第121話 お誘い
リリスとの初コラボも無事に終了して、数日が経過した。
今は夏休み中のため大学へ行く必要のない俺は。毎日昼過ぎに起きては夜中まで配信する生活を送っている。
まぁ配信と言っても、ゲームで遊ぶ延長でもあるため、次の日に何もないという安心感からついつい夜中遅くまで配信を続けてしまうのである。
「ちょっとは改めないとだよなぁ……」
今日も昼過ぎに目覚めた俺は、寝ぐせで髪がボサボサになった姿を鏡で見ながら戒めるように呟く。
せっかくの大学生になって初の夏休み、こんな毎日を送っていていいのかと――。
来週はいよいよハヤトの別荘へ遊びに行く予定もあるし、何も計画がないわけでもないのだが、それでもこのルーティーンと化している日々の消費の仕方は不味い気がするのであった。
「今日ぐらい、出掛けてみるかなぁ……」
とは言っても、別に行きたい場所はない。
一人で出来ることなんて限られているため、結局気付けば夕方になってしまい、結果そのまま家を出ることなく引きこもってしまうのである。
「誰かを誘ってみる、とか?」
俺は歯を磨きながら、じゃあ誰を誘うかを考えてみる。
俺に誘える相手なんて、メンバーのみんなか梨々花ぐらいだろう。
しかし、ハヤト以外は全員女性なわけで、何もないのに遊びに誘うのはデートに誘うこととほぼ同義。
そう意識してしまうと、中々もう一歩踏み込むことができなかった。
――じゃあ、ハヤトを誘う?
思えば、ハヤトと二人で出掛けることなんて過去にあっただろうか?
唯一の男性メンバーではあるものの、はっきりいってハヤトのプライベートは結構謎なのである。
まぁそれは、音楽家としての活動もあるだろうし、日々忙しくしているからというのもある。
それにハヤト自身、集まることがあれば親しく接してくれるものの、それ以外だと向こうから連絡をくれることなどは全くないのだ。
ただまぁ、連絡しないのはお互い様。
これまで勝手に忙しいと思っていたのだが、もしかしたら時間はあるのかもしれない。
そう思った俺は、考えるより先にとりあえずハヤトに連絡してみることにした。
『おつかれさま』
俺はハヤトに、個別チャットで挨拶を送ってみる。
思えば、こうしてハヤトと個別でチャットするのなんて半年ぶりだった。
ちなみに前は、地元からこっちへ来る時に迎えに来て貰った時以来だ。
そう思い返すと、なんやかんやハヤトはいつも俺のことを支えてくれていたことに気付く。
唯一の男性メンバーなこともあり、この慣れない都会での移動方法などは、いつもハヤトが先にサポートしてくれていた。
だからこそ、これまであまり連絡していなかったことに少し申し訳なさみたいなものを感じてしまう。
『おつかれさま! 珍しいね、何かあったかい?』
すると、ハヤトはすぐに返事をくれた。
こんなにも早く返ってくるとは思わなかった俺は、自分から送っておいてちょっと驚いてしまう。
そして俺は、自分からこうしてチャットしてみたものの、ここからハヤトを何にどう誘えばいいのかが分からなかった。
しかし、自分から送ってしまった手前、何か返さなければならない。
『いや、今何してるのかなって思って』
結果、俺は素直に思っていたことをチャットする。
深い理由なんてない、本当に気まぐれのチャットだと。
『午前中はバタバタしていたけど、午後は暇ができたからゆっくりしていたところだよ』
なるほど、どうやらタイミングは良かったようだ。
だから俺は、ちょっと緊張しつつもそんなハヤトを誘ってみることにした。
『そうか。いやさ、俺もこっちに引っ越してきてから、こうしてハヤトと二人で連絡したことなかったなって思ってさ。だから、急だけど暇ならちょっと会わないかと思って』
『分かった! すぐに出れるよ!』
送ってすぐ、返ってくる返信。
『どこで会う? どこでも行くよ!』
『なんなら、こっちで探そうか?』
プルルルルル――。
立て続けにチャットが返ってきたかと思えば、鳴り出す電話。
スマホを見れば、それはやっぱりハヤトからの着信だった。
「も、もしもし?」
「やぁ、アーサー! 誘ってくれて嬉しいよ!」
「それはどうも」
「アーサーから連絡くるなんて珍しいと思ったけど、いやぁ嬉しいなー!」
言葉どおり、嬉しさ全開なハヤトのテンションに、自分から連絡したものの少しついていけなくなってしまう。
「そ、それでさ――」
「そうだアーサー! ちょうどアーサーの住んでいる近くに良いカフェがあるんだ! そこへ行かないかい?」
「え? あ、ああ、じゃあそこで――」
「よし、決まりだ! じゃあ、お店の住所を送っておくから、今から三十分後に集合でいいかな?」
「お、おう」
「じゃあ決まりだね! 今から急いで支度して向かうから、後ほど! それじゃ!」
ツーツーツー。
こちらが話す隙もなく、嵐のように過ぎ去っていったハヤトとの電話。
続けてお店の住所が送られてくると、たしかにそこはうちから割と近いところにあるお店のようだ。
こうして俺は、自分から誘ったはずなのに、あれよあれよと時間と場所が決定し、これからハヤトと会うことに決まったのであった。
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