第4話 ロングボード
しばらく秋子はお地蔵さんになっていた。
スマホの画面に娘からのLINEが来た。
「今日友達とダンス練習になったから晩御飯はいらないです~
帰る時またLINEします」
やっぱり…了解スタンプを娘に送る。
Twitter画面に戻る。
しかし予想外の出来事。
あのロングボードだ。ビックリ。。
彼からのハートマークと今日あの海に彼が居た事に驚いた。
嬉しい。単純にすんごく嬉しい。
もっとあの場所に居れば良かった…
写真を撮っている時に、一瞬跳ね上がった彼のサーフボードを見逃してしまった自分を悔やんだ。しかし、気が付いたとこで何が出来ただろうか…
自分の投稿にリアクションしてくれた彼は
あそこに居た自分を見ただろうか。
彼は写真に写った自分のサーフボードを見て
(ハート)をくれたのだろうか。
彼の投稿に(ハート)を押したいが、今日彼は何も投稿していない…
よし。もう1枚写真を上げて、それには何かコメントも付けてみよう。
そうすれば、またリアクションをもらえるかもしれないと思い、秋子は策を練った。
これで…シメシメだ~
と、その時
あれっ。彼が今さっき投稿したようだ。
写真を見てみる。よーく見てみる。
江ノ島側から富士山方面を写した写真だ。
その浜辺の写真の中にちっちゃくひとり座る女が…
薄紫のパーカーを着た自分だった。
「なんやこれ。」また関西弁が出た。
彼も写真を撮っていたんだ~
「いったれー」
秋子は彼の写真にハートを送った。
誰よりも早くハートマークを押した。
1番だ!
秋子は飲みかけのコーヒーを流しに持って行くと、冷蔵庫からビールをスッポ抜いて、
プシュと開けてグビグビ飲んだ。
今回はコメントを送ろう。
ビールで気合いを入れると、秋子はスマホと向き合った。
「はじめまして。コメント失礼します。
先程は(ハート)ありがとうございます。もしかして今日は鵠沼海岸にいらしたんですか?
写真を拝見したものでww
私は今日初めて鵠沼に行ったんですよ。」
と送ってみた。
スマホを見ながらは、なんか恥ずかしくて
彼からの返信を待っていられないので、テーブルにスマホを置いて、鵠沼の海から運搬してきた砂を掃除機で吸い上げてから、夕食の準備を始めた。
「今日は手抜きで焼きそば!
ビールにも合うし~」
チラチラとスマホを見てみる。
まだ返信はない。
夕食の準備が終わると、秋子はお風呂に入る事にした。潮風でギシギシになった長い髪を洗い、湯に浸かる。
そしていろいろ妄想し始めた。
彼には家庭があるだろうか。
もし、この先、彼に自分の事を打ち明けたらどうなるだろうか。
もし、その後に逢う事になったらどうなるだろうか。
私がバツイチの子持ちだと知ったらどう思うだろうか。
もし…
妄想は尽きない…
切なくも、明らかに今までとは違うワクワクした雰囲気が浴室いっぱいに膨らんだのだった。
風呂から上がりテレビをつける。
まだ彼からの返信はない。
ドライヤーで髪を乾かしながらビールを飲む。定番のスーパードライもいいけど。
ハワイのビールでロングボードってのがあったな…いつだか職場の仲間と北口にあるハワイ料理の店で飲んだ事を思い出す。
今度探して買ってこよう~
スマホが鳴った。
彼からの返信だった!
「はじめまして。こちらこそありがとうございます。はい。今日波乗りしてましたw
初めて来たんですね!湘南の海はどうでしたか~?」
「アカン!」
彼とメッセージでも繋がってしまった。
すかさず返信する秋子。
「そうなんですぬ。サーファー屋さんなんですね。海良かったですよ。鵠沼海岸は素敵なところですね。また行きたいと思いますん。」
メッセージを送ってから気が付いた。
あっ…しまった…
冷静なつもりが動揺している。
ぬ…
サーファー屋さんって…
思いますん。って どっちだよ…
変な人だと思われたかと思い秋子は落ち込んだ。
彼から返信が来た。
「それは良かったですww
是非また来てくださいね。」
優しい。トオル君…
黒縁メガネは海で無くしたのかい?って
送ってやりたかったが。今日はもう返信はやめよう。ハートマークを押して。終わらせた。
彼の投稿した写真に、小さく写り込んだ
自分を見ながら今日の海を思い返した。
来週も行ってみようかな。
「私の鵠沼海岸物語…」
秋子は、ぼそっと口に出した。
今から帰ると美鈴からLINEが来た。
すっと母親に戻ると、秋子は部屋の片付けを始めた。
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