第38話 VS魔人ルオード

「らぁ!!」

「こざかしい!!」


 ガキィン!!

 

 鈍い音が洞窟に響き渡る。

 魔剣と、鋭利な剣に変容されたルオードの腕が激突した。


「ははっ、凄まじい力だ……!!」

「お褒めに預かり、光栄だなぁ!!」


 ギリギリと魔剣とルオードの腕が火花を立てる。

 互いの刃越しに顔を確認する双方だった。


「はああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!!」


 ルオードの叫びと共に、腕を繰り出す速度が上がる。

 それに応じてスパーダも魔剣を振るう速度を上げ応戦した。


 激しい剣戟が繰り出され、それは凡そ一般人が認識できないものになっていた。


「はははは!! 流石魔剣!! 凄まじい権能だ!! あなたのような凡人の身体能力をそこまで向上させるとは……!!」

「権能?」


 聞きなれぬ言葉に思わずつぶやくスパーダだが、本来そんな暇はないはずだった。


『スパーダ!!』

「今!!」

「ぐっ!?」


 だから突かれてしまった。一瞬のその隙を。


『力は制御できるようになったが、燃費が悪いのは変わらん!! さっさと決着を付けろ!!』

「あ、あぁ……!!」


 そうだ。ゼノの言う通り……早めにカタを付けねぇと!!

 

 ゼノの中の魔力が目まぐるしい速度で消費されているのを、彼女と存在がリンクしているスパーダは感じる。タイムリミットが刻一刻と迫っていることを。


「ゼノ……奴の弱点は?」

『知らんわそんなもん!』

「お前の幹部だって言ってたんだから何か知ってんだろ!?」

『そこら辺の記憶はホントに曖昧じゃから分からん!!』


 言葉の応酬を繰り広げるスパーダとゼノ。

 その時だった。


「ゼノ……?」

「ん?」


 突如として、魔人の様子が変わる。


「あなた今……なんと言いましたか?」

「あ……? 何がだよ?」


 ルオードの質問の意図が分からないスパーダは思わずそう聞き返す。

 瞬間、ルオードは歯ぎしりをした。 


「ゼノ……ゼノ……なぜあなたがその名を知っている?」

「あぁ……、まぁ色々あってな」


 この反応……信じてはいたが、ゼノは本当に魔王で確定みたいだな。何か他の生き物とか……そういう訳じゃなさそうだ。


「ふざけるな」

「え?」


 スパーダがゼノの存在を再認識したその時、魔人が静かに言い放つ。

 だがその「静か」は一瞬だった。


「あなたのような塵芥がぁ!! 魔王様の名を口にするなぁぁぁぁぁ!!!!」

「っ!!」


 先ほどまでの冷静さは何処かへ消え、ルオードは激昂しながら叫ぶ。


変異拡散爬グロリアス・マラドーナ!!!」


 瞬間、ルオードの腕がしなやかな触手のように伸びスパーダに迫る。


「くっ!!」


 伸びたルオードの腕と足がスパーダに襲い掛かる。跳躍し回避するが、それらは意思を持つルオードに従って動くため、一度避けただけでは意味がない。

 何度も何度もスパーダに向かい来るのだ。


「らあぁ!!」


 空中で体を捻りながら避け、更に魔剣で伸びて来た触手を切断する。

 

「無駄だ!! 私は人体改造を自身にも施している!! この腕は斬られた程度では止まらない!!」


 ルオードの言葉に反応するように、その触手の切断面から新たな肉が生成され、たちまち腕と足は復元された。


「くっそ……!!」


 駄目だ!! これじゃあいくら戦力を削ごうとしても意味がない!! 

 だけど、これをなんとかしなきゃ奴に近づけない……!!


 スパーダは冷静に状況を分析するが、どうしてもこの触手を何とかせなければならないという結論に辿り着く。


「死ねぇ!!」


 今までの流麗な笑みとは対照的な悪魔のような魔人の笑み。

 すると触手が硬化され、先ほどまでの剣戟で使用していたような刃が、触手全体から生える。

 一撃でも食らったらかなりの損傷を負うだろう。


 状況はより悪化の一途を辿る。

 だが、


「やるしかねぇ……!!」


 すべきことは最初から変わらない。

 どれだけ切迫しようと、どれだけ危険が跳ね上がろうと、やるしかない。


 スパーダは、覚悟を決めた。


「っ!!」


 空中で、スパーダは下から攻撃を繰り出す魔人を見る。

 そして空気を蹴り上げ、一直線に敵へと接近した。


 俺はもうさっきまでとは違う。

 理性を以てこの剣を手にしている。

 それによって得ることの出来たこの魔剣ゼノディーヴァについての知識が、俺に勝機があることを示していた。


「無駄だ!! それでは私に届かない……!!」

「ンなのやってみねぇと分かんねぇだろうがぁぁぁ!!!」


 雄叫びを上げ、相対するスパーダとルオードの双眸。

 互いが確実に敵を仕留めようとする狂気と覚悟の視線の交錯は、存在する二つの命の糸のどちらかをはさみが切断する状況に等しかった。


「っ!!」


 紙一重で致命傷を避けながら攻撃を回避する。それも全て、敵がゼノの件で冷静さを欠けているからこその攻撃のもつれだ。乱れた攻撃は、精密な攻撃よりも回避が容易い。


 強い攻撃性を持つルオードの触手を回避し、魔剣で防いでの接近は概ね成功。

 その距離は三メートルを切った。

 あと少し、あと少し近づけさえすれば、魔剣の攻撃射程に入れることができる!


 生き急ぐようにスパーダが汗を流すが、


「かかりましたね」


 先ほどのように、冷静な口調に戻ったルオードがそう告げる。


 一瞬だった。

 ルオードの腕では無く、胴体から……一本の腕が形成される。

 腕の先端は、剣になっていた。

 更に、その腕は凄まじい速度で振るわれ……


「がっ……!!」


 魔剣を持つスパーダの右腕を、切断した。


「ははははは!! 勝った!! やはり慢心しましたね!! あなたが私にここまで近づけたのは、全て私の演技!! 冷静さを欠くように演じ、あなたをここまで近づけさせ、心の余裕を与えるためのもの!!」

「っ……!!」


 ってぇぇぇぇぇぇ……!!!!


 今までの感じたことのない激痛に俺は悲鳴を上げる余裕もなく顔を歪ませる。

 唇を噛み締め、顔面のパーツを中心に収束させるようにして痛みを紛らわす。


 だが、これでいい。

 全部……作戦通りだ。この誘いに乗ったこと、それが……。


「俺の勝機だ!!」 


 根元から切断された魔剣を持つスパーダの右腕。

 だが吹き飛ぶはずの腕は、その動作を自ら拒否した。

 胴と腕、それぞれから大量噴出する血液がまるで紐のように形を成し、互いに結びつく。


 だから必要なのは、覚悟だった。

 腕の切断、胴体の切断、心臓を貫かれる――――全ての場合を以てしても痛みに耐える、覚悟。


「バカな!? いくら魔剣を使っているとは言え、ただの人間にそこまでの力を引き出せるはずが……!?」


 ルオードはスパーダの回復力に驚愕した。


 魔剣ゼノディーヴァ、その力は使用者の身体能力と回復能力を人智を超えたものとする。


 だがそれは魔人や高位種族が魔剣を使った場合だ!! 彼は人間、しかも先ほどまで魔剣の制御すらできていなかった……!!

 だからこそ私はここまで彼を油断させ、近付けさせた!! 腕を斬れば無効化できると考えたから!! なのに……!!


 あまりにも想定外で計算外の局面に立たされたルオード。

 何か打開策を……刹那の中、思考回路を巡らせ知恵を振り絞るが、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 

『はははは!! やれスパーダ!!』


 時間切れだった。


 血液の紐を互いに手繰り寄せるようにして結合され直した腕。

 結合された瞬間の体勢は、「魔剣を持った右腕を振り上げている」というものだった。

 落下による加速も加わり、スパーダはただ一つの標的に目掛けて剣を振り下ろす。

 全身全霊、今出せる最大出力を。


 魔剣に、人が使う闇魔法とは別種の漆黒の暗澹あんたんが纏われる。


魔王斬對慟デビル・クライスト!!!」

「ぐぅっ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 ゼノの魔力を魔剣に込めて放つ渾身の斬撃は、ルオードの身体を見事に頭から真っ二つに斬り伏せた。




◇◇◇

小話:

三十八話目にしてようやく主人公がちゃんと名前付きの魔法を使えました。良かったです。

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