いつも3人で居るだろうが」

「うっさいわねぇ、男が細かいことをネチネチと。だからモテないのよ、アンタは」

「ちょっ、やめて? モテない男の心はニトログリセリンより繊細なんだから、もっと優しく扱って? 泣いちゃうよ、俺?」

「めんどくさい男ねぇ~」

「なんだとぉぉぉっ!?」

「まぁまぁししょー落ち着いて、ね? ボクもテスト前に3人でパァーって遊ぶのは賛成かな。でも3人で遊ぶのはいいけど、どこで遊ぶのメイちゃん?」



 俺のガラスで出来たぴゅあぴゅあハートを軽く粉々しながら、芽衣が「ふふんっ♪」とパワフルに鼻で笑った。


 どれくらいパワフルかと言えばWANIMAの歌い出しくらいパワフル。ヤッベ、すっげぇパワフルッ!(ぱわふる♪)



「そんなこと、決まっているでしょ洋子。高校生が3人集まったら、やるコトなんて1つじゃない?」

「なるほど、カードゲームか」

「デュエル・スタンバイッ! ――ってこのB・A・K・A☆」

「ノリいいね、メイちゃん」



 コツンッ、と芽衣に肩をど突かれながら「はて?」と首を傾げる。


 カードゲーム以外となると、もはや3P以外思いつかないんだが?


 おいおい、マジかよ? ランボーもビックリの1人ワンマン・アーミーじゃねぇか。


 大丈夫か俺?


 流石に2人同時攻略はキツいか? 


 いや、若さ溢れる今の俺ならば……イケるっ!


 大丈夫だ、自分を信じろシロウ・オオカミ。


 ピロートークの練習は小学6年生の頃から毎日かかさずやってきたじゃないか。


『ウ●娘をシャブ漬け戦略』という絶妙なるテーマのピロートークを展開しつつ、ロマンティックな雰囲気がだんだんエロティックに変わっていき、そしてそこからまさかの2回戦突入で――よしっ、日本の夜明けは近いなっ!



「ししょー、目がえっちぃよ?」

「HA☆HA☆HA! 気にするな我が弟子よ! ただ今の師匠の目には世界が輝いて見えるだけさ!」

「ほら2人とも、話してないでさっさと行くわよ?」



 気がつくと芽衣は自分の荷物を持って扉の前へと移動していた。


 この女、ヤる気満々である。


 もはや交尾まで秒読みだ。


 マズイなぁ、このままだとホテルへ突入と同時に夜の体育祭が開催しかねないぞ?


 本来であれば入室と同時にお風呂に突貫し、女神が沐浴もくよくするかのごとく全身の汚れという汚れを洗い落とす所なのだが……まぁそんなアンタッチャブルぶりも嫌いじゃないぜ?



「ま、待ってよメイちゃ~んっ!?」

「あぁ……今イクよ」



 にっ……ちゃり、と爽やかな笑みを浮かべながら古羊と共に荷物を持って歩きだす。


 約束された勝利の剣エクスカ●バーで股間をふっくらさせながら。

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