第72話 二人目

「じゃあ、アユムにも質問な」


 そう言って俺は、ハヤトの時と同じように質問を読み上げる。


「どんときたまえ」

「はいよ。えーっと、じゃあまずはこれにしようかな。二番の――今日は何してた?」

「今日? ああ、さっきまでアーサーのアーカイブ動画見てたよ」

「おい、まさかお前も俺か……?」

「いやいや、そんなこと言われても本当のことなんだから、しょうがないじゃん」


 まぁ、そう言われてしまっては俺も何も言い返せなかった……。

 しかし、ハヤトに続いてアユムまでも俺の名前を出してくるとは思わなかった。


「ちなみに、何の動画見てたんだ?」

「この間の歌枠だよ」

「おい、やめてくれ」

「なんでよ、上手だったじゃん」


 まさかの歌枠という答えに、恥ずかしくなって慌てる俺。

 それに対してアユムは、別にいいじゃんと楽しそうに笑いだす。

 そんな、オフと全く変わらない俺達のやり取りに、コメント欄は『てぇててぇ』と盛り上がりをみせていた。


「アーサーってさ、女性ボーカルの曲を歌うといいよねー。高音が綺麗っていうか」

「も、もういいって! 次いくぞ! じゃあ、六番の――最近あった楽しかったことは?」

「恥ずかしがっちゃって、かーわいいー。で、楽しかったこと? うーん、そうだなぁ……あっ! この間アーサーがさ、わたしが何配信するか困ってる時にゲーム教えてくれたじゃん? あれ、すごく楽しかったよありがとね!」

「ああ、そんなこともあったっけ。あれ面白かっただろ? 楽しんで貰えたなら良かったよ」

「うん、最高だったよ!」


 それは良かったと思いつつ、俺達はしばらくそのゲームの話題で盛り上がった。

 しかし、思えばまたしても出てきたのは俺に関係のある話だった。

 何だろう、もしかして今日はみんな、俺の話しかしない縛りでもしているのだろうか……。


 そしてゲームの話題も落ち着いたところで、俺はアユムに最後の質問をすることにした。


「よし、じゃあ次で最後の質問な? そうだな、これはこの凸に来た人全員に聞くことにしようかな。十三番の――好きな異性のタイプは?」


 どうせだから、この質問はリスナーのみんなにも需要がありそうだし、俺はちょっとした悪戯心で全員に聞いていくことにした。

 ハヤトに続いてアユムにも、最後は好きなタイプを語ってもらおうじゃないかと――。


「げっ! それ、わたしにも聞くの?」

「もちろん! たった今、凸に来た人全員に聞くことに決めたから」

「うー……苦手なんだよ、こういう話は……」


 珍しく恥ずかしがるアユム。

 そんな、滅多に聞けない恥ずかしがるアユムの言葉に、コメント欄も『かわいい』と盛り上がりをみせていた。


「……まぁ、アーサーみたいなタイプがいいんじゃないかな?」


 そして少し悩んだ結果、恥ずかしそうにアユムもまた、俺の名前を出してくるのであった――。


「いや、そういう天丼的な笑いはいらないぞ……?」

「でも、コメント欄はウケてるじゃん」

「そういう問題じゃなくて、ここは真面目にアユムのタイプを答えた方がだな――」

「あー、なるほどね? でも、その場合も答えは変わらないよ」

「え?」

「アーサーは男として頼りになるし、わたし的に結構良い感じだと思うよ」


 アユムのその言葉に、コメント欄も『たしかに』というコメントで埋められていく。

 こうして、ハヤトに続いてアユムまでも、異性のタイプに俺をあげてくるのであった――。


「……そ、そうか。まぁ、ありがとな」

「うむ。もっと感謝したまえ。――じゃ、これで最後でしょ! 配信頑張ってねー」


 そう言ってアユムは、通話から抜けて行った。

 一人残された俺は、まだちょっと恥ずかしさが抜けないでいた。


 ピコン――!


「来てやったぞ」


 そしてまた、間髪入れずに次の凸者がやってくる。


「はいよ、じゃあ自己紹介」

「おう、ネクロだ。ピースピース」


 未だかつてない、その雑すぎる自己紹介。

 三番目に現れたのは、またしても同じFIVE ELEMENTSのメンバーである恐山ネクロだった。


 そんな、このVtuber界きってのレアキャラの登場に、またしてもコメント欄は大盛り上がりをみせるのであった。


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