第10話 (僕のお股が)タイプ:ワイルド
よく面倒事に巻き込まれるときは『巨乳が貧乳を慰める時くらい面倒なコトになる』という慣用句が
俺個人の意見としては『オッパイに貴賤なし』、巨乳も貧乳も、みなすべからく平等であると考えている。
が、昨今の食生活の欧米化による影響か、街を歩いていてもお乳の貧しいレディーを見かけることは少なくなった気がする。
現に日本人女性の平均バストサイズはC~Dカップであるという統計データも出ているらしい。
つまり巨乳が多くなった昨今、貧乳は文字通り「希少価値」が高く、ステータスと言っても差し支えないのだ。
だから貧乳は恥ずかしいことじゃない、胸を張れ貧乳!
と言うことを、この前逮捕された変態仮面がお胸の貧しい羊飼に向かって力説したときに見せた
ほんとあの時は死ぬかと思ったなぁ……変態仮面が。
『ゴメンね貧乳ぅぅぅぅぅっっっ!?!?』と泣き叫ぶ変態仮面の顔面めがけて笑顔で拳を振るう
そんな我がトラウマを再燃させるような笑顔で、何とかアパレルショップの前で俺が出てくるの待っていた警察官を丸めこむ羊飼を尻目に、俺と古羊は逃げるようにお店を後にしていた。
「メイちゃん、大丈夫かなぁ?」
「あの調子なら大丈夫だろ。それよりも、まずは俺たちの身の安全の確保が先決だ。行くぞ古羊っ!」
「う、うんっ!」
古羊の手を引きながら人ごみに紛れるように羊飼たちから急いで距離をとる。
が、そんな俺たちの姿に気がついたのか、どこかで見たことがある警官の1人が「あっ、待ちなさいっ!」と声を張りあげた。
「ヤベェ、バレた!?」
「し、ししょーっ! こっち、こっち! 一旦この雑貨屋さんに入って煙を巻こうよ!」
「OK,ナイスアイディアっ!」
俺と古羊は半ば飛び込むような形で地下街の一角に店を構えている雑貨屋へと足を踏み入れた。
そのまま脇目も振らずに店の奥まで移動して……ポリスメンが追ってこないことを確認するなり、2人してどこからともなくホッと安堵の吐息をこぼした。
「どうやら上手くいったみたいだな」
「ハァ~、よかったぁ。一時はどうなるかと思ったよぉ」
「なっ? あの警察官が『待てぇぇーい、ルパ●ンッ!』とか言い出した時は思わず『あばよ、と●つぁん!』って叫びそうにな、た……あぁっ?」
「??? どうしたの、ししょー?」
不自然に言葉を切った俺を下から
俺が何も言わないのを不思議に思ったのか、古羊は俺の視線を追いかけるように『とある棚』のラインナップへと視線を移した。
「なんだろうコレ? この赤と白のストライプ模様の置物は? インテリアかな、ししょー? ……ししょーっ?」
「……
そこには、ピンク色のコケシや、やたら粘液性のある液体が入ったペットボトル、果ては赤と白色のストライプ模様が眩しい立方体の置物がその存在感をこれでもかと主張していた。
雑貨屋だと思ったぁ?
ざんね~んっ! 『大人のオモチャ』屋さんでしたっ!(まさに外道)
「その様子だと、ししょーはコレが何か知ってるの?」
「さ、さぁ? 皆目見当もつかないなぁ?」
「んん~? そっかぁ……あっ、分かった! 分かったよ、ししょーっ! これ『Present for Lover』って書いてあるから恋人への贈り物だよ、きっと!」
そう言って古羊は赤と白色のストライプ模様の置物を手に取ってシゲシゲと観察し始めた。
その横で、俺は全身からブワッ!? と冷や汗を垂らしながら、必死になって頭を高速回転。
ば、バカな!? なんでここに
お、おかしい。おかしいっ! 何かがおかしいっ!?
俺たちはついさっきまで夏の砂浜で追いかけっこをするバカップルの如く、国家権力と地下街で地獄の鬼ごっこを開催していたハズなのに……それなのにナゼ大人のオモチャ屋さんに瞬間移動を?
ハッ!? まさかどこかに特級呪霊が潜んでいて、俺たちを領域に閉じ込めたのか!?
いやそれは非現実的過ぎる。
もっと現実的かつ堅実的な現象が起こったに違いない。
とすれば、考えられることは1つだ。
――俺たちは、今、スタンド攻撃を受けている!
俺は全身に緊張を
「う~ん? インテリアにしては妙な所に穴が空いているのが気になるなぁ。あっ、でも穴の部分はブニブニしててちょっと気持ちいいかもっ!」
「いいか古羊、落ち着いて聞いてくれ。俺たちは今――」
「ほへっ? どうしたの、ししょー? って、うわっ!?」
そう言って俺の方へと視線を切った古羊の指先は、
――ズボッ!
と、吸い込まれるように試供品の07ホールの穴へと突っ込んでいた。
………………これはもう完全にアウトなのでは?
「うわっ!? この中、柔らかくてウネウネしてておもしろ~いっ! ししょーも触ってみる? すっごい気持ちいいよっ!」
「…………」
キャッキャしながら、
彼女が真実を知ってしまったら、一体どうなってしまうのだろうか?
もう絶対にバレるワケにはいかなくなった。
というかチミ、いつまで07ホールと
瞳をキラキラさせ、グニグニ、グチュグチュと試供品の穴を弄る古羊の指先に、脳内でき●いろモザイクをかける。
その間にも彼女になんて声をかけるべきか、幾千万語のボキャブラリーの中から急いで
「どうしたの、ししょー? 汗、凄いよ? 大丈夫?」
「さっきまで大丈夫だったけど、今、大丈夫じゃなくなったかな」
「ほへっ? それってどういう意味?」
「ッ!? い、いやぁ、ココちょっと暑くってさぁ! 汗が止まらねぇやっ! 冷房が弱いのかなっ!」
「んん~っ?」
なんちゃってギャルは
「……なんだかししょー、おかしくないかな?」
「お、俺がおかしいのはいつもの事だろ!?」
「そうなんだけど、何ていうか今日はいつもより輪をかけておかしいっていうか……あっ! も、もしかしてししょーも緊張してる? その、ふ、2人っきりのお出かけに……」
後半になるにつれて顔を赤くして、モゴモゴと小声になる古羊。
声が小さすぎて聞こえないよハニー……。
しょうがないので聞き返そうとした矢先。
――ピピピピピッ!
俺のポケットの中に入れていたスマホが雄叫びをあげ始めた。
「わ、ワリィ古羊。着信が入った。ちょっと待っててくれ」
「う、うん」
俺は「スマンな」と断りを入れつつ、コレ幸いと言わんばかりに古羊に背中を見せ、スマホを取り出した。
よし、落ち着け。
大丈夫、なんとかなる。
だからまずは落ち着いて電話に出よう。
自己催眠をかけるように何度も心の中で「大丈夫」と言い含めながら、俺はスマホの画面に視線を落とし、
『着信者:羊飼芽衣』
逃げ場などなかった。
「…………」
待てど暮らせどコールが鳴りやまない。
留守電になる瞬間、一瞬だけ途切れてはすぐさま鬼のように再コールが始まる。
ヤダなぁ……出たくないなぁ……。
「ししょー? 電話、出ないの?」
「……今出るよ」
我が1番弟子に
途端にスマホのスピーカーから我らがビック・ボスの酷くご機嫌ナナメな声が鼓膜を震わせた。
『大神くん、アタシよ』
「ぶ、無事だったか羊飼っ! 心配したんだぞっ! 大丈夫だったか? ちゃんと警察は
『そんな事はもうどうでもいいわ。……ねぇ大神くん? アタシ、今、ひっじょ~~~に機嫌が悪いの』
えぇ、それはもう出る前から分かっていましたよ?
『なんでか分かる?』
ここで『どうした? あの日か?』とか言えるような器のデケェ男になりてぇなぁ。
もちろんそんなコトは口が裂けても言えないので、お茶を濁す言葉が唇からまろび出た。
「さ、さぁ? 何でだろうねぇ?」
『そう、分からないの。なら答えを教えてあげるわね』
そう言って羊飼は至極上機嫌な口調で。
『店・か・ら・出・ろ・カ・ス♪』
「イエス・ボスッ!」
ブツンッ! と通話が切れた瞬間、俺はこの場をエスケープするべく隣に居るハズの古羊に視線を向け――ってぇ!?
「居ねぇ!? 古羊が居ねぇ!?」
俺の横で大人のオモチャを弄りまわしていた古羊がいつの間にか姿を消していた。
ど、どこへ行ったあのなんちゃって爆乳ギャルッ!?
俺は慌てて彼女を探すべく、キョロキョロと辺りを見渡すと……居た。
なんかレジカウンターの前に居た。
なんちゃって子犬系ギャルはレジの前でなにやら野口英世さんを人身売買していた。
おいおい、いつの間にあんな所に……。
なんだアイツ、曲者か? それとも伊賀の者か?
古羊のステルス能力に感心していると、清算が終わったのか、黒いレジ袋に入った『何か』を持って、ぽてぽてとコチラに戻ってきた。
「あっ、ごめんねししょー、待たせちゃって? 電話は終わったの? 誰からだったの?」
「ちょっとしたPTAからだよ。それよりも古羊よ、何買ったんだおまえ?」
俺が古羊の持っていたレジ袋を指さすと、彼女は「えへへっ」とちょっと照れたような笑顔で、
「はいコレ、ボクからししょーへのお礼の品っ!」
「お、お礼の品?」
「うんっ! その、メイちゃんやボクの特訓の都合に合わせてくれてるお礼。いつもありがとうね、ししょーっ!」
はい、どうぞ! とニコニコ満面の笑みで俺にレジ袋を手渡してくる爆乳ギャル。
う、生まれて初めて女の子からプレゼントを貰っちゃった……。
ヤベェ、泣きそうだっ。
俺は素直にソレを受け取りながら、ほっこりした気分で古羊にお礼の言葉を送った。
「あ、ありがとう。大切にするわ。というか家宝にするわ、コレ」
「ししょーは大げさだなぁ」
満更でもない様子の古羊に、ついつい口元に笑みが
何やかんや言いながらも、やっぱり俺の1番弟子は超カワイイ。最高だ。
大神士狼を16年やってきたが、こんな素朴でイイ
なんせ俺の近くに居る女どもと言えば、笑顔で拳を振るうクラスメイトに、爆笑しながら弟にドロップキックをブチかましてくる実姉、そして可愛い息子を愛車でワントラップするママンと、もはや世紀末救世主伝説の幕開けを予感する連中しか居なかった。
だから、俺の周りには居ないタイプの女の子を前にすると、どうしても心が惹かれてしまい……うん。
もう一言で言って結婚したい。
ソレがダメなら犬になりたい。
俺は愛しさと切なさと心強さが爆発している表情を見られるのが嫌で、誤魔化すようにレジ袋に手を突っ込んだ。
コツンッ、と指先に硬い感触が返ってくるソレをゆっくりとレジ袋から取り出す。
「本当にありがとうな。絶対に大切にするから、コレ」
と、もう1度彼女にお礼の言葉を伝えながら、俺はプレゼントに視線を落とした。
そこには赤と白色のストライプ模様が眩しい例のアレが握られていた。
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