第71話 トークデッキ
「じゃ、早速だけど、来てくれたハヤトに質問です」
そう言って俺は、画面に質問一覧を表示させる。
やはりこういう企画には、事前に話すネタを用意しておくと何かと便利なので、よくこの界隈では『トークデッキ』と呼ばれる会話のネタ一覧を用意しておいたのだ。
「うん、何だい?」
「じゃあまずは、五番の――最近あった嬉しかったことは?」
「それはもちろん、この間アーサーに会えたことさ!」
俺の質問に、即答してくるハヤト。
そして、ハヤトの回答によりまた一気に加速していくコメント欄――。
「……いや、ちなみに理由を聞いてもいいか?」
「そんなの決まっているじゃないか! 僕がアーサーのことが大好きだからさ!」
「そ、そうか」
「そうさっ! ははは!」
「……質問がちょっと悪かったかなぁー。じゃあこれ、八番の――最近よく聴く音楽とかある?」
「この間アーサーがアップした歌ってみた動画! いやぁ、あれは最高だね! 原曲も素晴らしいんだけど、アーサーのその声に凄く合っていて、一つの完成形だと言えるよ!」
質問を変えるも、またしても即答するハヤト。
その結果、爆速を超えて音速の域に達したコメント欄は、最早目では追えない速度で流れていく――。
「そ、そうか……。なんか、ありがとな」
「おっと、僕はお世辞とか言うのが苦手だから、これはもちろん本心だよ?」
「お、おう……サンキュ……」
そんなにも褒められると、さすがにちょっと恥ずかしくなってくる。
実際に音楽活動もしているハヤトにそう言って貰えるのは、正直ちょっと嬉しい自分もいるのだ……。
そしてコメント欄に目を向ければ、相変わらずの音速で流れていくコメント達――。
「じゃ、じゃあこれが最後の質問な! えっと、それじゃ十三番の――好きな異性のタイプは?」
狙ってかどうかは不明だが、何でも俺に繋げるハヤト。
だから俺は、最後は異性に対する質問を投げかけることにした。
これなら同性の俺は関係ないし、ハヤトのそういう色恋話には一定の需要があるだろうと思いながら――。
「アーサーみたいな子かな!」
うん、もう駄目だこの人……。
全部、俺じゃん……。
まぁエンタメとしてわざと言っているのだろうと思うが、最後の質問も結局俺だと即答するハヤト。
その結果、コメント欄は音速を超えて最早光速に達し、投げられる沢山のスパチャで虹色に彩られていた……。
――もうやだ、リスナーも怖い!
「……ハヤト。一応言っておくが、俺は男だ」
「ははは! もちろん知ってるさ」
「じゃあせめて、出すなら異性の名前をだな……」
「いいかい、アーサー? 好みの人格を語るのに、性別は関係ないと思わないか?」
「そ、それはそうだが……」
「じゃあ、そういうことさ! はっはっはっ!」
「あぁもう、分かったよ……ってことで、一人目は同じFIVE ELEMENTSのハヤトが遊びに来てくれましたー」
「え? もう? ちょっと早くないか!? ――まぁでも、次の人も待っているみたいだし、僕はここで引いておくとしよう。アーサー、また話そう!」
こうして、凸一人目のハヤトは通話から抜けて行った。
一人目からキャラが濃すぎる展開に、俺は一人目にして重たいため息をつく。
しかしコメント欄では、いきなり俺とハヤトの掛け合いが見れたことに高まったと、謎の盛り上がりを見せているのであった。
「あ、もしもーし? 聞こえるー?」
「あ、おう。聞こえるよー」
そして間髪入れずに、二人目の凸者が通話に入ってきた。
「じゃあ、自己紹介頼む」
「はいよー。FIVE ELEMENTS所属の煌木アユムでーす。おっすおっすー」
「いやお前、そんな適当な自己紹介だったか?」
「いいじゃん別に、来てあげたんだから喜びなさいよ」
こうして二人目に現れたのは、またしても同じFIVE ELEMENTSのメンバーであるアユムだった。
そんなアユムの登場に、コメント欄はまた違った盛り上がりをみせる。
『アユムきちゃー!!』
『アユアサはいいぞぉ!』
『この二人の脱力系の絡みは万病に効く』
『てぇてぇ』
どうやら俺達の組み合わせも、結構好きでいてくれているリスナーは多いようだ。
「なになに? アユアサてぇてぇ? ふーん、みんなわたしとアーサーの組み合わせ好きなんだぁ?」
「おいアユム、変なこと言うな」
「別に変じゃないでしょ。Vtuberってのはね、カップリングがあってナンボの世界なのよ」
「Vtuber本人が、そんなメタい発言するな」
俺のツッコミに、コメント欄は笑うコメントで盛り上がりをみせる。
どうやらこういう、俺とアユムのオンオフ関係ない下らないやり取りが、リスナーのみんなからはウケているようだ。
そんなわけで俺は、二人目の凸者であるアユムに対しても、ハヤトの時と同じく準備してあるトークデッキで質問をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます