19作目:地獄にて

 地獄【読み:じごく】

 常日頃、人間が置かれている世界のこと。

 多くの人間は地獄に居るという自覚がない。

 楽園を目指す者もいるが、大抵は死んだ方が楽なことに気付く。


(例文)

 あえてこの世を地獄と名付けなかったのは、質の悪いいたずらだと思う。

 初めから知っていれば、変に期待を抱くことも無かったろうに。

「おい、ぼさっとするなよ」

 今日も上司の怒号が飛ぶ。ひたすらに、俺たちは重いものを運ぶ。

「おい、何書いてるんだ?」

 休憩中、上司が俺の手帖に気付く。

「小説ですかね」

「へえ」

 ことわりも入れず、読んでくる。

「へえ、なかなか面白いじゃないか」

 それでも地獄なことに変わりはない。

 それでも死ぬのは億劫だ。

 それでも楽しい地獄にしたくて。

 今日も俺はもの書きをやる。

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